「不具合な情報を出し透明性を保つ」原発の安全と信頼はこの言葉から 女川原発、再稼働直後にトラブルで停止
東北電力が運転を再開したばかりの女川原子力発電所2号機を停止しました。東日本大震災で停止してから13年半余り。災害やテロにも耐えれる安全規制をクリアし、10月29日に再稼働しました。しかし、原子炉内の計測機器のトラブルが発生、11月4日朝に停止。再稼働に向けて入念に準備したにもかかわらず、わずか7日後に停止に追い込まれる事態に驚きますが、東北電力の担当者が原因究明に向けて発した言葉を聞き、ホッとしました。「不具合についても情報を出して透明性を持ちながらやっていきいたい」。すべての電力会社が「安全と信頼」の回復に向けて欠かせない言葉が詰まっています。
東北電の部長の言葉に注目
女川原発は宮城県女川町に立地。東日本大震災の際は震源地に近く、福島原発と同様に大津波に襲われましたが、原子炉に大きな被害を受けず安全に停止できました。東北電力が設計段階から過去の津波の経験を参考に建設地を高台に設定したのが幸いしました。震災時は津波で住宅などが壊滅状態になった周辺の住民が女川原発を避難所として利用しましたが、襲いかかる大津波を跳ね返したエピソードは有名です。
東日本大震災では、福島第1原発が大津波で緊急電源が停止、メルトダウンという未曾有の原発事故が起こりました。全国の原発はすべて稼働停止。安全対策の再構築が始まり、原子力安全規制委員会の審査を経て一部の原発が再稼働し始めています。女川原発の再稼働に関心が集まったのは被災地宮城県に立地しているうえ、東京電力が福島原発などで採用している沸騰水型軽水炉(BWR)として初めてということもありました。
注目したのは3日夜に開いた記者会見。東北電力原子力部の渡邉宣城副部長は「しっかり立ち止まって確認することが、地域に対する安心安全にもつながっていくと思う。不具合についても情報を出して透明性を持ちながらやっていきたい」と話しました。「立ち止まって確認」「不具合についても情報を出して透明性を持ちながら」のフレーズは、電力会社が過去、原発を推進するうえで掲げてきた安全神話と相反する言葉です。
フェイルセーフは空想な神話
1970年代から国や電力会社は、事故が起こっても何重もの安全装置が稼働するのでメルトダウンなどの事故には至らないとする「安全神話」を繰り返し説明してきました。例えば「フェイルセーフ」。機械や装置の一部に故障が発生したり、作業者が操作を間違えても、安全状態を常に保つ考え方で、原発の場合は制御棒駆動装置用の電源が失われても安全に停止できるようになっていると説明されました。
原発立地を巡る公開ヒアリングの場などで、必ずといって良いほど登場する言葉で、事故に発展することはあり得ないので不具合が発生してもその都度公表することはせず、立ち止まって確認する姿勢を見せることもありませんでした。言い換えれば推進、あるいは運転継続ありきです。フェイルセーフが全く空疎な言葉だったことは、説明不要でしょう。
原発の安全運転に対する信頼は、電力会社の信頼回復そのものです。事故を真正面に直視し、その原因を正確に公表する姿勢を持っているのか。これまでは残念ながら裏切られてきました。過去に多くのトラブル・事故隠しが起こり、電力会社の社長が辞任した事実を思い返してください。リアルタイムで「あってはならない故障や不具合」を発表することは皆無でした。
新潟県知事のコメントが象徴
新潟県の花角英世知事のコメントが象徴的です。女川原発と同じBWRの柏崎刈羽原発の再稼働について記者から問われた際、福島第1原発事故や2002年に発覚したトラブル隠しを指摘して「東京電力は繰り返しミスやトラブルを起こしている。信頼性は東北電力とは違う」と述べています。知事が求める信頼性とは、東北伝の原子力副部長が示した事故に向かう真摯な姿勢です。ありきたりの言葉の羅列に見えるかもしれませんが、日本の原発の安全と信頼を回復するために必要な姿勢の全てを表しています。
◆ 写真は東北電力のホームページから引用しました