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三菱自動車「ぼっちキャンプ」の焚き火が燃え尽きる時 ホンダ・日産と離れても孤高は貫けない
人気タレント・ヒロシの趣味はひとりで楽しむ「ソロキャンプ」。私も高校時代からテントを担いでたびたびキャンプしていました。BSテレビで放送する番組「ヒロシのぼっちキャンプ」でキャンプ用品などを手慣れた扱う様子をみると、心底キャンプが好きなことがわかります。火を起こして焚き火に育て、薪が生み出す強い火力で料理する。なんでも美味しい。そんな魔法を感じます。
ヒロシのソロキャンプと重なる
そんな魔法を奏でる「ヒロシのぼっちキャンプ」が三菱自動車と重なります。キャンプ、カヌー、スキーに行くと、三菱のエンブレム「スリーダイヤモンド」とよく出会います。ガタイがごつい車体に4輪駆動で走り回る車になぜか三菱のスリーダイヤモンドが似合います。自分自身も「パジェロ」にシーカヤックを積んで走り、「カッコいい」と自己陶酔したものです。
経営戦略も「アウトドア」。売れ筋は「デリカ」「アウトランダー」などSUV系が占め、最近では価格が500万円を超える「トライトン」が大ヒット。その実用性とスリーダイヤモンドのエンブレムの輝きは、タイなど東南アジアでは強烈な人気と信用を得ており、別格。北米でも根強い人気を集めています。新車販売の主力がセダンからSUVへ移ったこともあって、世界販売が60万台超と小粒な自動車メーカーでありながら、存在感は十分です。
電気自動車(EV)もそう。世界の自動車メーカーが余技として手掛けていたEVにいち早く取り組み、世界で初めての量販EV「i-MiEV(アイミーブ)」を成功させました。自動車史に残る名車です。熾烈な競争を繰り広げる自動車市場でまともに闘ったら、生き残れないのはわかっています。
経営の後ろ盾である三菱商事など三菱財閥も十分に承知。存続第一を念頭に主力市場から距離を置くアウトドア・スタイルの経営を貫くはずでした。
身の丈を超える経営に暴走した時も
しかし、いざ三菱自動車の社長になると、自身の野心を抑えられません。ソロキャンプで焚き火に魅入るなんて、とてもとても。東京やニューヨークなどの都会で大見えを切る姿を夢見て、身の丈を超えた新車販売計画をぶち上げ、それが1990年代から経営破綻寸前に追い込まれる苦境を招きます。
2016年5月、日産自動車が34%の株式を取得して資本提携。慣れたアウトドア生活から離れ、野望に酔うカルロス・ゴーン氏が経営する日産と共に生きる道を選んだと思いましたが、三菱自動車はいつも通りのアウトアドア・ライフ。三菱財閥は自動車メーカーとしての存続よりも「三菱ブランド」が傷つくことを優先しますから、潰れない経営なら文句は言いません。ゴーンも規模拡大が目的ですから、三菱自動車を活用する術も発想も持ち合わせません。それが幸いしたのか、三菱自動車は身の丈に合わせたアウトドア生活を満喫してきました。
でも、そろそろテント前で燃える焚き火も炭火に近づいています。
日産とも距離感
日産との距離感は再び開き始めました。ホンダ、日産との経営統合の協議が始まった時も三菱が合流すると見られてましたが、2025年に入って早々と参加見送りを決めます。自動車産業に身を置いていたら、ホンダと日産の経営統合に現実味が無いことぐらい、すぐにわかります。日産は目の前の資金繰りの苦しさから三菱自動車株を売却する方針も明らかにしていました。日産の経営陣と一緒に地獄を見るわけがないでしょう。
焚き火はいつまで燃え続けるのか。世界の自動車産業は「100年に1度の変革期」に突入。エンジン車からEVへの移行に加え、BYDはじめ中国やインドなどアジア勢が急成長しています。世界一を自負していた日本の自動車の座は大きく揺らぎ、三菱が安住の地としてきた東南アジアも失われる寸前。このままでは、単独で生きる道は閉ざされてしまいそう。
もう稼ぐ力が衰えています。2024年年度第3四半期をみると、世界の販売台数は前年同期比7%増の62万4000台と増えましたが、熾烈な競争に消耗して利益が出ません。売上高は3・6%減の2兆円弱と落ち込み、営業利益は34・7%減の1045億9100万円、当期純利益は67・7%減の332億3000万円といずれも大幅減。2024年3月期も減収減益の流れは変わらず、当期純利益は前期比で1090億円減の350億円に縮小する見通しです。世界の販売台数も84万8000台と5万台近く減らします。
金城湯池の東南アジアも奪われる
なにしろ、金城湯池だったタイなど東南アジアは現地ブランドに加え中国ブランドの攻勢にあい、収益の柱は大きく揺らいでいます。加藤隆雄社長は「経営環境は期待していたタイ、インドネシアの需要回復が見られず、市場競争の激化やタイバーツを主体とした為替の悪化などで厳しさを増している」と説明しますが、この苦境を脱する施策はあるのでしょうか。
これからEVの開発投資など待ち構えるハードルはとてつもなく高いのが現実です。現実から目を逸らし、テントの前に座り、炭火を見つめるのも良いでしょう。でも、そっと近づいてきて三菱自動車に「こっちのテントで飯を食おうぜ」と声をかける時が訪れます。それは、誰でしょうか。