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スバル・アウトバックが消える 新たなEVは「スバル」を継承できるか

 スバルの最上級SUV「アウトバック」が2025年に消えます。現在は米国のインディアナ工場だけで生産されていますが、トヨタ自動車と開発・生産している電気自動車(EV)「ソルテラ」に切り替わるそうです。アウトバックは北米や日本で高い人気を集めるSUVで、ベンツやポルシェのSUVに負けぬデザインと機動力を備えながら価格はほぼ半分。世界でも独特の境地を切り拓いたスバルの強さは水平対向エンジンにありますが、EVへモデルチェンジすればアウトバック人気と水平対向エンジンを捨て、駆動モーターで走る「スバル」ブランドを再構築しなければいけません。スバルの未来を占うモデルチェンジです。

レガシィの系譜を継承する逸品

 「もったいない」。率直な感想です。アウトバックは大柄な車ですが、小回り性能は良く、荷物を積む空間はたっぷり。家族で移動する時はとても楽です。短期間の旅行で2000キロを走っても疲れはほんの少し。燃費も優れ、ハイブリッド車が欲しいと考えたことはありません。なによりも4気筒の水平対向エンジンがスムーズ。アウトバックの初期モデル「グランドワゴン」から乗り継いでいますが、今のアウトバックが最も熟成しており、秀逸な域に達しています。現在、発売しているブラックバージョンを最後に受注を中止する予定だそうです。黒ピリオドを打つ感じですか。

 スバルとの出会いは小学校の頃から。担当の先生が「スバル360」を運転しており、乗せてもらったのが初体験。てんとう虫のような可愛いデザインだけど、走りは楽ちん。格好良いと思ったものです。それから20年後の1980年代後半には新聞記者として当時の富士重工業を担当しました。

 ちょうど日本車が激動期に突入した時でした。1985年のプラザ合意で円高が急加速した結果、日本の自動車メーカーは窮地に追い込まれ、日産自動車の傘下にあった富士重も生き残りをかけて博打を打ちます。手堅い人気を集めていた1400CC級乗用車「レオーネ」の上級車としてエンジン排気量2000CC級「レガシィ」の開発を決断。さらに円高で輸出採算が悪化した米国でいすゞ自動車とともに合弁で工場を生産することを決めました。経営規模が中位クラスだっただけに、英断か蛮勇か戸惑う空気が広がったのも事実でした。

 賭けは当たりました。レガシィは国内外で大ヒット。米国で人気のステーションワゴンをなぞっているかに見えますが、悪路を苦にしない四輪駆動(4WD)で安定した走行性能を実現するとともに、後部のトランクルルームを広く設計。家族で快適に移動でき、キャンプや釣りなどアウトドアライフに活用できる使い勝手の良い車を生みました。現在、新車販売の主流を占めるSUVの原型と評価されるほど市場の近未来を先取りました。

 アウトバックは1994年、「レガシィ」を継承する形で北米で誕生しました。砂漠や森林など荒野を意味するアウトバックを冠した車だけに、水平対向エンジンによる低重心を活かした四輪駆動車(4WD)は米国でも悪路や悪天候でも安心して走ることができ、広い後部荷物室など使い勝手の良い車内設計も評判を呼びました。購入者が比較的所得が高い層を中心に販売が広がったこともあり、トヨタ、ホンダ、日産自動車とは異なるスバルブランドに成功しました。

後継はソルテラだが、トヨタとの共同開発は順調?

 そんなアウトバックに代わるEVが「ソルテラ」。トヨタとの共同開発車で、トヨタは「b Z4X」の車名で販売。トヨタの元町工場で生産しています。2022年4月の発売直後から車輪の接合ボルトの設計ミスなどのリコールが続き、その後遺症もあってか販売は低迷しています。ソルテラを試乗したことがありますが、走りはとてもしっかりした印象で、EVならではの加速感はさすがでした。

 ただ、価格は700万円近く、アウトバックの400万円台をかなり上回ります。ソルテラの販売台数はデータを見ると、22年から2年間過ぎていますが1000台に達していないようです。スバルの顧客層からみれば、かなり高い価格帯です。「スバルは車が優れいているので、販売店の力が弱くても売れる」とよく言われており、その販売店の力を考えれば700万円台の高価格帯をヒット車に祭り上げることは至難でしょう。

ブランドに新しい価値を加えられるか

 米工場で生産するアウトバックの後継車が登場するまで、まだ1年以上あります。ソルテラ、bZ4Xの経験を活かして改良を重ねているはずです。きっと仕上げの良い電気SUVが登場すると期待しています。

 しかし、レガシィから築き上げた信頼を担うことができるかは、これからが試練。スバルは「フォレスター」などアウトバックを上回る人気車を抱えているだけに、EVへの移行も状況を見ながら進めるでしょう。EVで新たな価値をスバルブランドにどうもたらすのか。見極めには時間がかかるでしょう。

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