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スノーピーク ファンドの再生マップは海外でキャンプ 予報は荒天続く 

 アウトドア用品のスノーピークが7月9日に株式市場から撤収します。キャンプ人気が去り、事実上、赤字に陥った経営を再生するため、株主の視線を意識せず米投資ファンドと共に事業構造を変革するのが狙いです。次の成長を賭けるのは海外展開。キャンプ人気が沈静化した日本国内よりも「スノーピーク」ブランドの可能性が期待できる米国や中国に焦点を合わせるそうです。スノーピークの実力を考慮すれば、まるで荒天のなか、不慣れなキャンプ場で焚き火を始める印象です。好きなブランドなので、あえて苦言。「大丈夫?」

株主の視線を意識せず再建に取り組む

 スノーピークは6月19日に臨時株主総会を開き、上場廃止を決めました。2015年に東証一部に上場し、アウトドア用品からアパレルなど取り扱い品目を増やして急成長しましたが、昨年から一転、窮地に。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに底上げしたキャンプ需要が冷え込み、これまでの拡大路線が裏目に出たのです。2023年12月期決算は売上高が急減し、在庫処理に追われ、利益は100万円となんとか確保しましたが、事実上赤字に追い込まれました。

 翌年の2024年2月、窮地を打開するため、米投資ファンドのベインキャピタルと組んで経営者らが自社株を買い付けるMBO(マネージメント・バイアウト)を実施し、非上場化する方針を明らかにしました。上場廃止後も山井太社長ら経営陣は残り、改めて自社の強みと弱みを精査して復活を目指すのでしょう。

 これから仕切り直しです。米国や中国を中心に出店を増やすほか、M&A(企業の買収・合併)で事業の枠を広げる戦略です。投資ファンドのベインとしてはそう遠くない将来にスノーピークを再び株式上場して、巨額の投資利益を得たいわけですから、需要が一巡した日本国内よりも、海外に打って出るロードマップを描くのは当然です。スノーピークもインバウンドをきっかけに人気ブランドとして知られる中国などアジアで復活の糸口を見つけたい気持ちもわかります。

海外強化は背伸びし過ぎでは

 しかし、スノーピークの身の丈を考えたら、背伸びし過ぎではありませんか。スノーピークがキャンプブームの寵児となった根源はブランドを冠した製品の開発力、品質にあります。本社がある新潟県三条市が持つ精細な金属加工技術とデザイン力を活かし、実用本位だったキャンプ関連のアウトドア用品を一新。価格は割高でしたが、キャンプ以外でも使えるアウトドア用品は若い子育て世代に受け入れられ、急成長が始まりました。

 米国でも出店しているので、市場環境は熟知しているはずです。アウトドアブランドの激戦区で、スノーピークと競合するパタゴニア やノースフェイスなど多々あります。現在のブランド認知度、製品の品揃えなどを考えれば、会社全体の収益を取り戻す力があるのでしょうか。M&Aで人気ブランドを取り込む考えでしょうが、アウトドア用品の決め手は信頼度にあります。パタゴニアなどが長年にわたって自然環境を重視した製品開発に取り組むのも、機能を重視しながらもブランドに対する安全安心を消費者に浸透させるためです。M&Aによって切り貼りしたブランド再構築に米国や海外のお客が飛びつくのか疑問です。

 中国はどうでしょうか。世界第2位の経済大国であり、内需規模は計り知れません。ライフスタイルは日本の歴史をなぞるように進化し、需要は拡大しています。スノーピークはブランド認知度も高いようですから、欧米ブランドとの競争力はあるはずです。

 ただ、中国経済の先行きは見通せません。自動車市場を見てください。日本メーカーは米国に続く収益源として中国市場でシェアを拡大しましたが、政府によるEV(電気自動車)推進のあおりを受けて日本の各社はメタメタ状態です。スノーピークの経営規模なら、切り抜けるフットワークがあるかもしれませんが、経営再建の柱として期待するのはどうでしょうか?

地方創生など地に足をつけた経営を

 目先の経営状況は厳しいまま。6月15日に発表した2024年1〜3月期は売上高が前年同期比25%減の48億円、最終損益が5億1300万円の赤字でした。前期から続く販売不振が尾を引いています。2024年12月期は売上高が19%増の306億円、純利益が11億円の黒字を見込んでいます。負担となっていた在庫処理が進み、米国と中国での出店拡充で息を吹き返すシナリオです。

 投資ファンドの思惑を裏切るかもしれませんが、もっとしっかり地に足をつけた経営に軌道修正したらどうでしょうか。布石はあります。例えば地方創生コンサルティング。全国各地の自治体なと組んでアウトドアをテーマに地域の新たな事業として育成する取り組みです。沈滞するキャンプ場やスキー場などを活用して国内外から人を集め、地域と一体化したエンターテインメントを展開する発想です。

 米国や中国などの海外戦略に比べると、一見地味に見えるかもしれませんが、サザンオールスターズなど多くの人気ミュージシャン、タレントを抱えるアミューズも富士山麓で事業化に挑んでいます。北海道のニセコ、長野県の白馬村を見てください。海外の富裕層は、日本の素晴らしい自然に憧れ、訪れ始めています。海外から日本への投資も急増しています。

海外の富裕層はニセコ、白馬に注目

 海外投資でリスクを負わず、勝手知ったる日本国内で自治体とともに日本経済の活性化に取り組む戦略こそ賢明だと思いませんか。スノーピークは三条市の力を成長エンジンに仕立てた会社です。地域の強さを知り尽くしています。勝利の鉄則は自身が得意な分野で闘うこと。以前にも書きましたが、山井社長ら経営陣はそれぞれソロキャップしながら、スノーピークの強さとは何かを焚き火の炎を見ながら考えたらどうでしょうか?楽しいですよ。

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