張子の虎の社外取締役 小林製薬の取締役会議長に 弄ばれるガバナンス
とても笑えません。「貧すれば鈍す」「溺れる者は藁をも掴む」「喉元過ぎれば熱さを忘れる」・・・といろいろな例えが思いつきますが、小林製薬を見ていると呆然とします。紅麹を原料とする製品による健康被害は拡大する一方、同社の不手際も次々と明らかになっています。そして本来の責務を果たしていない社外取締役の機能不全も明らかになっています。経営危機に直面した際、その責務の発揮が期待される「社外取締役」を都合よく使い回しているようです。
議長を社外取締役に変更
今度は社外取締役に取締役会の議長を就任させることを決めました。7月26日に更新したコーポレートガバナス報告書で取締役会の責務を以下の通り、説明しています。
【取締役会等の責務】
取締役会は、株主に対する受託者責任の観点から会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の向上を図る 役割を担っているものと認識しております。 社長を中心とする執行役員が経営の執行にあたる一方で、社外取締役を議長とする取締役会が経営の監督機能を担うという体制を取っており、 取締役会の活性化の観点から取締役の人数の最適化も図っております。なお、取締役会の議長については、定款上、取締役会長または取締役 社長が取締役会の議長となると規定されておりますが、当面の間、都度、社外取締役の中から議長を選定することとしております。 社外役員は、経営陣幹部に対して外部の視点から積極的に発言しており、十分に活発な議論がなされております。 また、独立社外取締役を委員長とする「人事指名委員会」、「報酬諮問委員会」を設置しており、取締役等の選任や報酬の決定プロセスの透明性・ 公正性の担保を図っております。
注目は「取締役会の議長については、定款上、取締役会長または取締役 社長が取締役会の議長となると規定されておりますが、当面の間、都度、社外取締役の中から議長を選定することとしております」の下りです。定款上、取締役会議長は会長か社長と規定していますが、8月8日付で議長を務める小林一雅会長が小林昌浩社長と共に辞任します。社長は創業家以外の山根聡専務が昇格するので、規定通りなら山根社長が議長に就任することになります。
それがなぜ社外取締役が議長となるのか。死亡者が発生するほどの健康被害を引き起こしながら、被害拡大を抑える情報公開は後手後手に回る不手際が続きます。監督庁の厚生労働省への報告も隠蔽を感じさせるほど連絡などの連携が悪く、人の命や健康を扱う製薬メーカーとしての自覚が問われているのです。創業家の「小林」を名乗る経営者が退いて責任を取り、社外の人物が取締役会の議長を務めれば組織としての小林製薬の信頼が回復できると考えているのでしょうか。
日本ではまだ少数派
日本が模範とする欧米のコーポレートガバナンスでは、経営の監督と業務執行の役割分担を明確にする狙いから社外取締役も多く、経営の意思決定の場である取締役会の議長を務めるケースは珍しありません。しかし、日本で取締役会の議長を務める例は東証プライムに株式上場する企業の3、4%といわれています。経営体制として信頼されるためには形式だけでなく、今は実践力がまず問われている段階です。
小林製薬は信頼に足る企業でしょうか。「社外役員は、経営陣幹部に対して外部の視点から積極的に発言しており、十分に活発な議論がなされております。 また、独立社外取締役を委員長とする『人事指名委員会』、『報酬諮問委員会』を設置しており、取締役等の選任や報酬の決定プロセスの透明性・ 公正性の担保を図っております」と説明していますが、紅麹をめぐる一連の被害や経営判断を振り返れば、社外取締役は機能不全だったことが明白です。
まるでジグソーパズルを遊ぶよう
むしろ、社外取締役の皆さんが一連の判断ミス、情報公開の遅れ、厚生労働省への報告ミス、そして社外取締役は機能したのか・・・。そろそろ説明する時ではないでしょうか。
欧米で出来上がった社外取締役のコーポレートガバナンスをもとに、まるでジグソーパズルのピース1枚を埋め込むように外観を整えても、誰も信用しません。弄ばれている社外取締役の皆さんはどう考えているのでしょうか。やっぱり張子の虎なのでしょうか?