誰も信じない「知らなかった」、でも言っちゃう損保ジャパン、ESGの重ね着は難しい

　経営者が経営のことだけを考えていれば良い時代は終わりました。脱炭素社会に向けた取り組みのGX（グリーントランスフォーメーション）や、人権問題、あるいは従業員の満足度や幸福度を高めるEX（従業員体験）なども同じ文脈ですね。企業としてみれば、まず成長と分配ですが、さらに今の時代は「企業の価値」をどう高めていくかが重要になってきたのだと思います。前の2つは、これまでもやっていなければならないものでした。では、この混乱の時代に価値を高めるとはどういうことなのでしょう。（日経ビジネス２０２３年１月１０日号）

　SOMPOホールディングスグループCEO会長の櫻田謙吾氏が経済同友会の代表幹事として日経ビジネス誌のインタビューで答えています。「経営者が経営のことを考えていれば良い時代は終わりました」。まさかこの言葉が８ヶ月後にブーメランで返ってくるとは思いもしなかったでしょう。

経済同友会代表幹事で旗を振っていたのに

　この時すでに中古車販売・修理大手のビッグモーターの不正問題は顕在化していました。傘下の損害保険ジャパンはさまざまなシナリオを考えて、事態の収拾に取り組んでいたはず。

　櫻田氏のインタビューから６ヶ月後の７月２５日、ビッグモーターの兼重宏之社長は、自動車保険の不正請求問題について組織的な関与を否定し、自身も「知らなかった」と繰り返しながら翌日辞任しました。そのビッグモーターに多数の出向者を送んで込んでいた損保ジャパンの白川儀一社長は、テレビなどの記者取材で「私どもが知りようがなかった。非常に申し訳ないという気持ちが一番。ゴルフボールの例は極端な例かもしれませんけども、一緒になってやっていたっていう方は、それは一人も出てきてない」 と答えていました。

　それから１ヶ月余り過ぎた９月８日、損保ジャパンの白川社長は辞任を表明しました。ビッグモーターの不正を把握していながら、停止していた取り引きの再開を社長自らが促していたことなどの責任を取ったのです。親会社の櫻田会長は「社外調査委員会の調査次第」と自らの辞任を否定しています。

不正案件が１年間もトップに伝わらない？

　東洋経済誌オンラインによると、櫻田氏は会見で、出向者が不正請求に関する証言内容の改ざんに携わっていたことについて知った時期を「２０２３年７月だった」と話しています。時系列で振り返れば、白川社長が知ってから１年後になる計算です。

　そもそもビッグモーターの不正請求は２０２１年秋に従業員から損害保険の業界団体に内部通報がきっかけ。この内部通報に背中を押されて２０２２年夏に損保側から自主的な調査の実施を求められ、その調査結果で会社組織としての不正ではないと結論づけました。櫻田氏が知る１年前に損保が不正事案について、調査して白川社長らが役員会で討議しています。

　櫻田氏は親会社会長として損保ジャパンの取締役を兼務しています。保険金の不正請求はコンプライアンス（法令順守）上の重要問題であり、ビーグモーターは大手取引先。金融機関、経済人としてESG、SDGsの普及を声高に説いてた損保ジャパンの親会社トップであり経済同友会代表幹事にとっても「絶対に」という形容詞がつくほどの重要案件です。この件は損保ジャパンの役員会で上がったというのですから、櫻田氏はたとえ欠席していたしても役員会の議事録は目にしていなければいけません。不正案件を伝えたなかった損保ジャパンの会社組織は明らかに欠けています。そう、ESGです。

「知らない」がこんなに軽い言葉とは

　それにしても「知らない」がこんなに軽い言葉とは思いませんでした。ビッグモーター、ジャニーズで耳にタコができるほど聴いていますが、まさか経済同友会の代表幹事をつい最近まで送り出していた会社のトップが相次いで発言するとは思いませんでした。大手企業ならマスコミ対策の部署で取材対応のトレーニングしているはず。「知らない」以外の言葉選びの方法は知らなかったのでしょうか。

　やはり日本の企業にとってESG、SDGsは欧米からの借り物。なんとか着こなそうとしても、結局は体面を気にしたファッションとしての飾りになってしまう。いつも、ただの重ね着なのでしょう。

　そういえば手元にあるCD「哀愁の重ね着女」の歌詞に次のようなフレーズがありました。「酒と一緒にため息飲み込む　その唇でどんな歌、歌うのだろう」。このCDはデュエットで歌うのですが、「知らない」を何人も経営者がデュエットするの聴いていると、なかなか辛い。どんなに酔っ払っても、カラオケの途中で拍手しちゃいそう。

居酒屋で逃げ口上として使った記憶は覚えている

　ふと記憶が甦りました、居酒屋の女将から「何杯呑んだか知らないって、言われてもねえ」と何度言われたことか。答えはいつも同じです。「よい歳こいて人間変われるか〜」。損保ジャパン、ビッグモーター、ジャニーズとは同じ河岸に立っているのはわかっています。