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ニデック挫折の教訓 ① 創業者による私物化は誰も止められない

 ニデックが3月3日、不適切会計の全容を明らかにする第三者委員会の調査報告書を発表しました。不適切会計の主因は公表される以前から予想された通り、創業者の永守重信氏が絶大な権力を振るい、不正会計処理とわかっていながら指示に従わざるを得なかった組織的な欠陥が詳細に明らかになっています。

過度なプレッシャー

 調査を通じて判明した一連の不正行為によって減損損失は車載事業などで2500億円規模と膨れ上がり、2026年3月期は無配に転落。1973年の創業以来、カリスマ経営者として高い人気を集めた永守氏が育て上げた日本を代表する優良企業ニデックは、多くの不正会計で厚化粧した汚名に塗れた会社に。日本の産業史に名を残す経営者と信じていましたから、とても残念です。

 ニデックはなぜ奈落の底へ突き落とされたのか。調査報告書を参考に「ニデック挫折」に学ぶべき教訓をシリーズ連載で考えてみます。

 調査報告書の第4項「原因分析」は「過度なプレッシャー(永守氏の経営理念の破綻)」から始まります。

 実は、第三者委員会はニデックを内部監査部門に会計監査に特化した部署を置く稀な体制を構築しており、他の企業と比較しても会計不正を行う「機会」が抑止された企業と評価しています。にもかかわらず、不正処理が罷り通ったのは、「抑止機能を遥かに凌駕する程の強い『プレッシャー(動機)』が存在していたと言わざるを得ない」と断定しています。

調査報告書は「永守氏の会社」と認定

 その背景には永守氏の絶対性がありました。報告書は次のように説明します。

「永守氏の会社」であり、あらゆる権限が永守氏に集中していた。特にニデックグループの経営幹部の人事権は、ニデックグループの経営幹部が、業績目標達成のために、時に極めて厳しいプレッシャーを部下にかけ、会計不正を引き起こす原因を作ってきたといえる。ニデックが長年抱えてきた「負の遺産」の問題については、それを解消するための取組も断続的に行われてきたが、いずれも徹底した取組とはなっておらず、抜本的な対策を取ることのできないまま推移し、負の遺産が温存される結果となっている。その原因も、永守氏が求める業績を達成しなければならないとのプレッシャーが経営幹部にかかっていたからであり、その背景には、人事権をはじめとする永守氏の絶対的な権限があったと考えられる。

 人事権。会社勤めしていれば、誰もがこの重み、あるいは苦い思い出を何度も経験しているはず。配置換え、地方転勤など突然の人事異動に戸惑い、自身の将来に不安や希望をどう見出すのかを考えます。まして会社で最も偉い人から、クビと宣言されたら明日からどうしようと悩みます。永守氏は「やる気のない無責任野郎ばかり」「全員やめてくれや」と叱責したそうですから、ビビリ度合いは別格だったでしょう。

 第三者委員会の調査報告書は、本来ならチェック機能を果たす経理部門が自ら会計不正に関与した事実を指摘しており、CFO(最高財務責任者)や経理部門が業績達成の責任を負わされる理不尽な状況にあったと認定しています。今風にいえば、壮絶なパワハラの嵐が吹き荒れていたのです。

 もっとも、永守氏の叱責や罵倒は日常茶飯事。役員も社員も慣れていたそうです。ニデックのある常務経験者がこんなエピソードを教えてくれました。永守氏に異論を申し上げたら、「常務はクビだ」と言われ、顧問に格下げ。ご本人も慣れたものでしばらくのんびりして数ヶ月過ごしたら、常務復帰の人事が発令されたそうです。「よく退社しませんでしたね?」と訊ねたら、「いつものこと。実力を評価していれば、力を発揮できる部署に戻すのが永守さん」。創業当時からの社風と割り切っていたそうです。

成長が止まった瞬間、現実と夢が拘泥

 いつから歯車が狂い始めたのかわかりませんが、永守氏の叱責や罵倒は歯止めがかからず、組織一丸となって目標達成に突っ走る「本来の強さ」をぶち壊す暴走が始まります。想像するに、創業以来に築き上げた小型モーター事業の成長力と将来性に限りが見え、新規事業の育成が急務と焦り始めた時でしょう。

 2020年代には自身の後継者選びも加わり、焦りは恐怖に変わります。成長の切り札であるM&Aを乱発しながら、慧眼の持ち主と評価された永守氏は次第に目の前の現実を直視できなくなったと推察します。10年後の2030年に10兆円企業に飛翔すると大風呂敷を広げたのは、その一端に過ぎません。わずか10年間で売上高を5倍に増やす計画は荒唐無稽すぎます。

 しかし、誰も止められません。カリスマ経営者として事業の先行きを見通す慧眼は失せ、現実と夢の区別がつかなくなります。株式上場を果たしているニデックの公共性も全く忘れ、自身の夢を遂行する道具、あるいはおもちゃを弄ぶ様に。言い換えれば会社の私物化の極みです。新興企業であるニデックと真逆の名門企業である牧野フライス製作所にM&Aを仕掛けた時には、M&Aの成否よりも怨念すら感じました。

 創業者が会社を私物化するとわかっていても、社内の多くはもう手遅れと諦めていたのでしょう。それからまもなく不適切会計が発覚します。

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