ジャニーズ 経済界の発言力を試す 時流に合わせ「軽さ」も必携、時には的外れも
その衰えはだいぶ以前から実感していました。経団連など日本の経済界を代表する経済団体の発言力です。
土光敏夫さんら昭和の経団連会長には迫力がありました。記者会見にはそれなりの緊張感が漂ったものです。経団連会長の下には国内外で起こっている情報が集まり、十分に咀嚼したうえで発する言葉は重かったのです。取材する側も眼光紙背に徹すを実践しなければ、発言の意図を解読できませんでした。
昭和の経団連は迫力満点だったが
新聞記者にとっては貴重な取材源です。私は自動車や電機、電力などの産業を担当していましたから、経団連会長はじめ財界人と呼ばれる大企業の経営者は僭越にも身近な取材源でした。日本経済の裏情報などを気前良く教えてくれ、記事を執筆するうえで大事な素材を揃えることができました。感謝しています。
残念ながら、最近は経団連など財界のトップが発するオーラが薄れ始めています。発言の伝播力も衰えています。肌でヒシヒシと感じていたからでしょうか。財界トップが相次いでジャニーズ事務所の性加害に関して発言しています。
まずは経団連の十倉雅和会長。10月の定例会見でジャニーズ事務所に関する質問に対し「人権侵害、子どもへの性加害は断じて許されない」と答えるとともに、「これはマスメディアも企業も含めてですけど、そういうことに真正面から向き合っていかなかったということ、これも社会全体で反省する必要があると思います」と持論を披露したそうです。
発言内容に対する批判的な内容がネットで駆け巡りました。ジャニーズ事務所に深く関与していたのはテレビ局や広告会社。発言の趣旨が的をはずしており、社会全体で負う不祥事ではないとの声が広がりました。十倉会長には同情の余地があります。ジャニーズ創業者の性加害に関する知識は、きっとテレビや新聞で伝えられている程度でしょう。十分に理解していると思えませんが、今年最大の話題の一つであり、記者から質問され、経団連としての見識を示さなければ国民から遠い存在になってしまうと心配したのでしょう。
的外れの発言に違和感
ただ、言葉選びが失敗でした。「社会全体で反省する」の裏には、ジャニーズ事務所、テレビ・広告の関係者以外の多くの人もジャニーズ創業者の性加害について知っていたことが前提になります。週刊誌の報道があったとはいえテレビ局のトイレやジャニーズの寮など性被害の現場を知っている人は限られています。
ジャニーズ事務所の所属タレントの広告起用についても言及しています。「日々研さんしているタレントの活躍の機会を奪うのは少し違うのではないか」と救済策の検討の必要性を説いています。経団連が会員企業でもない芸能事務所の経営に事細かく話すのはどうも違和感があります。「そんな違和感に躊躇していては、経団連は注目されなくなる」との反論もありそうですが、経団連があえて熟知していない話題について、詳細に言及する必要があったのでしょうか。
十倉会長は企業経営者の視点から意見を述べ、経団連が高らかに唱えているESG実践の貫徹を訴えるべきでした。不得意な話題だから避けず、経団連会長もジャニーズ問題に関心があるのだという「軽さ」を演出したかったのでしょうが、裏目に出た格好です。
経済団体は正論で存在感を
日本商工会議所の小林健会頭も9月の定例会見で、ジャニーズ事務所の性加害問題に触れ、「社名は継続しない方がいい」と答えています。日商は中小企業を代表する経済団体です。社名の継続かどうかよりも、創業者に対し誰も意見や反論できない中小企業の体質について警鐘を鳴らした方が良かったのではないでしょうか。
ジャニーズ事務所は資本金1000万円。事業規模や内容を考慮すれば大企業並みの扱いがふさわしいのかもしれませんが、法人税法上は中小企事業です。会見で普段は個別企業について言及することはありません。話題の不祥事企業ということもあって小林会頭は所属タレントの広告起用などについても述べたのでしょうが、やはり日商の存在感を世間に訴えたかったのでしょう。
経済同友会の新浪剛史代表幹事は「(性加害を起こした事務所)所属タレントの起用はチャイルド・アビューズ(子供への虐待)を認めることになり、国際的にも非難の的になる」と指摘していました。とても真っ当な意見です。サントリーのトップというよりも、世界経済フォーラムに出席して意見を披露するなど海外の動向に詳しい視点を活かして真髄をズバッと突きました。個人的には、経済団体で最もまともな会見だったと思います。
変貌を迫る思わぬ余波に
酷いのは、新浪氏の個人的な経歴を俎上に載せて批判する記事が出たことです。発言する資格があるのかどうかを問い始めたら、テレビも新聞もジャニーズ事務所問題に触れられなくなります。性被害は最高裁判決で認められている事実です。マスコミが「知らなかった」「考えが及ばなかった」で済む問題ではありません。
これからも経済団体のトップは、自らの組織の存在感を演出するため、ジャニーズ問題以外の話題についても発言していくはずです。時には本音丸出しで、ピントがズレた発言もあるでしょう。批判の声も巻き起こるのでしょうが、それが経団連などがなぜ存続するのかを問うきっかけにもなります。ジャニーズ事務所の性加害問題は、経済団体にも変貌を迫る思わぬ余波を引き起こしたようです。