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キリンとKIRINと麒麟③KIRINになれないキリン 何度も跳ね返され、仕切り直す海外戦略

 何度、仕切り直せば良いのか。キリンの海外戦略を振り返ると、キリンが世界的な総合食品メーカーに転進する道のりはまだまだ遠そう。素朴な感想です。キリンの磯崎功典社長は、自ら経営企画担当としてM&Aにも携わっており、買収・撤退を経験しています。成功するはずだった買収が、社長として巨額の損失処理で売却を決断するとは。その胸の内は・・・。海外の会社を経営する難しさを骨の髄まで味わったはずです。今も、先行きに対する自信よりもまだ不安が混じる複雑な心境ではないでしょうか。

磯崎社長の胸中は複雑なはず

 最近のM&Aをざっと復習してみます。2011年、ブラジルでシェア2位のスキンカリオールを約3000億円で買収しました。海外展開は遅々として成果を上げられずにいましたが、中国、米国に続く世界3位のビール市場であるブラジルに橋頭堡を構えました。

 しかし、思惑ははずれます。子会社化したブラジル事業は販売不振から抜け出せず、2015年12月期は1100億円の損失処理を余儀なくされ、キリンは上場以来初めての最終赤字に陥りました。苦渋の決断です。当時、記者会見した磯崎社長の表情は今も鮮明に記憶しています。期待した結果が真逆に振れ、上場以来初めての赤字という汚名を受け入れざるを得なかったのですから。

 結局、2017年に手放しました。オランダのハイネケンが770億円で引き取りました。単純な引き算はできませんが、3000億円で買収した会社を770億円で売却するのです。「勉強代にしては高すぎた」と経営陣の1人が漏らしたそうですが、予習を含めて勉強不足過ぎました。稚拙なM&Aと批判されても反論できるのでしょうか。

ブラジルに続きミャンマー、NZ、中国を売却

 キリンは2015年にミャンマーのビール会社も買収しています。2021年の軍事クーデターという予想外の事件が発生、こちらも売却へ。ミャンマーは民主化へ歩み始めたとはいえ、政治情勢の行方はかなり不透明でしたから、買収の時にも「バスに乗り遅れる」式のあせりを感じました。他にも戦略的買収と銘打ったニュージーランドの乳製品大手、中国の飲料などについても相次いで売却。このままでは経営学の講座で「日本企業の海外戦略の失敗」の好例としてキリンがイの一番に取り上げられるでしょう。

 もっとも、キリンより先行しているといわれるアサヒビールも過去に高い授業料を払っています。今は積極的な買収が功を奏して海外事業の利益が全体の過半を占めるほど高くなっていますが、その根底にはオーストラリアでの苦い経験があります。

アサヒもオーストラリアで高い授業料

 1991年、アサヒビールはオーストラリアでトップシェアを握るフォスターズと資本提携しました。出資金額は840億円。積極的な経営で知られた樋口廣太郎社長が決断しました。しかし、提携効果は霧の中に迷い込み、抜け出せないまま。97年に取得株式を売却。300億円近い損失を被りました。。

 無理もありません。当時、オーストラリアのフォスターズを何度か取材しましたが、アサヒビールと提携している意識は見当たりません。国内シェアは固めているので、アサヒとの提携を機にさらにシェアを広げ、新製品開発に取り組むぞという意欲が感じられませんでした。「ビールの生産する醸造技術はそんなに驚く技術じゃない。経営の多角化といったて何ができる?」と経営幹部はのんびり構えていました。海外戦略に売って出ようと前のめりだったアサヒビールがオーストラリアで空回りするのは当然でした。

ビールメーカーはもともと内向き

 もともとビールメーカーなどアルコール飲料のメーカーは海外展開に向いていないのではないかと思っています。国内市場を知り尽くして新製品開発し、生産するわけですが、言い換えれば「内向きなメーカー」です。ビールは気候風土などが影響して、好みの志向が国ごとに異なります。主力は国内のお客さんを相手にするわけですから、経営も販売も自国の論理にどっぷりと染まり、発想すべてが日本色。

 とろこが、世界のビール市場は米国と欧州が主導しています。キリンやアサヒが日本国内で最強といっても、欧米のメーカーが作り上げた市場ルールに従わざるを得ず、自らの強みを発揮するのは容易なことはありません。海外のM&Aで成功する方が稀なのかもしれません。海外展開には向いていない企業体質なのでは、と勘違いしそうです。

オーストラリアを足場に再構築へ

 キリンの磯崎功典社長は、海外戦略を描き直す覚悟でしょう。主軸はオーストラリアの子会社ライオン。オーストラリア、ニュージーランドのオセアニア地域で強いブランド力を持っており、キリンが2009年に完全子会社化した以降も経営は安定しています。

 磯崎社長自身、フィリピンの政治経済を握るビール会社のサンミゲルで副社長を経験しており、太平洋地域の土地勘は熟知しています。オセアニアを拠点に中国、東南アジアを再び攻め込む考えです。先日、発表したオーストラリアの健康食品メーカーの買収も、中国、東南アジアを攻略する橋頭堡と位置付けています。

ヨットで体得した復原力が試される

 磯崎社長は学生時代、ヨットで体と精神を鍛えました。ヨットは大波や強風などで帆が破れ、ひっくり返ってもからなず元に戻る復原力を持っています。持ち前のあきらめない性格でキリンの海外戦略を狙い通り、新しい航路に戻れるかどうか。キリンの海外戦略はその復原力が試されています。

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