山は友達 日の光が入る森を夢見て手入れ 

大谷洋樹の岩手の風

 山の手入れのようなことをしています。「ような」と書いたのは、木々を観察したり、倒す木を選んで切って薪用の丸太をつくったり、まあ、山と遊んでいるからです。山は友達です。やぶを払ったり、樹木を伐採したりしながら森に日の光が入るようになれば、実のなる木も育ちやすく生き物の環境によでしょう。

「ような」で山と遊び、友達に

 知り合いに紹介してもらった盛岡市郊外の山を最初見た時、ゆうに大人背丈を超えるササが一面に広がって、前に進むのも難儀しました茎を折りながら進むうちに自分がどこにいるかわからなくなります。びっしりササが密集しているので日の光は地面に届きません。

 一面のやぶに、クリやナラなどの落葉広葉樹やアカマツなど雑木がぽつぽつと生えています。大木が多く枝葉が覆って暗い森です。名も無き山にも歴史があります。森林を伐採した跡地にササがはびこり、からの土地にあってササに打ち勝った木々が今、大木となっているのでしょうか。そんな想像をしてみるのも楽しいものです。

 やぶを切り払って、切った木を運び出せるよう道をつくらなければ始まりません。地下茎が頑固に張り巡らされたササを引き抜くのは無理。林業に使える刈払機なら切れますが、僕は根気よく、しなる茎を折りながら進みます。

木に絡みつくつると闘う

 手入れはまず木にからみつくつるを切ることから。つる締め付けられて樹勢が弱ったり、枯れてしまったりします。つるは太いのだと大人の足のももくらいあります。だいたい手鋸で、たまにチェーンソーを使います。雪がすっかりとけた春一番、つるを切ると切り口から滴がぽたぽたとたれるのを見たことがあります。吸い上げた水でしょう。なめてみました

 つるを切るのは、木を伐倒する時も必須の作業です。からんだつるを放置したまま切り始めると思わぬ方向に木が倒れたり、重たい枝葉が降ってきたりして危ないのです。ですから伐倒作業の最初に確認するのが上方、つまりつるがからんでいないかです。もちろんヘルメットは必須です。

自然を敬い、畏れる心を忘れない

 つくった道沿いに小さなナラの幼木の芽がぽつぽつと出ています。木を切ってあいた空間に日の光が入り、倒れた木でなぎ倒されたササのあたりも日の光が入ります。幼木が大木になる頃、僕はとっくにこの世にいません。どんな森になるのか見届けられません。

 つるややぶを放置しておくとどうでしょう長い自然の時間をかけて大木がやがて淘汰され、新しい環境が生まれるのでしょう。余計な手出しをせず、自然の摂理に任せればよいという天の声を聞くこともあります。山で遊ぶ僕のような者は山に入らせていただく、木を切らせていただく、自然を敬い、畏れる気持ちを忘れないでいたいものです。

大谷 洋樹 ・・・プロフィール

日本経済新聞記者、生活トレンド誌編集などを経て盛岡支局長を最後に早期退職、盛岡市に暮らす。山と野良に出ながら自然と人の関係を取り戻すこと、地方の未来を考えながら現場を歩いている。著書に「山よよみがえれ」「山に生きる~受け継がれた食と農の記録」シリーズ

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