セブン&アイに買収提案 日本企業の円安セールが始まる
カナダ企業がセブン&アイに買収提案しました。海外企業による日本企業の買収額としては過去最高の総額5兆円を超える巨大M&Aです。日本の大手流通業の命運は不明ですが、ウォールマートによる西友買収など日本の過去の事例とは全く違う空気を感じます。以前から欲しかった高級ブランド品が最近、どれもお買い得感満載の価格で目の前にずらりと並び、思わず財布からクレジットカードを出てしまった感覚です。
買った立場が買われる側に
1980年代後半、急進した円高の恩恵が天から降ってきました。「こんな良いものがこの値段!安い!安い!」東南アジアを訪れた日本人観光客の多くは連呼しました。企業の立場なら、もっと高額商品に手が出てしまいます。「せっかくだからニューヨーク・マンハッタンの象徴、ロックフェラーセンターを買収しちゃおう」。後日、結局は高い買い物になってしまい、大火傷した三菱地所の胸中を察してください。
ところが、今は、ドル円相場が180度逆転。円高から円安へ。今度は買う側から買われる側へ。欧米やアジアの企業からみれば、1ドル150円台の円安は「今買わないで、いつ買うの?」と背中を押されている気分感かもしれません。これから始まるのは円安を追い風にした海外企業による日本企業のお買い物ツアー。セブン&アイの買収提案はその序曲としか思えません。
8月19日、セブン&アイ・ホールディングスは、カナダのコンビニエンスストア大手のアリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けたと発表しました。経済産業省のガイドラインに従って、社外取締役で構成する特別委員会を設置し、買収提案の内容を検討し始めています。
この3年間でドル換算なら割安に
アリマンタシォン・クシュタールは北米や欧州など約30か国・地域でコンビニ「サークルK」など約1万6700店を展開しています。株式時価総額は約800億カナダドル(約8兆5000億円)。セブン&アイも日本、北米、中国などでコンビニを展開する世界的な流通企業です。時価総額は約5兆6000億円程度。傘下に収めようとすれば、買収額は5兆円を超える見通しです。アリマンタシォン・クシュタールは世界の流通業を買収して国際的な小売チェーンに成長してきただけに、5兆円程度の買収に頭を痛める相手ではないでしょう。
セブン&アイを買収しようと考えるのも不思議ではありません。この3年間でとても割安な買収案件になっているのですから。セブン&アイはお手軽な買収案件ではありません。3年前の2022年2月時点の時価総額は約5兆円。現在は5兆6000億円で6000億円増えています。
ところがドル円相場で見れば、増えるどころか割安に転じます。かなりの単純計算ですが、比較してみます。2022年2月のドル円は115円。セブン&アイの時価総額はドル換算で430億ドル。一方、2024年8月20日のドル円は146円台ですから、こちらも時価総額をドル換算すれば380億ドル。50億ドルも安くなります。3年間で時価総額は日本円で増えていても、ドル換算すれば10%以上もディスカウントに。かなりのお得感です。スーパーのチラシなら「10%引き」が見出しで躍ります。
実は2020年にもアリマンタシォン・クシュタールはセブン&アイの買収を持ちかけています。当時の時価総額は3兆3000億円。ドル円は109円。ドル換算で300億ドル。4年後の2024年の買収金額と比べてもさほど割高感はないと考えたら、買収を再度、提案するのも頷けます。
セブン&アイはお買い得
これまでも日本の流通業は欧米勢によるM&Aを経験しています。米ウォールマートは2008年に西友と包括的業務提携し、2008年に完全子会社にしました。西友はかつて創業者の堤清二氏が掲げた流通理論に従って成功を収めましたが、その後は流通グループ自体が崩壊してしまい、提携当時はお荷物的な存在した。フランスのカルフール、英国のテスコなども進出しましたが、結局は撤退に追い込まれています。
セブン&アイは違います。総合スーパーのイトーヨーカ堂の不振などでグループ全体の経営戦略について海外投資家から改革を迫られていますが、「セブン・イレブン」などコンビニ事業は日本、北米で好業績を上げています。同じコンビニを展開しているアリマンタシォン・クシュタールから見れば、北米だけに限っても買収でより相乗効果を見込めます。高い買い物にはなりません。
さあ、次はどこ?
円安セールは他の業種にも広がるはずです。海外投資ファンドが日本の優良企業の大株主として登場する事例が相次いでいます。ファンド自体が経営するわけがありませんから、海外の有力企業との提携、M&Aを仕掛けるのは確実です。セブン&アイの次はどこでしょうか。