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「明日の道」が見えないパナソニック「社内に危機感がない」とぼやく社長の危機感の無さ

 本棚を片付けていたら、父親が残した色褪せた単行本が出てきました。「道は明日に」。著者は松下幸之助氏。毎日新聞社が1974年(昭和49年)10月に出版しました。表紙の帯には「”経営の神さま”といわれた著者が、80年にわたる苦闘と栄光のあとをふりかえり、経営の未来像を語りつくした自伝決定版。」と大きな文字で書かれていました

松下幸之助の著書が目の前に

 偶然にも松下幸之助さんの著書を見つける直前、経済誌「日経ビジネス」からメールが届いており、その内容は先週の人気記事ランキング第1位は「パナソニックHD社長『しびれ切らしそう』変わらぬ危機感の欠如」という告知でした。

 メールには「記事の3つのポイント」と銘打って箇条書きで説明してあります。

停滞続くパナソニックHD、構造改革に本腰

楠見社長、変わらぬ事業部に「しびれを切らしそう」

PBRは1倍割れ。社内に足りない危機感

 これも何かの縁、創業者の松下幸之助さんなら現在のパナソニックにどう助言するのか。興味が湧いて早速、「道を明日に」の表紙を開いてみました。

 まえがきは、こう書かれていました。「思い出を語っているにすぎないけれど、あわせて最近私なりに考えている人間観、つまり人間とはどういうものか、人間の本質とはどういうものか、ということについての一端にもついてふれておいた」。創業当初から「会社経営は人材養成の道場である」と考えてきた松下幸之助さんです。直截的な表現で自身の経営理念を伝える名経営者の気概に改めて触れた想いです。

 目次を追うと、後半に「会長からも退いて」のタイトルがあります。現職の楠見雄規社長が社内の薄い危機感に痺れを切らしそうと嘆いていましたから、後輩たちはどんな心構えが大事なのか。「会長からも退いて」のページを開き、読み返しました。

「会長からも退いて」に後輩へ託す言葉

 松下幸之助さんは、会社を去るにあたって、後輩の経営陣に何か残しておくべき言葉はないものだろうかと考え、「会長、社長並びに現業重役諸氏への要望事項」をまとめていました。6項目でした。それぞれ読むと、第3番目の事項に目が留まりました。

現業は専務または常務止まりとすること。副社長は複数の分野を大所高所から担当する。会長、社長は経営に関しては重要かつ基本的な問題について指摘し指示するものとし、個々の業務に関する具体的指示をする必要のなくなることが望ましい。

 なお業務遂行に関する上司への報告が、最近十分でないように思われるので、この励行を全社にわたって十二分に徹底させること。

「道は明日に」から引用

 何気ない指摘ですが、経営者が絶対に怠ってはいけないポイントを丁寧に提示しています。とりわけ「なお業務遂行に関する上司への報告が、最近十分でないように思われるので、この励行を全社にわたって十二分に徹底させること」の下りは、企業経営の歯車が狂い始める予兆としてしっかりと見極め、素早く対処するように求めています。

 1918年3月7日に創業してから106年を迎えたパナソニック。企業業績が冴えず、繰り返し断行する経営改革が功を奏しません。直近の経営改革も不発に終わりそうです。楠見社長が就任3年目を迎えた2024年3月期は5年ぶりに純利益で過去最高を更新しましたが、増益要因は子会社解散に伴う法人税の減少など一時的なもの。株価は低迷し、PBR(株価純資産倍率)は1倍割れ。時価総額が企業の純資産を下回る結果では、かつての松下電器産業の輝きは失われてしまっています。

経営陣と現場の意思疎通が断絶している?

 楠本社長は「危機的な状況だと認識している」と述べ、日経ビジネスの取材には「根本的な課題は危機感のなさだ」と指摘しています。「社外取締役からも危機感が足りないという指摘を受ける」とぼやいています。

 パナソニックは2022年4月に経営持ち株会社に移行し、パナソニックホールディングスとなりました。その狙いは創業以来、パナソニックの強さといわれた事業部制の意識撤廃にありました。松下幸之助さんが創業した松下電器産業は、事業部制を敷き、それぞれが刻苦精励し、そこから生み出される活力で日本を代表する総合電機メーカーとなりました。しかし、創業から根付く意識は時代の変化についていけず、厳しい経営環境を自ら打破する力を奪い、誰かに依存する「寄らば大樹の陰」の意識に変容。全社一体で危機意識が共有できないデメリットを生んだと判断したからでした。

経営持ち株会社の移行が裏目?

 残念ながら、経営持ち株会社への移行は思惑通りに機能していないようです。「社内に危機感が無い」との発言は、社長ら経営陣と現場、従業員との意思疎通がうまくできていないと自ら打ち明けているのと同じです。松下幸之助さんが後輩に託した「なお業務遂行に関する上司への報告が、最近十分でないように思われるので、この励行を全社にわたって十二分に徹底させること」がそのまま当て嵌まる事態にあることを意味しています。

「道は明日に」が発刊してから50年間が過ぎました。半世紀前の経営がそのまま通用するとは考えていません。当たり前のことです。創業者の言葉をそのまま鵜呑みにする必要もありません。ただ、どんなに歳月を経ても変わらない経営の基本があります。会社は経営者だけで動きません。従業員が一体となって初めて動き出します。今のパナソニックは経営陣、従業員ともに「明日の道」が見えていないのではないでしょうか。

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