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リニア工事で井戸の水位低下「大深度」の呪縛にハマるJR東海

 「水を飲む時は、井戸を掘った人を忘れない」。1972年に日中で国交が正常化する時、周恩来首相はこう述べました。中国人は恩義を忘れず、困ったときに受けた支援を後々までおぼえているという意味です。恩義を忘れない人物とは岡崎嘉平太氏。日中の国交が途絶えていた期間、民間交流に力を入れました。岡崎氏は全日本空輸の前身である日本ヘリコプター輸送の社長を務め、世界的な航空会社に育てた功労者でもあります。

井戸を掘った人の恩義は忘れない

 不幸にも井戸の水を枯らしてしまったら、どうなるのか。JR東海は今まさに「井戸の水」で窮地に追い込まれています。リニア中央新幹線のトンネル掘削工事が進む岐阜県瑞浪市で、井戸やため池の14か所で水位の低下が確認されたのです。JR東海の丹羽俊介社長は「掘削工事の影響による可能性が高い」と話し、一時中断を表明。ボーリング調査を行う方針を明らかにしました。

 JR東海は、「大深度」の呪縛にハマっているかのようです。時速500キロで疾走するリニア中央新幹線は、直線を基本にした路線を描くため、大都市や山脈はトンネルを利用して突き抜けます。始発の東京・品川駅は地下に建設され、ここからスタートしますが、山梨、静岡など東海地方では山梨県の富士川水系、静岡県の大井川水系、長野県の天竜川水系を貫く「南アルプストンネル」などを掘削しています。

大深度法は大工事の効率化を可能に

 直線的な路線を建設するという難工事を可能にするのが大深度法です。道路、鉄道など大規模な事業を地権者の承諾や補償無しに効率的に行えるようにするため、2005年5月に施行されました。大深度の定義は「地表面から40メートル」または「建築物の支持地盤上面から10メートル」。地権を全く無視しているわけではありませんが、公共の事業を私有財産権より優先する考え方です。

 JR東海はリニア中央新幹線の工事計画に合わせて地質や地域の自然に与える影響を調べる環境アセスメントを実施していますが、実際の工事が始まれば予想外の事象が多発します。その代表例が静岡県の大井川水系で問題視されている水資源問題でしょう。川勝知事は流域の水資源の維持が明確にならない以上、工事を認められない考えを示し、工事はストップしています。川勝知事は不適切な発言などの理由も加わり辞任しましたが、静岡県内の工事を実行できるかどうかは不明です。

静岡県に続き岐阜県でも水資源問題

 新たに現れたのが岐阜県での井戸の水位低下。リニア中央新幹線の工事問題は静岡県ばかりが注目されていましたが、岐阜県でも影響が出たことで水資源問題を過大に評価していると批判していた向きも慎重にならざるをえないのではないでしょうか。トンネルなどの工事がこれから進行すれば、新たな問題が浮上すると考えるのは当然ですから。

 リニア中央新幹線の工事は、国土交通省が大深度法の濫用を防ぐために設定したガイドラインに従って審査され、大深度法の事業として2018年10月17日に認可されました。国のお墨付きはあります。しかし、計画自体が前例がないほどの大規模なトンネル掘削工事であるうえ、アルプスの地下水脈の流れを大きく変える可能性があるのは事実です。机上の計算と現実が食い違うことを非難する必要はありませんし、最優先すべきことは影響を最小限に抑えることです。

 国交省は静岡県が指摘する水資源流出についてJR東海、有識者らの会議を重ね、解決策を提示していますが、今後も他の地域でも工事の影響を再評価する作業が必要になるでしょう。リニア中央新幹線を原子力発電所計画と同列に考える気持ちは毛頭ありませんが、長い年月を費やして地質や自然への影響を評価した環境アセスメントを繰り返しながらも、今でも地震や活断層の影響について論議が続きます。

地域の住民と一緒に進めて

 JR東海はすでに2037年をめどにした東京・品川—大阪間の全線開通を計画を見直し、27年の品川—名古屋の部分開業を先送りしています。リニア中央新幹線は世界最先端の交通機関です。誰も真似できないでしょう。でも、沿線地域の自然、日常生活を大きく損なう結果となっては元も子もありません。大深度法に頼らず、地域のみなさんと一緒に工事を進める姿勢を守り続けてください。

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