小林製薬の社外重役はブルーレット?置くだけじゃ経営は洗浄できない 創業家と決別する覚悟を
小林製薬株が再発防止策をまとめました。紅麹を素材に使った製品による甚大な健康被害を検証した調査書をもとに品質・安全、コーポレートガバナンスなどの改革が軸になっていますが、甚大な被害を引き起こしたのは監視機能を失った創業家経営です。防止策として社外重役の機能強化を掲げていますが、以前はほとんど機能していません。「これから改革するぞ」と仕切り直しを強調しても、魂がなければ絵空事と同じ。ヒット商品「ブルーレット」は置いておくだけでトイレ洗浄できるそうですが、社外取締役を重視する経営改革の掛け声だけでは洗浄できません。問われているのは創業家と決別する覚悟です。
杜撰な経営が次々と
再発防止策は品質・安全、コーポレートガバナンス、意識改革の3本柱で構成されています。いずれも命や健康に深く関与するメーカーなら当たり前のことを改めて強調している印象で、がっかりの域を超えています。事件前までは生産ラインの管理は安全性よりも収益を優先し、国内外12ヶ所の工場の統括は事実上、1人の部長に任されていました。ちょっと信じられたない実態が次々と明らかになります。小林製薬の売上高、製品数を考えれば、あってはいけない、杜撰な管理という言葉しか出てきません。
呆れる経営管理の根底にあるのは創業家への過度な依存。再発防止に向けたスローガンが「 全員が一丸となって創り直す新小林製薬」というのですから、いかに創業家による家族経営だったかがわかります。長年、小林製薬の社内で当たり前だったことを「明日から変えよう」と連呼しても実践できるものではありません。再発防止策では専門部署の新設など組織改革の断行を列挙していますが、社内の意識が大きく変わらなければ絵に描いた餅です。
経営の全権を握る創業家出身者が支配する経営陣が現場の情報をどこまで知っていたのかも疑問です。事故の調査報告書では「現場任せの品質管理体制」との表現を使って経営全般の情報伝達・管理について批判しています。経営判断するのは創業家出身の会長、社長でも、その目と耳にはどんな情報が届けられていたのか。
社外取締役が経営改革を主導できるか
そして経営改革のカギを握る社外取締役は期待できるのでしょうか。取締役会議長はすでに会長から社外取締役に移譲されています。形式上は創業家の手から離れましたが、社外取締役がどこまで改革を主導できるのか疑問です。
なにしろ、これまでは社外取締役は事後報告を受けるだけの役割でした。調査委員会の報告を見ても、最初の症例報告から社外取締役へ情報が伝達するまで約 2か月も経過しています。社会常識からみれば、事件が深刻化するまで隠蔽されていたと認識して良いでしょう。
形式的に経営の実権が移譲されたといっても、小林製薬の社内常識を察すれば重要な情報を創業家の会長、社長に伝え、判断を仰ぐリポートラインが簡単に崩れると思いません。議長を務める社外取締役が過去の悪癖を消し去るほどの実力があれば良いのですが、2ヶ月後にようやく紅麹事件の報告が伝わる社外取締役の内実を思い返せばそんな期待は無理でしょう。新しく就任した社長はじめ面従腹背する人々の姿が目に浮かびます。
危機感と本気度が企業の存続を決める
もちろん、再発防止に向けた努力に期待しています。「今後、創業家依存から脱却する。まずは、新社長が旗手となり『品質・安全ファースト』を旨とする経営の舵取りを進める」「悪い話ほど率先して 迅速に報告すること(Bad News First)」の徹底する」と強調しています。
この危機感がどこまで本気か。経営改革を進めれば進めるほど、影の実力者として経営の実権を握り続ける創業家との軋轢が激しさが増す風景が容易に想像できます。社外取締役のみならず社員ら小林製薬に関わる人々の覚悟が、今後も企業が存続できるかどうかを決めるのです。