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モビリティの時代 2024年問題の解決へEVトラック加速 乗用車を追い抜くかも

 「電気自動車の普及(EV)にブレーキがかかり始めている」。最近、EVの普及に疑問を投げかける記事をたびたび見かけます。新しい技術にすぐに飛びつき、新製品を購入してしまう「イノベーター需要」が一巡したほか、航続距離の短さ、充電施設の不足、価格の高さなど解決されない限り、新たな需要が生まれないという見方が底流にあります。

EV普及にブレーキの見方もあるが

 EVは欧米や中国などで好調な販売を見せていましたが、ちょっと足元がふらつき始めてきました。まだ誕生したばかりの製品です。技術的には100年前から考案されていましたが、自動運転やバッテリーの開発は発展途上。販売価格の高さも100年間、生産してきたエンジン車の生産コストに比べたら、勝てるわけがありません。乗用車のEVもエンジン車同様、需要を温めるためのアイドリング時間が必要かもしれません。

 これに対しトラックは一気に伸びる可能性を感じます。乗用車に比べて出遅れていましたが、トラック販売が維持できなくなるほどの難問が迫っており、その解決策はEVにあると考えています。

 目の前に待ち構えているのは2024年問題です。働き方改革法の下、トラック運転手の労働時間に上限が課せられ、厳格な適用が注視されるのです。運転手の時間外労働時間は年間960時間に制限されるため、運転時間が減少すれば1人当たりの走行距離が短くなります。当然、長距離運送に支障をきたします。

2024年問題が普及を後押し

 労働時間の厳密な適用は2019年4月から大企業で、2020年4月から中小企業でそれぞれ始まっています。時間外労働は原則、月45時間、年間360時間と規定されています。ただ、運送業界は事業や業務の特殊性を考慮し、年間960時間の上限制限が設定され、2024年3月までが猶予期間として準備するよう求められていました。

 1人当たりの運転時間が制限されるなら増員で補うしかありませんが、現実はとても無理。長時間労働もあって、トラック運転手になりたいと考える若者は減少しています。長距離輸送と長時間で高収入を確保してきた背景がありますから、労働時間の制限が徹底されれば収入も落ち込みます。ただでさえ高齢化が進んでいるトラック運転手です。減少することはあっても、増える可能性はかなり小さいでしょうか。

運転手不足、貨物急増にどう対応

 一方、輸送する荷物の量は増え続けています。アマゾンはじめスーパーなどのネット販売は拡大中です。翌日配達から当日配達へ、さらに生鮮類の増加に伴う低温輸送など配送の手間も一気に増えています。トラックの運送は根底から考え直し、人手をかけない物流システムを再構築するしかありません。

 EVトラックは、2024年問題の解決に向けた切り札になります。インターネットをフルに活用しながら、精度の高いカーナビゲーションによる自動運転を実現し、トラック運転手の負担を軽減します。宅配便などで負担を増やす主因となっている不在に伴う再配達も、お客とのメール連絡で即時に対応できるようにします。

 長距離輸送も同様です。現在は特定顧客の貨物が主体になるため、トラックの輸送能力は半分ぐらいしか利用されていないそうです。今後は業種の枠を超えてターミナルなどで貨物を集荷して、混載型の輸送を増やします。目的地が一緒ですから、高速道など大半の輸送時間は自動運転で対応できます。配送効率を一気に高めるとともに、長距離主体の運転手の負担も減り、若手の後継者が増えるでしょう。

水素を燃料に使うトラックも

いすゞはバッテリー交換式を考案

 EV普及の最大の課題である航続距離や充電もトラックの方がうまく対応できます。いすゞ自動車が実用化に取り組んでいるバッテリー交換式の運転システムは「コロンブスの卵」。長距離トラック用のバッテリーは長時間に対応すれば重量が増し、1台当たりのトラックの積載量を制約します。交換式にすればバッテリーが小型でも一定距離ごとにターミナルでフル充電のバッテーリーと入れ替えると充電時間が解消され、貨物の積載量にも影響しません。電気代が安い時間帯にバッテリーを充電できれば、輸送コストの負担も軽減できます。トラックのメンテナンスも車両とバッテリーの分業制となり、安全運転にもつながります。

EVで主導権をと考える技術者も

 いすゞはじめトラック各社は、CO2排出量が多いと批判される輸送業の現状を解決するため、EVや水素を使った燃料電池車などの開発を急いでいます。あるトラックメーカーの技術者が率直に胸の内を話してくれました。かなり納得しました。

「自動車産業を支えるためにエンジン車をできるだけ継続するという考えを持っている経営者もいるが、技術者からみたら時代に乗り遅れるだけ。EVが近い将来、主流になるのは確実。早めにその流れの中で主導権を握り、自社の技術を進化させるのが自動車メーカーが選ぶ技術戦略」。

もちろん、EVバスも

トラック・物流業界が一体で取り組めば

 トラック業界、物流業界は2024年問題を乗り越えなければ存続できません。ユニークな新製品に飛びつく気まぐれなイノベーター需要とは全く異質ですし、本気度が違います。集荷・混載やバッテリー交換などEVトラックに必要なインフラを構築すれば、普及スピードはどんどん加速するのではないでしょうか。夢想とは思えません。

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