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おもてなしは労働生産性のお荷物?いえいえ、日本の競争力の衰退を救う

 日本の労働生産性が低下し続けています。日本生産性本部が12月19日に公表した「労働生産性の国際比較2022」によると、2021年の日本の労働生産性は時間当たり49・9ドルで、OECD加盟38カ国のうち27位でした。実質で前年比1・5%増えていますが、1970年以降で最低のランキングです。就業者が生み出す付加価値でみると、1人当たり81510ドルで、29位とさらに後退します。このままずるずると生産性は低下し続けるのか。心配です。

日本は過去最低の27位

 日本の労働生産性が低下する主因はサービス産業の低さが反映しており、日本特有のサービス精神である「おもてなし」が足を引っ張っているといわれています。所作や細部に至るまでていねいな気配りは手間がかかる分、労働時間の長期化を招きます。その気遣いが利益に直結すれば良いのですが、長い労働時間の負担に相当するほどの利益をもたらしません。無駄な手間を徹底的に省いて利益を高める考えと正反対ですから、致し方ないと言わざるを得ません。

 実際、製造業に限って労働生産性をみると、日本は1人当たり92993ドルで、35か国のうち18位。総合ランキングの29位に比べて11位も上昇します。2000年にはトップだったのですから18位そのものは胸を張れる順位ではありませんが、少しはまだ救いを覚えます。

国際競争力の衰退は日本経済を弱体へ

 日本の労働生産性の低下は、国際競争力の衰退を意味します。それは日本経済の弱体化が続き、歯止めできない厳しい現実を物語ります。生産性本部によると、日本の製造業は米国の6割程度、フランスと韓国と並ぶ水準で、2015年以降は16〜19位の間にいるそうです。日本のものづくりは、細部にまで精度を求めるていねいさにあります。やはり「おもてなし」の精神が製造業の労働生産性を低下させているのでしょうか。

「おもてなし」は強さを生み出す源泉

 そんなことはありません。強さを取り戻す源泉は、やはり「おもてなし」にあります。自動車産業を見てください。欧米の技術を導入、コピーしながら、生産技術を研鑽。日本車はドイツ車と並ぶ人気と評価を集めています。ドイツ車に比べてスタイルやエンジンや走行性能はちょっと劣りますが、品質に対する高い信頼性はドイツ車を上回ります。長年乗り回しても故障する確率が相対的に低く、運転者や同乗者が快適に利用できる室内設計には定評があります。高い品質を維持しながら、コストパフォーマンスは優れている。日本車の強さはいずれもおもてなしの精神から生まれたものです。

 例えば、精緻な生産技術。トヨタ自動車のカンバン方式がよく知られていますが、現場技能者の豊富な経験から生まれたアイデアが注ぎ込まれた結晶そのものです。現場の視点から目の前の部品を設計通り、しかも効率よく組み上げて新しい機能を生む製品に創り上げるか。産業ロボットを使った自動化ラインも同じです。ロボットに名前を使い、いかに気持ち良く働いてもらうか。部品もロボットも、人間と同様な視線と気持ちを持って「おもてなし」しているのです。この結果、欧米に比べて割安な価格で自動車や家電製品が世界に送り出されました。

 「おもてなし」は工場現場だけではありません。日本の消費者は、ちょっとした傷も見逃しません。自動車ディーラーは納車する際、担当スタッフが文字通り、舐めるように車全体をチェックします。行き過ぎと思えるほどですが、厳しい視線が日本車の性能や品質を高める原動力になりました。

 労働生産性の低下を主因とされるサービス産業の国際競争力も「おもてなし」が源泉。海外旅行客が再び訪れたい国として日本がトップとの調査が公表されていますが、選ばれる理由は温泉旅館や日本庭園で体感できるきめ細かなサービスに感動することにあります。隅々まで気遣いが発揮され、日本だから体験できる異世界に浸ることができます。季節によって色彩を変える樹木の紅葉、池や石などの配置は自然を再現しているようで、人工的な美しさも醸し出します。

「おもてなし」」は挑戦すること

 「おもてなし」が労働生産性の足かせになっているとすれば、それは変革する精神を忘れてしまっている場合があるからです。「おもてなし」の理想を実践することに固執するあまり、変革することを放棄してしまう。創業以来のしきたりを守ることが温泉旅館の強さではありません。日本の温泉旅館のモデルとなった北陸の「ホテル百万石」は温泉地の常識を打ち破ることから始まっています。ホテル百万石を創り上げた吉田豊彦さんは大手企業のエリート社員でしたが、実家の旅館を守るために退社し、経営を引き継ぎました。「新しい時代を作り上げるつもりで、誰もやっていないことに挑んだ」と取材の時に教えてくれました。その百万石は、吉田豊彦さんを継いだ次代からは経営革新を持続できず行き詰ります。

生産性の低下は変革しない日本への警鐘

 「O・MO・TE・NA・SHI(おもてなし)」。東京オリンピックの誘致で流行語になりましたが、実は「おもてなし」とは「挑戦すること」を意味しているのです。何を欲しているか相手の気持ちを察し、それを先取りする形で提示する能力です。相手の気持ちを読むためには豊富な経験が必要です。そのデータをもとに誰もが驚く形で目の前に提示する。

 日本の労働生産性の低下は、「おもてなし」の精神を失い、挑戦することを忘れた日本に警鐘を鳴らしているのです。過去の成功に甘え、変革を叫びながらも何も変えようとしない。今のままが「おもてなし」と勘違いする日本です。

日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2022」はこちらから参照できます。 

https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/report_2022.pdf

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