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SBI・北尾吉孝、 半導体ご破産「孫正義の光と影」から逃れられない希代の投資家

 SBIホールディングスの北尾吉孝・会長兼社長が掲げた台湾の半導体大手PSMCとの半導体計画がご破産となりました。卓越した投資家とはいえ半導体に疎い北尾氏がぶち上げたビッグプロジェクト。その結末に驚きはありません。むしろ、改めてかつての相棒、孫正義氏を追いかける光と影を痛感します。振り回された宮城県などにとってとんでもない迷惑ですが、巨額の富と名誉を得ながらもなお孫正義を追う北尾氏の姿が寂しく見えてしまいました。

巨万の富を持ちながら、寂しい姿が

 SBIがPSMCと合弁で半導体工場を建設すると発表したのは23年7月。8000億円の大型投資計画をぶち上げ、3ヶ月後に激しい自治体による誘致競争の末に成功したのが宮城県。半導体で世界的な研究者を輩出する東北大学も応援していました。日本政府が経済安全保障を理由に総額で兆円単位の助成金を支払って世界最大手の台湾TSMCを熊本県に誘致したお祭り騒ぎの余韻が残っていた頃でした。

 SBIは北尾吉孝氏が創業したネット金融大手で、最近は地方銀行を相次いで傘下へ収める日本有数の金融グループです。金融業界に深く根を張る人脈、豊かない資金力を持つ北尾氏がなぜ専門外の半導体へ手を広げるのか。誰もが疑問を抱いたはずです。しかも、PSMCは世界第6位の半導体受託生産メーカーですが、TSMCほどの経営力はありません。業績もすでに芳しくありませんでした。

 成算がどこまであったのか。日本政府は半導体産業の復興を目的に巨額の助成金制度を掲げ、当時の岸田政権は台湾のTSMCを熊本県に誘致する一方、日の丸半導体プロジェクト「ラピダス」を立ち上げました。ラピダスはトヨタ自動車やソニーなど主要企業8社が出資して設立し、出資企業は増えています。政府の後押しを受け、TSMCは第2、第3の工場建設を検討。ラピダスも北海道千歳市で拠点を拡充しています。

 半導体は設備投資に巨額資金が欠かせません。事業リスクが高いものの、電気自動車(EV)や人工知能の広がりで需要拡大が見込めます。投資リスクは低く、日本の国策に貢献できる。北尾氏の眼には半導体が新たな富と名誉を生み出すと映ったに違いありません。

成算よりも産業の金

  PSMCは撤退の理由を次のように説明します。日本政府が補助金支給の条件として10年以上の事業継続を求めたが、PSMCが保証するのは台湾の法令に違反すると判断したそうです。直近の業績は赤字を計上しており、手を引く潮時は今と判断したのでしょう。

 元々、無理筋のビッグプロジェクトだったのです。それでも北尾氏が半導体に突っ走ったのは「孫正義」が引き金だったと推察しています。

 北尾氏は1974年に野村証券に入社後、1995年に孫正義氏が創業したソフトバンクが株式上場したのを機に転身。1999年に現在のSBIの前身、ソフトバンク・インベストメント社長に就任します。優れたマネー感覚を持つ孫、北尾両氏は文字通り、相棒として巧みに資金を回りました。

 ところが2006年8月、SBIはソフトバンクと資本関係を解消し、北尾氏は事実上、孫正義氏と”決別”します。北尾氏と親しい記者はその理由として「どんなに頑張っても孫正義を上回ることができない。ボスになるためには自分自身の金融グループを持ち、追い抜きたかった」と解説していました。

 SBIは今や金融グループとしてはソフトバンクに遜色ない存在感を放っています。しかし、孫正義氏の動物的な嗅覚ともいえる投資勘には叶いません。ソフトバンクは投資会社ではないかとの批判をかわすため、通信などの事業会社に軸足を置きましたが、実態は投資会社のまま。結局はサウジアラビアと組んだ「ビジョン・ファンド」などで世界で最も派手な立ち回りをする投資会社の一つとなりました。

 北尾氏も優れた嗅覚を持っていますが、孫正義氏には叶わないと自覚しているのでしょう。ネット金融を祖業としながら、地銀を吸収しながらメガバンクに匹敵する金融グループを形成しながらも、新しい金融ービスでは常に一番手に名乗りを上げて差別化を鮮明にします。ただ、投資の世界で輝くスターになりきれません。

 ソフトバンクはビジョンファンドの運用成績に左右され、巨額赤字と巨額黒字を繰り返す目が回る決算を続けますが、英国半導体アームの投資案件で息をrつきます。今は生成AIに注力し、オープンAIなどに投資、AIに強い半導体メーカー、エヌビディアを追い上げる姿勢を見せます。北尾氏がつい半導体へ手を伸ばしたくなるのもわかります。

所詮、かすり傷?

 すでに巨万の富を得て、名誉も得ています。もう十分じゃないですかとお尋ねしたいですが、希代の投資家に満足はないのでしょう。今回の半導体投資は「かすり傷」に過ぎないのかもしれません。

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