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NTT、日本製鉄(上)国策会社は再び世界で飛翔できるのか 

 NTTが正式社名の日本電信電話を変更するそうです。1985年に民営化してから40年。改めて世界の通信事業会社として飛翔する思いを込めるようですが、社名変更だけで巨大組織が変わるわけがありません。確かに民営化でNTTに社名を変更した直後、変革の兆しを感じました。「iモード」などで携帯電話に革命を起こし、世界の通信をリードするのではないかと期待した瞬間もありました。しかし、自らの先進技術に固執してガラパゴス化に。国際戦略も同じ。豊富な資金力を持て余して米ATTへの資本出資など派手な立ち回りを演じたものの、結局は尻すぼみ。現在のNTTは国策会社「電電公社」に先祖返りした印象です。

電電公社に先祖帰り?

 新社名の変更はNTTの島田明社長が日本経済新聞のインタビューに答える形で明らかにしました。NTTは通称で、1985年に日本電信電話公社から民営化した後の正式名称は日本電信電話。将来の事業展開の枠を広げる目的で改正を論議してきたNTT法が24年4月に成立し、事業内容とともに社名変更が可能になりました。2025年6月の定時株主総会で決議します。 

 この40年間で通信事業は変わりました。固定電話は家や事務所に設置していても、実際は携帯電話が通信の主役。通話よりもメールか映像。電報を使う機会はほとんどありません。経済のライフラインとしての重要性は変わりませんが、個人を中心にしたビジネスインフラはスマホが支配しています。NTTの役割から電信電話が消えてしまい、メールやラインなど通信手段を担保する情報インフラとして信頼性と安定性が最優先されています。NTTの正式社名から電信電話が消えても違和感はないでしょう。

 もっとも、通信事業としての旨みは、グーグルやアップルなど米国勢に奪われています。NTTに限らず世界の通信会社は情報の伝路を確保する経路を期待されているだけ。それは光ケーブルかWi-Fiなど電波という形に変わっていますが、いわば「土管」に過ぎません。

 NTTが社名変更する狙いも、土管業からの脱却にあります。期待するのは次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」。 通信ネットワークは情報を電気信号で処理をしながら伝送していますが、IOWNは電気信号を光信号に置き換えます。通信の世代交代という視点から見れば、現在主流の5Gから6Gへ移行するイメージです。

光技術「IOWN」で輝きを取り戻すのか

 情報伝達能力は桁違いに上昇します。電気信号の代わりに光を使いますから、消費電力は100分の1も減少。通信速度は10倍も向上するので、通信の遅延も短縮するそうです。これから普及するEVの自動運転や遠隔操作による手術などではわずかな遅延も生命に関わり、許されません。日常生活でみても、コンテンツのダウンロードがあっという間に終わるでしょう。

 まるで夢のような通信技術を主導しているのがNTTです。2019年に「IOWN構想」を発表。2030年を目標に本格的なサービスを目指しています。NTTや旧電電ファミリー企業が得意とする光ファイバーなどの技術を応用しており、世界でも先行しています。

 もっとも、過度な期待はできません。1980年代、ISDNなど光関連のビジネスを高々にぶち上げたものの、結局はガラパゴス化してしまい、世界的なビジネスとして飛躍しませんでした。もともとNTTは日本を背負った国策会社であり、強さと威厳にあぐらをかき、海外ビジネスを展開する経営戦略は不得意です。

 iモードを思い出してください。NTTはスマホ以前の携帯電話で世界をリードしました。しかし、アップルやグーグルなどのスマホの開発・応用のスピードに付いていけず、ここでもガラパゴス化してしまいました。IOWNは凄い技術だと理解しますが、NTTの目論見通りに事業化が進むかどうか懐疑的です。

 足枷となっているのはNTTに今も染み込んだ「電電公社」です。NTTの社員とお酒を飲むと、「あの人は昭和59年以前に入社したのか、以後に入社したのか」という話題をよく聞きました。今ではもう死語になっているはずですが、民営化した1985年、つまり昭和59年を境に社員の意識が変わっていくのだそうです。社名がNTTに変更したからといっても、電電公社時代に育った社員は民営化以前と大きく変わるわけがありません。昭和59年以前の幹部がいる限り、民営化以後の社員が羽を広げようとしてもそう簡単にはできません。

 巨大組織は民営化によって分割され、フットワークが格段に軽くなったのは事実です。例えば、固定電話の先行きを憂いて「DOCOMO」ブランドの携帯電話ビジネスを開始し、見事成功しました。ただ、成功の裏には大星公二というNTTの枠からはみ出た人材が幸運にも社長を務めた要因が大きいと考えています。NTTの本流からみれば、携帯電話はしょせん、事業の幹からはみ出た枝葉。「好きにやってみろ」という意識がとても感じられました。携帯電話事業が成功すると、巨大組織の求心力が働き、ドコモはかつての勢いを失ってしまいました。

 NTTは、まるで電電公社のDNAである「挑戦よりも失敗を恐れる」お役所体質が息を吹き返しているかのようです。ちなみに現在の島田社長は電電公社時代の1981年、昭和56年の入社です。

 国を背負う企業が変身するのは難しいことであることはわかっています。原子力政策を担う東京電力が典型例です。「鉄は国家なり」を誇りとする日本製鉄も同じジレンマに陥っています。太平洋戦争の戦争責任を負い、韓国や中国に製鉄技術を供与するなど産業支援しましたが、今や中国や韓国との競争で消耗しています。

 かつて世界市場の主導した力を奪回するために練り上げたのが1年前の2023年12月に発表したUSスチールの買収計画。しかし、全米鉄鋼労働組合(USW)が反発。米大統領選の争点の一つとなってしまい、企業の論理はどこかへ行ってしまいました。1月3日、バイデン大統領は買収阻止を決定すると米メディアは報じています。=つづく

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