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セブン&アイ、イトーヨーカ堂を上場 賞味期限切れの錬金術で未来を拓けるか

 セブン&アイ・ホールディングスがイトーヨーカ堂などのスーパー事業を株式上場する方針です。4年連続の赤字を計上するヨーカ堂などを2026年2月期までに改善し、株式の一部を売却します。セブン&アイはコンビニエンスストア「セブンイレブン」で営業利益のほとんどを稼いでいるため、米投資ファンドから事業モデルとして消費期限切れとなったヨーカ堂を分離するよう迫られていました。

分離を求める投資ファンドへの答

 スーパー事業を株式公開すれば、セブン&アイ全体の企業価値が高まるうえ、利益向上を求める投資ファンドの批判をかわしながら、よりコンビニ事業に専念できる体制へ移行できます。1石2鳥です。賢明な選択と思いますが、子会社を株式上場する施策は利益相反などの問題があり、子会社の上場を選択する企業は減少しています。祖業ともいえる懸案のヨーカ堂を切り離す苦渋の選択だったかもしれませんが、賞味期限切れの錬金術を選択せざるを得ないセブン&アイの経営に危うさを覚えます。

 株式公開を検討するのは「スーパーストア(SST)」と呼ぶスーパー事業。親会社セブン&アイに中間持ち株会社を設立して、その傘下にヨーカ堂やグループのヨークベニマルなどを収め、株式の一部を外部の企業に売却する考えです。出資する企業は、スーパー事業の刷新などを取り組むはずですから、スーパー経営に手詰まり感が漂うセブン&アイにとっても助かる存在になるでしょう。

 井阪隆一社長はヨーカ堂などスーパー事業の経営改革について、連結化にこだわらないものの、食料品の開発などでの協業は継続する考えで、株式すべてを売却する考えはないと説明しています。

 セブン&アイは、創業家の伊藤雅俊氏が1970年代、イトーヨーカ堂をダイエーと並ぶ小売業界トップに押し上げました。その後、セブンイレブンの創業者である鈴木敏文氏がコンビニ事業の大成功をてこに伊藤氏から経営の実権を奪い、本体事業の軸足をコンビニへシフト。その鈴木敏文氏は後継者の井阪社長にセブン&アイから追い出されます。井阪社長はセブンイレブンの成功体験をもとにセブン&アイの未来戦略を進めています。

総合スーパー時代の終わりをどう対応

 かつて経営の屋台骨だったヨーカ堂は総合スーパーの衰退とともに、セブン&アイでいつの間にか「お荷物」となってしまいます。3期連続の最終赤字となった23年2月期以降、米投資ファンドのバリューアクト・キャピタルからヨーカ堂の売却や分離などを求められていました。

 セブン&アイは世界で活躍する小売業としてスーパー事業は不可欠と判断し、投資ファンドの要求を拒否。この1年間はグループのスーパー各社を再編するとともに、北海道や東北、信越などから撤退し、事業採算の改善を急いでいます。しかし、千葉県の津田沼店などかつてヨーカ堂を代表する店舗も閉鎖に追い込まれ、店舗網の集約はドミノ倒しの様相となっています。

親子上場には利益相反も

 不安はまだあります。「スーパー事業の上場」は確かに妙案ですが、中間持ち株会社として株式公開すれば、親会社のセブン&アイとの間で利益相反となる事態が予想されるからです。親会社の利益を優先すると、中間持ち株会社が不利益を被り、セブン&アイ以外の少数株主が利益を損なうかもしれません。グループ間の資金運用、子会社の利益が外部に流出するなどの課題も指摘され、セブン&アイ全体のガバナンスの監視がより重要になってきます。といっても、セブン&アイですから百も承知でしょう。

 ヨーカ堂の改革のスキームは整いました。しかし、セブン&アイが直面する課題は解決したのでしょうか。国内市場は少子高齢化によって成熟化、ネット販売の拡大もあって、コンビニの実店舗を核にしたビジネスモデルは曲がり角を迎えています。成長の活路として海外進出を加速していますが、スーパー事業はじめグループ全体の経営改革が中途半端に終わってしまえば、新たな重荷が湧いてきます。

近い将来、ヨーカ堂の二の舞に?

 現状はグループ全体の抜本的な改革を先送りしただけではないのか。コンビニ依存の経営が継続され、次代の経営モデルへの進化に滞りはないのか。小手先の経営改革では、セブン&アイが近い将来、ヨーカ堂の二の舞を演じることになりかねません。

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