そごう・西武労組がスト権確立、M&Aで労使交渉 労働運動の新潮流到来を告げる
百貨店大手のそごう・西武労働組合が7月25日、ストライキ権を確立したと発表しました。同労組は親会社のセブン&アイ・ホールディングスが公表したそごう・西武の売却計画などについてセブン&アイも含めた労使交渉を要請しています。百貨店のストライキは1950年代に決行された後は皆無ですが、今回は約4000人の組合員のうち93・9%が賛成し、労組全体の結束力の強さも示しました。労働組合運動は組織率の低下もあって春闘などを率いる連合の存在感も薄れてしまっていましたが、今回のスト権確立は労使交渉に新しい潮流が生まれていることを告げているのかもしれません。
スト賛成は9割超、結束力の強さも
新聞などによると、そごう・西武労組の寺岡泰博中央執行委員長は「これまでのセブン側の対応は不誠実だった。今回の結果は全組合員の意思表示だ。そごう・西武の経営陣にも事業会社として進むべき方向性を具体的に提示してほしい」と話しています。スト権を確立したものの、すぐに決行することはなく、親会社のセブン&アイに対してそごう・西武売却後の事業計画や雇用継続についての情報開示、事前協議や団体交渉を求めていくそうです。
セブン&アイは2022年11月にそごう・西武を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却すると発表しました。米ファンドが家電量販店のヨドバシカメラと連携して店舗改装などを検討していることが判明したため、企業ブランドの損傷を心配するそごう・西武、さらに西武本店が構えるJR池袋駅周辺のイメージの変化を懸念する東京都豊島区も見直しを求めています。
M&Aも含めて協議は画期的
セブン&アイがそごう・西武の労使交渉に参加するかどうかはわかりませんが、労組が自身の雇用問題だけでなく、M&Aによる自社の企業イメージの損傷なども含めて協議を求めることは画期的です。
労組は従業員が参加する組織ですから、経営陣の判断に関与するとしても限界があります。しかも、今回はそごう・西武の親会社セブン&アイによる売却計画です。子会社の労組がスト権を手に親会社の経営陣に交渉を求めるのは極めて異例です。労使交渉の原則は従業員が属する会社の経営陣が相対します。親会社の経営陣が交渉の場に出ることはありません。
労組側も労使交渉の原則を理解しているでしょうが、売却される立場の経営者と交渉してもどんな成果が得られるか疑問を持つのも当然です。だからこそ親会社を巻き込んで、自社の売却計画についての説明とともに、売却後の経営の行方についても協議を求めるわけです。
地域に根ざした百貨店の特性もあります。店舗の運営が大きく変われば、商品の取引先、そごう・西武でショッピングする消費者、百貨店を中核に街が形成される地域の商店街など、そごう・西武の従業員以外にも大きな影響を与えます。
地盤沈下の労組に一石
労組の地盤沈下が止まりません。労組の組織率は1948年の55・8%をピークに下がり続けており、1980年には30%程度、2022年には16・5%と過去最低を記録しています。組織率の低下に呼応するかのようにこの30年間、日本の年収は横ばいが続き、伸びていません。先進国の賃金水準でも下位グループに落ち込んでいます。最近の春闘が良い例です。全国の労組を率いる連合は政府主導の賃上げ誘導と足並みを揃え、労使対決よりも労使協調を謳っています。今春闘は3%超となりましたが、物価上昇率と比較すれば実質賃金はマイナスかもしれません。従業員の視線から労使関係、経営の監視役を果たしているのかと疑問視されてもおかしくありません。
そごう・西武の労組は、沈滞する労組に一石を投じた格好です。M&Aは今後も多くの企業で行われ、従業員が翻弄される事例は増えるでしょう。従業員の声を代弁する労組が物申す動きは、変革を叫びながら何も変わらない日本企業の革新にも刺激を与えるはずです。新しい労組の役割と期待を生み出すきっかけになると期待しています。