• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

トヨタ 自動車産業のピラミッドを死守できるか 身を切る部品値下げを見送る

 トヨタ自動車がグループとしての総合力を試されます。成功すれば求心力が、失敗すれば遠心力が増すはずです。それは創業家・豊田の継承を占う試金石です。

豊田家の継承を占う試金石

 トヨタ自動車は2023年度下半期(2022年10月ー2023年3月)の部品価格の改定を見送ることを決めました。トヨタは年2回、トヨタ系列の部品メーカーに対して価格引き下げを求める慣例があります。値下げの根拠は何か。時間の経過とともに減価償却や量産効果で割安になっているはず、など様々な理由がありますが、トヨタグループの頂点に立つトヨタ自動車の収益力をどんな事態に直面しても盤石に支える仕組みと言ったほうがわかりやすいかもしれません。

 異例の値下げ見送りの背景には部品メーカーが急速に経営を悪化させている現状があります。昨年から続く物価上昇の流れはロシアによるウクライナ侵攻を契機に加速し、電気やガスなどのエネルギーコストが大幅に上昇し、自動車部品の生産コストも高まる一方です。

生産コスト増に半導体不足、二重の打撃に襲われる

 半導体不足も見逃せません。解消のメドがみえない半導体不足によって、2021年秋から続くトヨタの大幅な減産は今後も継続するのは確実です。系列部品メーカーは生産コストの増加と減産という二重の打撃を受け、収益を奪い取られています。

 実はトヨタは2022年4月ー6月の3ヶ月分、値下げ要求を見送っていました。理由は大幅な減産、資材価格の高騰などで今回の下半期とほぼ同じです。ただ、トヨタは7月ー9月の3ヶ月分については部品値下げを求める考えを明らかにしていました。それを翻して2022年10月以降の下半期も値下げ要求を見送ることを決断したのです。

 それだけ経営環境の厳しさが増しているわけですが、値下げ要求見送りのニュースが示唆したポイントを見落としてはいけません。新聞などのメディアによると、トヨタの熊倉和生調達本部長は「足元の減産や資材高騰により、特に2次以降の仕入れ先が大変苦しいと理解している」と説明しています。2次下請けの経営状況に言及しています。2次下請けの多くは非上場企業ですから、表向き経営状況の良し悪しを知る機会が多くありません。それをあえて2次下請けの経営不振に言及した理由を考察する必要があります。

表向きは好決算、2次下請けを含めれば内実はどうか

 表向きだけをみれば、トヨタグループは2021年度決算で好成績を収めています。トヨタの連結決算は売上高が前期比15・3%増の31兆3795億円、純利益が26・9%増の2兆8501億円。いずれも過去最高です。系列部品メーカーのトップグループであるデンソーやアイシンなどもトヨタ本体に負けぬ好決算を上げています。 2021年度はコロナ禍で低迷していた世界販売が北米やアジアで回復したほか、円安も利益を押し上げたというのが表向きの解説です。 

 正直、「さもありなん」の心境でした。なにしろトヨタの豊田章男社長は側近をデンソーなどに送り込み、グループの掌握に努めていました。系列とはいえトヨタ本体と一線を画して独自経営するデンソーなどが軍門に下ったのかとの憶測も広がり、トヨタグループ全体の一体感を決算数字でも歩調を合わせるだろうと推測できたからです。

部品メーカーは電気自動車への移行をいかに乗り越えるのか

 ただ、2次下請けの部品メーカーからは悲鳴が聞こえていました。生産計画はコロナ禍と半導体不足で不調に推移しており、先行きの見通しは不透明です。トヨタ、デンソーなどがそろって好決算を発表していても、2次下請けを含めた裾野の広い自動車産業が果たして好決算に躍っているのか首を傾げざるを得ません。今回、部品の調達担当責任者が2次下請けの厳しさに触れたことは、表向き好決算のトヨタグループは、2次下請け、3次下請けまでの裾野を支える系列を含めれば内実は決して楽観できる状況ではないということを意味しています。

 今回の部品値下げ要求の見送りは2次下請けの窮状をどう支援するかだけが注目点ではありません。電気自動車へ移行するうえで、系列部品メーカーをどう再編するかを占うきっかけになります。内燃機関のエンジンがなくなれば、ピストンやシャーシーなど関連部品が消えてしまいます。自動車は3万ー5万点の部品から構成されており、重要部品ほど生産不要になる可能性が大きいのです。

かつての日産系列のマレリは経営破綻

 すでに部品メーカーの消耗戦は始まっています。かつて日産自動車の系列大手だったマレリが事実上の経営破綻に追い込まれています。マレリは日本ラヂヱーターと関東精機という日産系列を代表する部品メーカーが統合して誕生しました。日産再建で剛腕をふるったカルロス・ゴーン氏による系列切りの煽りを受けたこともありますが、コロナ禍や半導体不足による経営環境の激変に追いついていけませんでした。

 豊田章男社長は自動車工業会・会長を務めているため、電気自動車への急速なシフトは自動車産業の雇用問題に発展するとの懸念をかねて表明しています。新聞などによると、今回の値下げ見送りにあたって「さまざまな価格高騰がこれだけ大変な状況になってくると、支援は避けて通れない。取引先と協議しながら実態を丁寧に把握し、具体的な支援内容を詰めていきたい」とトヨタは話しています。

 トヨタは年2回の値下げ要求でグループ内の利益を吸い上げる仕組みを構築し、最強トヨタ 神話を維持してきました。その仕組みを一時停止しながら、2次下請けなど中堅中小の系列企業をどう支えるのか。電気自動車への移行過程のなかでどう転身するのか、あるいは転廃業するのか。この難問に挑むことになります。

トヨタの産業ピラミッドをどう再構築するのか

 自動車産業はトヨタなど完成車メーカーを頂点に1次下請け、2次下請けと部品メーカーが取引系列を広げていくピラミッドの形を描いています。部品値下げ要求の見送りを皮切りに始まる下請け支援が失敗すれば、巨大な産業ピラミッドは綻び、崩壊するでしょう。トヨタがどのような未来図を描いて自らの産業ピラミッドを進化させ、再構築するのか。とても期待しています。

関連記事一覧

PAGE TOP