ニデック 四半期決算で過去最高益 さまざまな批判を吹き飛ばす「好決算」を斜め読み
「成長神話を復活させる」。自社の業績よりも自身の完全復活宣言に聞こえました。。ニデックの永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)の弁です。。
過去最高の四半期決算
ニデック(旧日本電産)が7月20日に発表した2023年4~6月期決算によると、売上高は5660億円(前年同期比4・8%増)、営業利益は600億円(34・7%増)、最終利益は640億円(55・0%増)。いずれも四半期として過去最高を記録しました。世界のトップシェアを握る精密小型モーターに続く次代の主力事業として期待する電気自動車(EV)向けモーター事業が初めて黒字に転換したほか、円安の進行も追い風になりました。
四半期とはいえ、これだけの好決算です。株式市場は好感。6月19日につけた年初来高値の8084円を1カ月ぶりに更新しました。過去最高記録の更新、株価の上昇を経営者の力量を測る尺度と考える永守さんです。「成長神話を復活させる」と宣言する高揚感に浸るのも当然です。
なにしろ、最近の永守さんは強い向かい風に立ちすくむシーンが続いていました。自身の後継者問題を巡る発言は、個人投資家の人気を一手に握るカリスマ経営者としてのオーラの輝きを失い、その後も悪循環を繰り返しました。ニデックの株価も8000円台をうろうろ。ほぼ1年前の2022年8月は1万円近くですから、永守流の評価に従えば2割ほど下げたといえるでしょう。
この10年間、永守さんが後継者として指名した候補者はいずれも目標とした業績を達成できず、株価を下げたと評されていました。2023年6月20日の定時株主総会では自分自身の後継者の条件として「株価を上げられる」を強調し、「株価を上げてくれる人が一番よい。変人でも業績を良くする人でないといけない」と説明しているぐらいですから。
経営手腕に疑問符が付く出来事もありました。株主総会では株主から上場企業として問題視されている分配可能額を超えた配当や自社株買いついて質問され、「人間はそんなにパーフェクトではない。公認会計士も見落とした。私も全然知らなかった。ありとあらゆる社内勉強会を始めて防いでいく」と永守さんは弁解しました。いつもの歯切れの良さは感じられません。配当や自社株買いは上場企業として基本中の基本ですから「知らなかった」で済むのでしょうか。
守勢に回る時期が続いていたからでしょう、今回の四半期決算で攻めに転じるきっかけを手にしただけに、永守さんの発言のボルテージは上がりっ放しです。
多くの批判を跳ね返す強気の弁
例えばEVなど自動車関連の事業拡大。EV向けのモーターと周辺機器を一体化させた「電動アクスル」と呼ばれる製品を軸に、世界最大のEV大国である中国市場を中心に事業へ強気の言葉が続きます。
「収益を今後、毎年倍ぐらいの形で伸ばしていく」
「車載事業が復活の兆しだ。今までは中国がメインだが、欧州や国内からも引き合いがあり、2025年がEV普及の分水れいとなる。車載事業の収益は今後、毎年倍ぐらいの形で伸ばしていく」。初めて黒字に転じたEV向けのモーター、車載関連の事業には強気を前面に出します。
「これでも遅いという感覚だ。市場が欲しているのは小型で安い車だ。ガソリン車と比べて、EVは音や振動、熱が問題になる。いまは基準が緩いので中国メーカーが入ってくるが、われわれは膨大なノウハウがあり、最後に勝つのはモーターメーカーだ」
「これだけ利益率が改善したのは技術革新があったから。値上げや円安だけでうまくいくほど経営は簡単でない」
株主総会後の記者会見では「1兆円規模の会社を買収していく」と表明し、モーター以外の分野に食指を伸ばす考えを示していました。その第一弾として岡山市の工作機械メーカー「TAKISAWA」への株式公開買い付け(TOB)の実施を発表しましたが、四半期決算の記者会見でも自信満々です。
「買った会社はみんな赤字だったが、あっという間に利益を出した。業界を中国に負けない規模に持っていく」
「小さな島国で、小さな会社がいっぱいあっても日本を守れない。
それにしても出来過ぎの決算?!
今回の四半期決算を見る限り、永守さんの強気の発言は「その通り」と相槌を打ちたくなります。ただ、これまでの批判や経営的な問題を考慮すれば、四半期決算の結果はまともに正面から受ける向かい風を跳ね返すかのように仕上げられています。さまざまな批判を一気に雲散霧消したいとの思いもあったのでしょうが、それにしても出来過ぎの決算と驚くのは考えすぎでしょうか。
◆ 写真は電動アクスル「E-Axle」。ニデックのホームページから引用しました。