三菱電機が教える「それはおかしい」と言えない日本のおかしな組織
三菱電機が検査のデータを操作していた事実が相次いでいます。鉄道車両用の空調設備やブレーキなどに使う空気圧縮機などで検査済みの架空のデータを自動で生成する専用プログラムを使い、顧客から求めれた検査をせずに架空のデータを記入して証明書を作成していました。
素直にあきれます。「架空データを生成するプログラムを作成する手間をかけて検査の手間を省く」という傍目にはとても面倒で信じられないことを長年続けていた事実にその根の深さを感じます。会社組織として通常の業務として毎日続けられたのですから、社会責務も背負う企業の軸が大きくずれたことを見て見ぬ振りをする事実に怖さを感じます。
不祥事の詳細はテレビや新聞で報道されていますので、ここでは説明はしません。三菱電機といえば、総合電機御三家の東芝、日立と並ぶ名門です。明治以降、三菱財閥系の会社は西洋に追いつこうと躍り出る日本を支え、日本経済の発展に深く関わっています。今や死語となりましたが総合電機が衰退の坂道を転げ落ちた1990年代以降、三菱電機だけは優れたFA(ファクトリーオートメーション)システムや優れた技術を足場に宇宙など新規分野を広げて好業績を上げました。陰りばかりが目立った東芝や日立と一線を画し、企業を紹介する記事には「優等生」という冠がついていました。
三菱電機は銀行、商事、重工業など三菱財閥の名門企業に比べれば、一歩後退する地位の会社です。なにしろ三菱発祥の企業であり日本で初めての株式会社といわれる日本郵船ですら三菱グループの親睦会「金曜会」では端役の位置付けです。三菱財閥が自らのスリーダイヤモンドに対する誇りは外から見る以上に高いのです。だからこそ「組織の三菱、人の三井」と呼ばれるように個人の能力よりも会社全体の決定と行動に重きを置く軍国主義的な会社との批判にも耳を貸さず、三菱ブランドを守って来れたのです。
三菱の強さを踏まえて一連の不祥事のニュースを読んでいると、疑問がいくつも浮かびますが、最も不思議なのは「社長が社内の組織の慣習を知らなかったのか、知っていたのか?」。大半の記事は三菱電機はそれぞれの事業部門が独立色が強く、会社全体の情報が共有されていないとの論旨が多いですが、会社勤めした人ならすぐにわかるはずです。いくら他の事業部門との壁が高く厚くても「あそこではこんなことをやっている」との噂話は居酒屋で流れます。自分たちにとって困る噂はかならず他に知られます。「知らぬは本人ばかりなり」は本当です。
三菱電機の杉山武史社長は記者会見で事業部門を基本にした縦割り組織が問題の一因との認識を示し、「本来どこかの部門で問題が出れば、別の部門も自らをただすべきだ。自分たちで起こっていることを教訓にできず、部門ごとの連携ができなかった」と説明します。記者会見に出席していませんので突っ込んだ質問が出来ていませんが、「顧客との関係より自分たちの論理を優先する業務の進め方だったということが問題だと思っている」と杉山社長は語っていることから察すれば、不正操作の件はなんとなく知っていたニュアンスを感じますが、さてどうでしょうか。