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営業益ゼロが語る日産「昨日、今日、明日」経営と現場はいつもバラバラ、求心力はどこに

 今回も日産自動車はいつも通り。期待を裏切りません。目標は高く掲げても、結末はガタガタ。クルマに例えれば、ドライバーは思い切りアクセルを踏み、時速200キロまで一気に加速するつもりが、エンジンとシャシーが噛み合わず、タイヤは空回りして白煙が・・・。もともと脇が甘い会社ですから、内情がポロっと漏れてしまう日産。直近の決算も饒舌に語っています。

2024年第1四半期は事実上、赤字?

 日産が発表した2024年4月〜6月期の第1四半期は、営業利益が前年同期に比べ99・2%も減少して9億9500万円。売上高は2・8%増の3兆円ですから、営業利益9億円は黒字を確保するため、会計上捻り出した数字で間違いないでしょう。事実上は営業利益はゼロ、あるいは赤字だったのではないでしょうか。

 惨状ともいえる決算の主因は北米の不振。世界各地の販売台数は前年同期比0・2%減の78万7000台とわずかな減少にとどまりましたが、世界販売の4割を占め、収益源でもある北米は1・7%減の32万7000台と落ち込みました。

 北米で最も人気を集めているのがハイブリッド車。手持ちの車種がない日産は大苦戦するのは当たり前かもしれません。そのハンディキャップを埋めるため、多額の販売奨励金を投じた結果、北米事業は209億円の赤字となってしまいました。前年同期は1320億円の黒字ですから、1500億円以上もの利益を失ったわけです。

 人気のハイブリッド車は1997年にトヨタ自動車が世界で初めて発売、その後も技術開発、車種展開などでリードしています。1990年代後半の日産は経営危機が続いていましたから、ハイブリッド車の開発は完全に出遅れ。トヨタの後塵を拝するより開発投資の節減もあってEV(電気自動車)に注力しました。

ハイブリッド車人気の波に乗れず

 2000年代、経営再建を指揮したカルロス・ゴーン氏も効率的な開発投資を最優先したため、自動車メーカーとしての環境対応はEVが主役。地球温暖化防止の切り札としてE Vが脚光を浴びたこともあって、日産のEV戦略は軸がブレず、日本で数少ないEVメーカーとしての地位を固めました。

 もっとも、目先の1年間の潮目はEVからハイブリッド車へ。EVの割高な価格、充電設備の不足などを理由に買い控えが広がり、燃費効率や使い勝手が良いハイブリッド車に需要が移っています。豊富な車種を揃えているトヨタやホンダは北米で大人気を追い風に高収益を上げています。

 日産にとってハイブリッド車は「無いものねだり」。ディーラーに積み上がる在庫を見上げながら、販売奨励金の増額によって消化するしか手立てがありませんでした。

GMはエンジンのトラック車で稼ぐ

 日産は運が悪かったのでしょうか。米GMの決算を見ると、どうもそうとも言えないようです。GMは2024年第2四半期決算は売上高、利益ともに市場の予想を上回る数字を達成しています。通期の利益見通しも今年度で2度目の上方修正を明らかにしました。好業績を牽引したのは、価格引き上げとガソリンエンジンを搭載したトラック販売でした。

 GMは日産とほぼ同じ境遇です。ハイブリッド車の出遅れを補うため、EVに力を入れており、車種も増やし販売攻勢に出ています。そして日産と同様、北米市場のEV不振、ハイブリッド車の高い人気に立ちすくみ、EV新工場の建設延期も表明しました。にもかかわらず、収益を維持できたのは、GMには切り札であるトラック市場で落ち込む販売実績を挽回したからです。

 米国の自動車市場は、SUVと小型トラックが大人気。米国民はもともと燃費を気にせず、大型車を乗り回るのが大好きです。大排気量のエンジンを搭載した小型トラックの需要は底堅く、GMはハイブリッド車人気を横目に自社の得意分野を攻めて利益を捻り出しました。

 米自動車メーカーのGMと日産を同列に比較するのはおかしいと思うかもしれませんが、日産の米国での歴史はもう十分に米国自動車メーカーの一員。工場やディーラーの現場の声を聞き、生産や販売の戦略を手早く軌道修正できたかどうかが分かれ目でした。

CEOの力量の差が戦略、決算に

 日産とGMの差は経営者の力量から生まれているのではないでしょうか。GMのメアリー・バーラCEOは、父親がGM工場の金型工として働き、自身も工場作業員からキャリアを重ね、2014年にGM初めての女性CEOに就任した人物です。女性でありながら、熱狂的なクルマ好きを表す「カーガイ(Car guy)」と呼ばれ、現場の最前線から厚い信頼を集めています。GMの業績が回復軌道を維持している原動力はバーラCEOの経営手腕といえます。

 日産はどうでしょうか。2000年代からの社長・CEOはカルロス・ゴーン、西川廣人、内田誠の3氏です。ゴーン氏はルノーと共に経営再建に取り組んだ稀代の経営者でした。その手法は日本的経営に胡座をかいた多くの経営者に衝撃を与えました。ただ、その強烈な個性で打ち出す数字至上主義はぬるま湯に慣れた日産車内には劇薬すぎました。

 耐えきれず追い出した日産が後継として選んだのが西川氏。ゴーン氏の手足として動いていた経営陣の1人で、経営手法は同じトップダウン。経営陣と現場の距離は変わらないどころか、広がっていきます。その西川氏もゴーン氏と同様、不正報酬の疑いで辞任。同じ物語をなぞるような交代劇でした。

経営と現場に一体感が見当たらない

 後継の内田氏で変わったのでしょうか。内田氏は日商岩井(現双日)を経て2003年に日産に入社。2019年にCEOに就任するまでは自動車部品の調達や海外関連が長く、生え抜き重視が社風の日産の中での求心力は今ひとつ。CEO就任後も、日産社内ではゴーン、西川両氏とは違った浮遊感を覚えました。

 CEO3人に共通する経営手法は、数字を掲げて邁進を連呼すること。ところが、生産や販売の現場は冷ややか。直近の第1四半期決算の惨状も、収益を重視と言いながら結局販売奨励金に頼り、大赤字を計上しました。かつてカルロス・ゴーン氏が販売台数の数字達成に固執し、販売報奨金で達成を目指したものの、結局は収益、ブランド共に失った教訓が生きていません。北米のディーラーや販売部門は、決算結果を昨年から分かっていたはずです。経営と現場に求心力による一体感が見当たりません。

 2024年3月に発表した新3カ年中期経営計画も、社内外の評価は冷ややか。この3年で世界販売を100万台増やす計画を掲げましたが、初年度最初の四半期決算で下方修正を強いられています。日産の経営はいつも既視感に溢れており、なんとも寂しさだけが募ります。

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