日本特殊陶業 内燃機関の部品メーカーは未来をどう見ているのか 成長、縮小の分岐に立つ
日本特殊陶業がデンソーから点火プラグ、排ガス用酸素センサーの事業を買収します。いずれも内燃機関エンジンの性能を左右する高機能部品です。電気自動車(EV)の普及に伴いエンジン関連の部品メーカーは生き残れるのかとの見方が広がっています。デンソーはいち早くEV関連の開発強化に向けてエンジン部品を切り離す決断を下しました。一方、日本特殊陶業は自社の強みである内燃機関の事業でシェアを一段と高め、収益力を拡充します。EV時代に向けて事業を再構築する時間と体力を確保のが狙いです。内燃機関エンジンの部品メーカーはこのまま成長を継続できるのか、あるいは縮小するのか。分岐点に立っています。
デンソーすら事業の再構築へ
EV化の波は日本最強の自動車部品メーカーであるデンソーですら事業の再構築を迫っています。点火プラグや燃料ポンプなどエンジンに関連する部品事業を40程度抱えており、自動車の駆動系に関連するパワートレイン部門の売上高は約1兆5000億円。売上高6兆4000億円の23%程度を占めています。
トヨタ系列向けの売り上げは全体の5割以上を占めており、EVの普及によって足元から経営が揺らぐ心配はありません。それでも自動車の電動化は予想を超えるスピードで加速中です。デンソーは矢継ぎ早に内燃機関エンジンの事業整理に取り組んでおり、昨年の2022年には同じトヨタ自動車グループの愛三工業に燃料ポンプ事業を売却しています。
デンソーは旧社名の日本電装からわかる通り、事業の根幹はエレクトロニクス。半導体にも早くから進出し、熊本県で建設している台湾TSMCの工場投資でもソニーと並んで出資しています。ドイツ・ボッシュに続く世界的な部品メーカーであるデンソーです。世界の潮流であるEV化の波に乗り遅れないためにも、開発・生産投資を電動化に注力するのは賢明な経営判断です。
セラミックでは世界トップクラス
これに対し、日本特殊陶業は明治以来、世界的な陶磁器メーカーで知られる森村グループの一翼を担い、内燃機関エンジンに関するセラミック技術力は世界でトップクラス。売上高の8割近くは内燃機関。デンソーのようにEV化の波に合わせて、エンジン関連の部品から撤退する経営判断は鼻からあり得ません。自社の最も強い技術、製品力を蔑ろにしてしまっては、成長どころか廃業に追い込まれます。
しかも、EV化が世界の潮流とはいえ、エンジンが世の中から消えるわけではありません。EVの普及には電力供給の十分なインフラが欠かせないため、エンジン車は途上国を中心に2050年以降も走り続けています。世界の自動車市場の3割程度はエンジン車が占めるとの見方もあります。マーケットの規模は縮小するとはいえ、エンジン部品の需要は世界中に手堅く残ります。強い国際競争力を兼ね備えたセラミック技術を持つ日本特殊陶業のような部品メーカーは、市場シェアをこれまで以上に高めて価格主導権を握れば、収益は維持できるでしょう。
しかし、将来の成長をどこまで見込めるのかは不明です。存続するなら安心でも成長を前提にした経営戦略を考えれば、EV化の波を乗り切る戦略を新たに打ち出すしかありません。
日本ガイシは蓄電池で先行
日本特殊陶業は2030年には、内燃機関エンジンの売り上げを8割弱から6割程度へ低下させる考えです。ということは非内燃機関の比率を2割から4割へと倍増させなければいけません。牽引する事業として期待するのは、すでに実績を挙げている半導体、医療など。M&Aなどによって新規分野に進出する計画も練っています。半導体も医療も成長分野に間違いありませんが、他業種からの参入も相次いでおり、目論見通りに収益を確実に手にできるかどうか。先行きは不透明としかいえません。
同じ森村グループの日本ガイシをみると、日本特殊陶業に比べ先行しているようです。主力事業も同じ内燃機関エンジン向けのセラミック技術ですが、内燃機関向けの需要は2050年にゼロになるかもしれないと考え、CO2排出を抑制するカーボンニュートラル関連やデジタル向けの売上高を全体の80%にまで引き上げるとしています。
新しい柱として期待するのが大容量蓄電システム「NAS電池」。独自の高度なセラミック技術をフルに活用して、メガワット級の電力貯蔵を世界で初めて実用化しました。大容量、高エネルギー密度、長寿命が特長で、鉛電池の約3分の1の大きさで、長時間に渡って電力供給できます。技術面で不安定な時期もありましたが、中東を中心に大型受注を重ねており、将来は1000億円に育てるといいます。
新たな優勝劣敗が始まる
日本特殊陶業も日本ガイシも一例に過ぎません。欧米、日本、中国は2050年までにEVへ全面シフトする政策を推進しています。今後、内燃機関エンジンを主力とする部品メーカーはどう転身し、進化していくのでしょうか。新たな優勝劣敗が始まっています。