Kawasaki 製造業のNinjaは、カーボンニュートラルを飛び越えられるか
2年間の成果として指摘するのは、まずモーターサイクルの分社化。新製品の開発や生産体制を柔軟に進めたことで過去最高の利益を計上。精密機械やロボットなどもコロナ禍によるPCR検査機の需要取り込み、航空機の回復などを追い風に順調に成長しました。これに伴い航空宇宙事業が安定した需要に支えられ、回復軌道へ。カーボンニュートラル実現に向けた新事業創出を先取りして、水素などエネルギー、モビリティーを開拓し、収益の柱になったと説明します。
グループビジョンを2部構成となっています。最初は、既存の事業分野をいかにより強く変革しているのか。そして2番目はカーボンニュートラル時代に相応しい産業創出に努めているか。今回は既存事業の変革に焦点を合わせます。
オフロード向け四輪車がすごい人気
とても興味深いのはモーターサイクル。もともと二輪車はKawasakiファンを自認するトム・クルーズのみならず高級ブランドとして定着しているだけに、底堅い需要層を抱えています。意外だったのは四輪車の強さ。荒野を走り回るオフロード向け四輪車の北米市場規模は現在の1兆円超から2030年には倍近い2兆円にまで膨れ上がると推計しています。確かに米国のテーマパークに行くと、オフロードツアーが人気です。
カーボンニュートラル時代の自動車産業といえば、電気自動車。オフロード向けの人気ぶりはまるで別世界のようです。全く視界に入っていませんでした。正直、コロンブスの卵のような衝撃です。川崎重工はオフロード向けを生産するメキシコと米国の2工場の能力を倍増する計画です。
もちろん、二輪車の電動化は加速しています。2023年に電気二輪車、24年にはモーターだけでも走行できるハイブリッド車、2030年前半には水素を燃料としたスポーツタイプも投入するそうです。事業全体の名称もモーターサイクル&エンジンからパワースポーツ&エンジンに変更するそうです。パワースポーツというコンセプトを採用するのは、従来の自動車の殻を破り、成長性を感じさせます。
カーボンニュートラルは自動車や航空機による移動から地上の公共交通機関へシフトさせる威力があります。ここでも長年築いた北米の実績を足がかりに交通インフラの整備が進むアジアでの受注増を見込んでいます。鉄道車両は産業革命以来、製造業の粋を集めた機械ですが、カーボンニュートラル実現に向けて新たな交通革命を引き起こすのでしょうか。
医療ロボットや位置情報サービスも注目
得意とする精密機器やロボットは、情報技術をフルに活用して成長力が期待できそうです。医療手術の世界では米国の医療用機器ロボット「ダビンチ」が高い評価を集めていますが、川崎重工も手術支援ロボット「hinotori」をようやく飛翔できる態勢を整えました。過疎地などを対象にした遠隔医療が今後、さらに普及する見込みです。優秀な専門医と連携しながら、手術支援ロボットを駆使して患者さんを治癒する事例が確実に増えます。航空事業の実績に位置情報技術を加えた無人飛行や位置情報サービスにも力を入れる考えです。
社名には重工業という文字がありますが、2030年に向けたビジョンをみていると、人気バイクのNinjaのように軽く鋭いフットワークで難問を飛び越える企業イメージが浮かび上がってきます。果たして、トップガンのように疾走できるのでしょうか。楽しみです。
次回はカーボンニュートラルに向けたエネルギー関連のビジョンをみてみます。