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キーエンス、ディスコ、日本電産 未来力を見極めるキーワードは求心力

 日本を代表する優良企業の未来力をどう見極めるかに挑んでみます。政府が日本経済の活力を取り戻す源泉としてスタートアップの拡充政策を推し進めていますが、既存の優良企業からも多くのことが学べると考えたからです。優良企業の輝き、それにふさわしい株価は、守成の姿勢だけでは堅持できません。かならず他を圧倒するバイタリティとダイナミズムを発散しているはずです。

 まずはキーエンスとディスコと日本電産の3社を取り上げます。いずれも余計な説明が必要ないピッカピッカの高収益企業です。キーエンスは制御技術を主軸に経営手法の評価はうなぎ上り。2022年3月期決算は売上高が前期比40・3%増の7551億円、営業利益は51・1%増の4180億円、純利益は53・8%増の3033億円。利益率は40%を超えます。かつてのファナックのようです。

日本を代表する優良企業から学ぶこととは

 ディスコは2022年3月期決算で売上高が38・8%増の2537億円、営業利益は72・3%増の915億円、純利益は69・4%増の662億円。こちらは、あのキーエンスも驚く数字が並びます。日本電産は売上高が18・5%増の1兆9182億円、営業利益は7・2%増の1715億円、純利益は12・2増の1369億円。いずれも過去最高を記録する数字が続きます。利益率は7・1%で、キーエンスやディスコに比べて派手さはないですが、それは業種、業況の違いですから大きく注目することはないかと思います。

 この3社の比較を考えたのは、いずれも自動車や電機など世界の製造業を支える役割を果たし、今後も成長力を期待されているからです。一般消費財と違って多くの人の目に触れる機会はほとんどありません。しかし、キーエンスの制御技術による工場の自動化で生産効率は上昇し、ディスコの研磨力で世界的な不足に直面する半導体は生産と技術進歩を続け、日本電産の小型モーターなどでパソコンや自動車はその機能をフルに発揮することができます。この3社が生産停止の状況に追い込まれたら、世界の製造業は大慌てするのは間違いありません。

 当然、3社とも洋々たる未来が待っています。しかし、企業経営に100%はありません。とりわけ人間という不確定な要因が織り込まれると先行きは読み切れません。飛行機の安全性を問われた時、最も事故を招く確率が高いのが人間のミス、ヒューマンエラーといいます。事業内容などの経営分析は多くのメディアで披露されています。

「人間」に合わせて経営の未来を考えてみました

 そこで「人間」に焦点を合わせます。会社に対する忠誠心を測る尺度はさまざまですが、もっともわかりやすいのは年収。キーエンスは平均1700万円を超え、日本でトップクラスです。工場を持たないファブレス経営を掲げる自動制御機器メーカーとはいえ、製造業でこの高水準を達成するのは脱帽するしかありません。

 離職率なども話題になりますが、仕事の業務内容は個人の自由裁量に任されており、それが年収に反映する仕組みになっているのですから、入社時からそれなりの覚悟を持って望んでいるはずです。韓国経済を支えるサムスン電子と同じ社風だと認識していますが、キーエンスの社員も「それなりに働いて定年を迎える」というぬるい気持ちで働いていないでしょう。自身の将来を考え、キャリアパスとしてキーエンスを選ぶ人材が多いはずです。かつての佐川急便も、早朝から深夜まで働き給与は高いけど働いている期間は2、3年という時期がありました。

 給与と自身の力試しが会社に対する忠誠心であり、大きな求心力です。「お金」と「やりがい」を会社に勤め、自分なりに満足して退職する。まるで欧米の会社のようです。ここに強さの秘密を感じます。経営陣に選ばれる人材も同じ競争を経て振るい分けられているのでしょう。

 ディスコはもともとは戦前、大砲の芯を磨く技術をもとに半導体関連の企業に転身しました。といって戦前の香りがするかといえば、全くありません。現在の関家一馬社長は創業家出身ですが、まあ見事に過去のしがらみにとらわれない人です。取締役時代にお会いして結構、お話ししました。仕事柄、数多く経営者にお会いしましたが、とてもユニークな人柄でした。独善とかではないのです。

 広島県呉市という地方都市を拠点にしているためか、生産現場のパートさんのやる気を引き出す施策が素晴らしいのです。TQC(全社的品質管理)などを通じて生産現場のアイデアを引き出して、すぐに生産効率の向上を引き出します。ちょっと前の話題になりますが、ディスコ独自の通貨を設定して社内変革を実践するアイデアと実行力はまさに新時代の経営者です。とても創業家にあぐらをかいた経営者ではありません。

日本電産だけは遠心力が働き始める

 この流れでいけば、直近の日本電産は逆風です。もともと生産現場はなかなか厳しいと言われていました。ブラック企業と呼ばれることもありました。ここ数年は次代の社長に対する厳しい査定が話題の中心になっています。創業者の永守重信さんは生産現場のたたき上げから1兆円を超える企業を育て上げたわけですから、後継者と目されたサラリーマン経営者の「緩さ」に目を瞑っていられなかったのだろうと理解できます。しかし、日本電産の中堅社員の退社が相次いでいるなどのニュースを見ると、カリスマ経営者として多くのファンを持つ永守さん日本電産の求心力が遠心力に向かっているのがわかります。

 企業の未来力は、企業が人間の力に依存している限り、社員がいかに「この会社で居てよかった」と納得するかどうかで判断できると考えています。キーエンス、ディスコ、日本電産の未来力はもうわかっていただけたはずです。遠心力が働き始めた日本電産は次第にキーエンスとディスコの背を遠くから見つめることになるのです。

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