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公取委 トヨタ系車体を摘発 下請け違反の監視はより深く広く

 公正取引委員会の本気度を感じさせる違反認定です。トヨタ自動車系列の車体製造会社の下請法違反を認定し、再発防止を求めて勧告します。違反の対象は車体生産に使う金型を長期間、取引する中小企業に保管させたこと。もちろん、保管料は支払いません。無料です。トヨタや日産自動車など自動車メーカーが頂点に立つ産業ピラミッドは、系列と呼ばれる下請けに多くの商慣行を強要してきました。当たり前と思っていた取引行為が公取委から摘発される。自動車産業に正す覚悟はあるのでしょうか。

 勧告するのは、トヨタが9割超の株を保有する子会社、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント(横浜市)。救急車など特殊車両のほかにレーシングカーなどに必要な車体部品、車両組み立てを行っています。型式指定を取得して大量生産する通常の自動車生産と違い、一品料理のように特別に設計された車両を少量生産するのが特徴です。ボディを成型する金型も一品料理の道具と同じ発想で開発、生産されることがたびたび。

摘発は特殊車両の子会社

 金型の開発、生産はお金だけでなく、人的投資、時間が欠かせません。貴重な金型・部品です。予定した生産を終えたからといって廃棄するのは忍びない、勿体無い。いつか使う時があるかも。そんな思いも加わって、長期保管を下請け企業に頼んだのかもしれません。公取委が無償で長期保管を強要されたとして認定した下請け企業は約50社だそうです。

下請けは断ったら存続の危機

 下請け企業から見れば、金型の保管には倉庫代などが発生するので経営の負担になりますが、トヨタから発注を打ち切られた会社は存続の危機に陥ります。要請があれば、とても断れない。自動車の系列、下請けの常識です。

 読売新聞などによると、トヨタ子会社は2年ほど前からバンパーやタイヤのホイールなどの製造に使う自社所有の金型や検査用器具など650セット超を全国の下請け業者約50社に預けていたそうです。損害は違反の認定期間だけで数千万円にのぼるそうです。最大で30年近くも保管した事例もあり、実際の被害総額は億円単位になるかもしれないと伝えられています。

  トヨタ子会社は60社以上に対し、合計5000万円分を超える車体パーツを不当に返品していたとも伝えられています。長年の商習慣に甘えた典型例です。

 公取委は取引交渉で不利な立場にある下請け企業の現況を改善するため、自動車以外にも違反勧告を提示していますが、基幹産業として幅広い影響を持つ自動車産業に繰り返し取引条件の見直しを求めています。

日産も30億円を一方的に値引き

 2024年3月には日産自動車がエンジン部品などを製造する下請け36社に対し一方的に支払い代金を30億円も引き下げ、下請け法に違反するとして勧告しました。日産自動車の内田社長は「法令に関する認識が甘かった」と謝罪し、社員への教育を再徹底する考えを示しています。

 1980年代から自動車部品の系列、下請けの実情を見てきましたが、部品の無償保管や一方的な値下げは”業界の常識”でした。突然の値下げ要求に備え、値下げ原資を請求段階に納入先に気づかれずに織り込んでおくしたたかな部品メーカーもありました。厳しい言い方をすれば、業界全体で法令違反は十分に承知しており、教育をする必要がないほど現場はわかっていたことです。

 ただ、価格交渉の力関係は歴然です。公取委がトヨタのレースカーなど特殊車両の生産にまで踏み込んで勧告するのも、従来の大量生産を軸にした取引の陰に隠れて見えない世界にまでメスを入れて監視するという意思表示です。あえて裏読みすると、レースが大好きでレーサーを自認する豊田章男会長を念頭にあえて特殊車両の車体メーカーを違反の俎上に載せ、下請け取引の是正に警鐘を鳴らしたのかもしれません。

中小企業は日本経済再生のカギ

 日本には421万の企業があり、99・7%は中小企業です。自動車や電機などの世界的な企業を支え、日本の国際競争力である「高品質で故障しない」という評価を生み出してきた源泉です。多くの下請け企業が多層に重なり、それが円高や円安などの「経済事件」を乗り越える柔軟性をもたらしています。公取委の監視強化は中小企業の強さを復活させるのでしょうか。日本経済再生のカギです。

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