
「やっちゃえ日産」を信じたい 従業員・工場の削減だけでは生き残れない
「やっちゃえNISSAN」の新しいCMが始まりました。思わず見入ってしまいました。現在の日産自動車が直面する問題がCM映像にすべて詰め込まれていたからです。
CMに日産の課題が
「やっちゃえNISSAN」は2015年からスタート。初代のキャラクターは矢沢永吉さん。1990年代から経営不振を繰り返す日産が「元気になったぞ」と宣言するかのように、ヤンチャに言い放つ矢沢さんに感動しました。好きなCMです。今回は鈴木亮平さんが演じます。「フェアレディZ」を運転しながら、感嘆詞が次々と飛び交います。
「くるまってさっ、ワクワクしなきゃ」
「でしょ、つまり・・・なんかうおおお!ってなって」
「イエーーってなって、でもって、ビューーーンてなって」
その瞬間、EV「アリア」とすれ違います。日産のフラッグシップカー「フェアレディZ」と次代を担うEVが交差するシーンはおしゃれです。もちろん、最後はお約束通り「やっちゃえNISSAN」と鈴木さんが雄叫びします。
「なんかうおおお!って」と雄叫びを上げたい気持ちはわかります。日産の企業イメージは最悪に近い水準です。何をやってもダメ。ルノーから舞い降りて君臨したカリスマ経営者のカルロス・ゴーンは逮捕され、国外脱出。その後を継いだ社長は二代続けて腰砕け。ホンダとの経営統合の破談、過去最大の赤字など景気の悪い話ばかりで、もう路頭に迷う寸前。
たとえCMであっても「とにかく頑張るぞ!」と社員にも顧客にも声をかけたくなります。日産のアイコンともいえる「フェアレディZ」「アリア」は、ともに高価格帯の車であり、販売台数も望めません。それでも選んだのは、日産の技術力、デザイン力をアピールし、未来を切り開く底力を示したかったのでしょう。
求められるのは「ワクワク」ではない
しかし、現在の日産に求められるのは「ワクワク」でも「ビューーン」でもありません。目の前に突きつけられている至上命題は、生産効率を高め、販売台数を上乗せすることです。ワクワク感もビューン感も見当たらないかもしれませんが、「ノート」「セレナ」など中小型の量販車によって低迷する販売を底上げすることです。経営不振の主因は北米や中国など海外市場にあるとはいえ、まずは息を吹き返す勢いを取り戻すことが最優先。
もっとも、皮肉にもCMに登場した「フェアレディZ」「アリア」の2車種は、日産が抱える経営課題を体現しているのも事実です。
「フェアレディZ」は日本のスポーツカーの歴史でも群を抜く名車です。トヨタ自動車、ホンダ、マツダなどにも独創的なスポーツカーがありますが、日本製スポーツカーとして世界で高く評価された先駆の車です。最新モデルもホント、カッコいい!。日産はほかにも優れたクルマを開発しながら、ヒットを飛ばすことができません。日産の販売戦略の力不足を名車は教えてくれます。
「アリア」はもっと日産の経営を凝縮しています。2021年6月に発売され、EVとしての高い走行性能や洗練されたデザインから日産の新たなアイコンになるはずでした。ところが、半導体不足や塗装など生産体制の不備などで1年後の2022年7月に受注が停止。再開したのがなんと2年後の2024年4月から。価格も120万円も値上げしました。
新車販売にとって受注が2年間も止まってしまう事態は最悪です。日産の開発陣が次世代を担うEVのアイコンとして世に送り出した直後に躓いてしまったのです。日産社内の開発、生産、販売の各部門がどこまで意思疎通できていたのか。致命的な失態です。日産が奈落の底へ落ちる羽目になったのは、チグハグな組織にあるのです。
復活に向け一体感を
その新車開発を指揮していたのが2025年4月に就任したイバン・エスピノーサ社長です。経営が下り坂の時、ブレーキをかけるためには社内の一体感が必須ですが、新社長にそれだけの力量を期待できるのでしょうか。
エスピノーザ社長はすでに大規模なリストラに着手しています。2024年11月に国内外で従業員9000人、生産能力2割削減を発表していますが、追加で1万人削減する方針を固めました。削減数は合計2万人、全従業員の約15%に相当します。工場閉鎖も決まっています。タイを含めて3工場の閉鎖が決まっているほか、北九州市で計画していた電気自動車(EV)向け電池工場の建設を撤回しています。
2025年3月期で6708億円の赤字を計上した主因は販売台数の落ち込みです。2024年度の販売台数は330万台ですが、2017年度の577万台に比べ4割も落ち込んでいます。従業員削減や工場閉鎖で生産と販売の落ち込みを辻褄合わせしても、息を吹き返すとは思えません。今後も縮小均衡を繰り返すだけです。
日産に最も必要な経営改革は、復活に向けて全社が一体化することです。不甲斐ない経営者を掲げながら、なんとか生き抜いてきた日産です。従業員、部品メーカーのみなさん!!高くて厚い壁ですが、ど〜んと当たってぶち壊してください。今こそ「やっちゃえNISSAN」!!!