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似鳥昭雄氏 ニトリ社長復帰 キヤノン、ユニクロ、ニデックの「出戻り」仲間に 一流の証明?

 ホンダの創業者、本田宗一郎さんと藤沢武夫さんはホント、偉い人物だなあと痛感します。自分らがゼロから育てた会社は子供同然の思いがあって当然。次代に引き継いだ後も心配でしかたがないでしょう。でも、再び社長として復帰することはありませんでした。でも、最近は名経営者と呼ばれる創業者が社長退任して後継者に託した後、再び社長に復帰する事例が続いています。キヤノンの御手洗冨士夫さん、ファーストリテイリングの柳井正さん、日本電産(現在のニデック)の永守重信さんら日本を代表する名経営者ばかりです。「社長出戻りリスト」と呼べば良いでしょうか。

社長出戻りリストに掲載

 ニトリの似鳥昭雄さんが「出戻り」に名を連ねることになりました。ニトリホールディングスは1月10日、傘下のニトリ社長にホールディングスの似鳥昭雄会長が2月1日から兼任すると発表しました。似鳥会長は2014年5月以来の社長復帰となります。現在の武田政則社長はニトリホールディングス副社長に就任し、海外事業の管掌に専念します。中長期ビジョンで掲げた海外事業の拡大を達成するため、意思決定を単純化・迅速化するのが狙いと説明します。一方、国内は似鳥会長が社長兼務で指揮するだけでなく、永井弘専務が国内管掌として実務は仕切ることになりそうです。

 ニトリの社長交代の予感はありました。後付けじゃありません。似鳥会長の気質を考慮すれば、交代する可能性は大と読んでいました。勤めていた新聞社の縁で似鳥会長とは10年以上も前に身近に接する機会を多く得て、人柄、経営判断の早さと冷徹さを体感していたからです。目標とした結果に手が届かないなら、その担当者は不適切と判断して交代し、新たな人材、あるいは自分が前面に立つのがニトリの経営と信じています。ニデックの永守さんとそっくりといえばそっくりです。この厳しさがあるからこそ日本でトップの立つことができるのでしょう。

 社長復帰の引き金は2024年3月期中間決算。ニトリホールディングの売上高は前年同期比1・5%減の4168億円、経常利益は19・2%減の569億円と減収減益になりました。ニトリは上場以来33期連続して増益を記録しており、当然ながら似鳥会長は34期連続の達成を目標に定め、諦めていません。

34期連続の増益は厳しそう

 2024年3月期の通期業績予想は据え置いたままです。しかし、内実は厳しそうです。中間期時点で目標達成に向けた進捗率は売上高は44・7%、経常利益は38・7%。残る6カ月の半期でかなりの伸び率で取り残し分を回復しなければ、増収増益を取り戻せるかどうか。似鳥会長ですから、対外的にはニコニコと笑顔を見せながらもニトリのグループ会社には「目標達成を最後まで諦めるな」と檄を飛ばしている気がしますが、数字上かなり微妙な見通しです。

 減益の主因は、ニトリや買収した島忠の売り上げ減少、円安による仕入れコストの押し上げ、人件費増が重なりました。粗利益は116億円の増加となっていますが、円安によるコスト増247億円に食われてしまっています。

 元々、ニトリの快進撃を支えていたのは円高。絶好調な勢いが注目され始めた2010年代。2010年のドル円は90円台から始まりましたが、11月には15年ぶりの1ドル80円21銭まで上昇しました。ニトリはベトナムやインドネシアなどで主力製品の家具を生産し、輸入していましたから、国内の販売価格は「円高差益」をてこに他店に比べ低めに設定する余裕が生まれます。「おっ、ねだん以上。ニトリ」が全国を席巻しました。

 当時、似鳥昭雄社長による決算説明に対し、失礼ながら笑っちゃたことがあります。増収増益を連続するニトリの強さを解説する際、経常利益が増え続ける理由としてドル円の為替相場を指摘しながら、経常利益額を押し上げる比率をパワポで描かれたグラフを指さして「こんなもんかな」と大きめに丸く描きます。かなりの比率が”円高差益”と明かした似鳥社長の人柄に惚れました。

ドル円相場の転換時こそ変革

 増益が円高で支えられていたら、2023年で1ドル150円までの円安進行となれば減益は当然。もちろん、海外生産の再構築や家電など利益率の向上を見込める商品構成の移行で、ニトリは収益維持に向けて経営を軌道修正しています。しかし、1ドル150円の衝撃は大きかった。

 2024年の為替相場は円高に振れるとの見通しが大半を占めます。日米の金利格差が縮小し、140円台を軸にドル円相場は推移するでしょう。ニトリも相場転換に合わせて経営戦略を修正する余裕が生まれる時期です。

 似鳥昭雄さんは79歳。人生100年時代ですから、まだまだ現役経営者ですが、力がみなぎっている時にこそ後継者の育成に励んだらどうでしょうか。

 このチャンスを逃すと、「社長出戻りリスト」に載っている企業と同じ道を歩むことになります。名経営者、優良企業という高い評価を受けながらも、後継者問題になると周囲が沈黙してしまう。これまで成長に向けて好循環を繰り返してきた栄光が、後継者問題を機に悪循環に逆回転してしまう。そんな落とし穴があることぐらい賢明な似鳥さんなら知っているはずです。たとえ増収増益の連続記録が途絶えたとしても、優良企業ニトリの名誉が傷つくとは微塵も考えていません。

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