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ファミコン前夜、バンダイ、任天堂が玩具の歴史をスイッチ

 任天堂が家庭用ゲーム機「ファミリーコンピューター(ファミコン)」を発売したのが1983年7月。今年7月、8月はちょうど40周年を迎えた時期と重なるため、お約束の「周年記事」が新聞やテレビなどで伝えられています。

ファミコン発売40周年

 ファミコン発売の3年前の1980年、新聞社に入社した私は玩具担当の記者としてスタートを切りました。正確には「玩具も」ですが。当時を改めて振り返ると、2000年代のゲームビジネスの勝敗は、1980年初めの「ファミコン前夜」に決していた気がします。

 「君が取材するのは問屋だよ」。配属先を告げられた瞬間を今も忘れられません。「トンヤ?、問屋!、それ何?」。頭の中を駆け巡った多くの言葉から残ったのが「船場のこいさん」。

 一体、何を取材するのか皆目見当がつきません。指導役の先輩から渡された取材リストには、食品、文房具など世の中に数えきれないほど流通する商品を卸す企業が並んでいましたが、見覚えがあるのは「玩具」の項目で見つけた「バンダイ」ぐらい。そして「あっ、任天堂もあるじゃない」。高校時代に覚えた花札は確か任天堂って名前だったなあ。すでに「ゲームウオッチ(正式名ゲーム&ウオッチ)」が話題になっていました。新人記者にとって企業名を知っているだけでなんか安心感があります。記事の取材は二の次、まずは自分自身の興味に従い、東京に本社があるバンダイへ取材をお願いしました。

新人記者時はバンダイ担当

 当時のバンダイは創業者・山科直治さんの長男、誠さんが社長。キャラが強烈です。今なら「おもちゃ界のイーロン・マスク」と呼ばれたかもしれません。創業時の社名が「萬代屋」というのだから老舗かと思ったら、見事に勘違い。昔から玩具問屋が集まる東京・浅草では新興勢力。米澤玩具など本当の老舗と微妙な距離感と違和感が漂っていました。

 山科誠社長は出版社の小学館で得た経験も踏まえて、玩具業界の常識に全く囚われません。次々と文房具、アパレル、菓子、映像、音楽、パソコン、アミューズメントなどへ進出して事業領域を広げ、急成長します。同業他社の気遣いなどは微塵も感じさせない大胆な経営戦略を打ち出し、その明快な語りも魅力的でした。新聞・テレビは大きく取り上げます。

 あたかも1980年代の日本の玩具業界は「バンダイ」が背負ったかのよう。とにかく自信たっぷり。その後、成功と失敗が繰り返されますが、それは企業が避けて通れない栄枯盛衰の宿命です。バンダイが今、「バンダイナムコ」という名前で残っているんですから結果オーライということで。

バンダイは任天堂をいつも横目に

 その山科誠さんがいつも横目で見ていたのが任天堂の山内溥社長。新規事業の取材などで話を聞いていると、任天堂や山内さんの名前が出てきます。任天堂は1980年4月に発売したゲームウォッチの大ヒットし、玩具の製造卸という企業形態から電子機器メーカーとソフトの開発をリードする企業へ変身ししていました。

 「こっちはキャラクターだ、著作権だと知恵を絞り出しているのに、山内さんは半導体が足りなくて製品ができないと悩んでいるんだから」。山科さんはちょっと羨ましげに語りながらも、玩具メーカーとして競争する世界の違いに焦りを感じていたようでした。任天堂は本社が京都ですが、東京・浅草に集まる老舗問屋と同じ古い歴史を持っています。バンダイの山科社長としては他の老舗と同様、さっと抜き去ろうと思っていたのに逆に置いてけぼりを食っているかの気分だったのかもしれません。

ソニーも十字キーに敬意

 当の山内社長はゲームウオッチに続いて1983年7月、任天堂は家庭用ゲーム機「ファミリーコンピューター(ファミコン)」を発売し、世界のゲームビジネスに躍り出ていきます。ファミコンは世界のゲームを楽しむ「デファクトスタンダード」、世界標準となります。任天堂がゲーム市場を創造し、リードする立場に駆け上がっていました。

 その後、任天堂を追い上げるソニーのゲーム機器「プレイステーション」の開発者が1991年、まだゲーム機器を発売する前の時期でしたが、取材で率直に語っていました。「ハード面で追いつき、追い抜けると思うけれど、ゲーム機器を使いこなすノウハウと経験は真似するしかない。たとえば十字キー。もう誰も否定できない世界標準。上下左右に動くキーで行こうと決めた任天堂は本当にすごい」。

 残念ながら諸々の事情があって、山内社長にはお会いできませんでした。ただ、バンダイの山科誠社長を上回る強い個性、経営理念の持ち主だけあって、逸話が多い人物です。任天堂の経営も日本企業の中で際立っていました。日本の場合、どうしても自動車や電機などが代表的な優良企業として注目を浴びますが、マイクロソフトやアップルが素直に真似している企業は任天堂ではないでしょうか。

勝負はファミコン前夜についていた?

 今年2023年5月、世界で最も優れたゲームの評価を得る「ゼルダの伝説」シリーズの新作「ティアーオブザキングダム」が発売されました。私は新作が出るたびに購入し、いつ終わるかわからないゲームの物語を楽しんでいます。もちろんゼルダの成功は一コマ。これまでマリオなど数多くのソフト、キャラクターを世界に送り出しています。4月に公開した映画「スーパーマリオ」、「ゼルダの伝説」の新作が原動力となって2023年4ー6月期の営業利益は過去最高を記録しました。

 任天堂、山内溥さんはなぜ花札の任天堂からNintendoへ駆け上がることに成功したのでしょうか。ファミコンが発売される前の1980年代初め、もう40年以上も前にバンダイの山科誠社長は独特の直感で「バンダイと任天堂」の違いに気づいていたのかもしれません。 

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