• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

プロの経営者とは、資生堂は本来の強みを捨て、前期比99・9%減を手にする

 資生堂は「もったいない会社」のひとつです。世界的なブランド、商品開発力、販売力を兼ね備え、老舗として人材、経営に安心感がある。過去の財産に甘えず、チェーンストア理論を先駆けて導入。高級ブランドで新境地を開くなど経営改革に挑み続ける姿勢も好きでした。ところが、最近は大胆な挑戦が的外れのような印象を受けていました。勇気を持っての断行なのでしょうが、資生堂本来の強みを切り捨て、自社に似合わない化粧を装う経営に向かっていました。

似合わない化粧を装う経営改革

 直近の決算には驚きましたが、正直「やっぱり」の思いもあります。8月に発表した2024年12月期の中間決算は、売上高が前年同期比2・9%増の5085億3600万円と伸びましたが、営業利益は27億2800万円の赤字、純利益は99・9%減の1500万円。惨状の一言しかありません。

 決算内容はすでに多くのメディアで解説されているので詳細は省きますが、要は過度な中国依存に尽きます。営業利益を事業別に見ると、中国の観光客に期待した「トラベルリテール」が大きく落ち込み、前年同期に比べ半減しました。トラベルリテールとは海外旅行者が空港などの免税店で商品やサービスを購入することです。中国国内での売り上げも旅行先として高い人気の海南島などで低迷が目立ったそうです。欧米や日本は好調でしたが、過度に依存した中国の落ち込み分を補う力はありませんでした。

優良ブランドを売却、過度な中国依存に走る

 過度な中国依存にシフトしたのは魚谷雅彦CEO。2014年に資生堂で役員経験せずに外部出身者として初めて社長に就任しました。資生堂の社長は創業家出身の福原義春氏以降、秘書出身者が就任するなど内向き経営で滞った時期がありましたから、思い切った抜擢です。前職の日本コカ・コーラ時代に「爽健美茶」などをヒットさせ、卓越したマーケティングは高く評価され、社長起用に値する実績は残していました。経営コンサル流に例えれば、「プロの経営者」の登用モデルでした。

 魚谷氏は期待に応えるべく、事業の主軸を高価格帯の化粧品に移して積極的に海外展開。2019年12月期では売上高と営業利益がともに過去最高。営業利益率も10%。目論見通り、高収益企業へ復活しました。

 思い切った舵取りは功を奏したかに見えましたが、2021年7月にターニングポイントを迎えます。ヘアケア製品「TSUBAKI」やメンズ化粧品「uno」など日用品のヒットブランドを投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに1600億円で売却したのです。

 魚谷CEOの念頭にある稼ぎ頭は高価格帯製品。日用品は収益率が低く、売上高に占める比率も低い。商品開発や広告宣伝に多額の資金を投資するには割が合わないとは判断したのでしょう。高収益の継続をミッションとするプロの経営者としては当然の経営判断だったのかもしれません。

強さを支えた客層を手放す

 実際、日用品事業は2019年度でみると、売上高全体の1割程度。ただ、資生堂がチェーンストア時代からファンである客層は幅広く、底堅い売れ行きは保証されていました。資生堂にとって日本国内事業は売上高の大黒柱でしたが、魚谷CEOの眼には物足りないと映ったのでしょう。

 高価格帯の化粧品は中国観光客など海外で人気が高く、いわゆる爆買いされていた時期です。中高価格帯の製品を免税店などトラベルリテールに注力すれば効率よく販売できます。これに対し日本国内の事業は従業員全体の約4割を占め、人件費やオフィス関連の負担が重い。手放せば、収益力はアップする。簡単な引き算です。

 結果論ですが、資生堂の強みを手放す禁じ手でした。不運にもコロナ禍の逆風も吹きました。2022年度の日本国内の売上高は3割以上も落ち込み、130億円の営業赤字に。その後も中国国内の個人消費の低迷が直撃し、頼りのトラベルリテールが萎む不運に見舞われます。

経営の回復力を失う

 事業ポートフォリオの大胆な改革は、その裏返しとして経営環境の変化に対応する回復力を失う結果を招きました。繰り返しになりますが、経営を支えてきた日本の国内市場の7割は中低価格の化粧品など。しかも、主戦場はドラッグストア。自らの牙城である主戦場のドラッグストアから手を引いてしまえば、足腰が弱まるのは誰でもわかります。

 落ち込み分は高価格帯製品で補えば、十分にお釣りが来ると確信していたのでしょうが、予想もしない中国、日本の落ち込みに直面し、2024年12月期中間期は営業赤字、純利益も99・9%減。「プロの経営者」として経営環境の変化を見誤る判断ミスでした。

 資生堂は2025年1月1日付でCEOの交代を発表。魚谷氏は退任し、藤原憲太郎氏が就任します。今後、注力するのは日本国内で、中価格帯ブランドをテコ入れするそうです。酷な言い方になりますが、ぐるっと回って「先祖帰り」しているのではないか。言い換えれば、資生堂本来の強さを取り戻すために、時計を逆戻りさせているだけの印象です。

先祖帰りを始める

 かつての資生堂に舞い戻る華麗な戦略はありません。2024年2月には関連子会社の資生堂ジャパンの従業員を対象に約1500人の早期退職者を募集しています。美容施設なども整理し、コスト構造を改革する計画です。高収益を持続する優良企業への復権を目指し、プロの経営者に任せた結果、多くの従業員と優良資産を失うとは・・・。将来に生きる犠牲なのでしょうか?

 目の前の閉塞感をぶち破りため、経営改革に挑む企業は数多くあります。サントリーなど大手でもプロの経営者に頼む事例も増えています。資生堂の結果が全てを語っていると考えていませんが、改めてプロの経営者の功罪を検証する時です。

関連記事一覧

PAGE TOP