スバルのEV戦略 トヨタに翻弄 ソルテラ はテスラのオベリスクに立ちすくむ
「やっぱり」という言葉とともに吐息が出そうでしたが、スバルの経営を考えたら弱音を吐いているわけにはいきません。ソルテラです。
トヨタと共同開発のEVは加速できず
同車の開発・生産をほぼ委託しているトヨタ自動車は、電気自動車(EV)の開発戦略を抜本的に転換します。車の屋台骨ともいえるプラットフォーム(車台)にEV専用を開発することにしました。トヨタはEVは脱炭素の切り札と理解しながらも、ガソリン車やハイブリッド車と並ぶ車種のひとつと考え、車台の基本形は同一のまま。しかし、テスラや中国のEVに対抗するためにはEV専用の基本設計が必要と判断を改めました。
というのも、エンジンやハイブリッドと共用する車台は、エンジンなどを取り付ける設計が欠かせません。EVの場合、車台に搭載するのはモーターとバッテリーが基本。車両設計全体の自由度が全く違いますし、生産コストもはるかに下がります。
スバルは2022年5月、初めてEV専用モデル「ソルテラ 」を発売しました。トヨタの「bZ4X」と走りの味付けを変えていますが、EVの基本性能である電気モーター関連、バッテリーは同じ。事実上、トヨタにお任せ。ところが、発売から1ヶ月も経たないうちにリコールが発生します。モーターやバッテリーなど駆動系の機器を搭載するシャシーとタイヤを繋ぐボルトの不良が主因です。急発進など強い衝撃が加えられると、破損する恐れがありました。
通常のリコールは、ディーラーに持ち込んで修理しますが、ソルテラ・bZ4Xの場合は走行中止です。ディーラーへの持ち込みなどできないほどの重傷です。ボルトの耐久性能は車開発の基本中の基本。世界でも最も厳しい品質基準を死守するトヨタでその不良が発生するとは信じられませんでした。電気自動車の基本設計にトヨタですら予想できない難点が発生しているのではと穿っていました。そして半年余り過ぎた2023年1月にEV専用の車台を開発する方針への転換です。スバルファンなら「やはり」とうなずき、ため息が出ます。
清水の舞台から飛び降りたのに・・・
なにしろスバルにとってEVの発売は、まさに清水の舞台が飛び降りる思いでした。自社の最大の強みである水平対向エンジンを捨てるのですから。中規模な自動車メーカーながら、世界でも高いブランド評価を堅持できていたのは、スバルならでの水平対向エンジン。車両の低い重心に4輪駆動システムを組み合わせ、悪路を走破する動力性能は、「スバリスト」と自称する熱いファンにとってどのメーカーと比べても代え難い価値を持っています。
ソルテラ の発売は失敗が許されませんでした。にもかかわらず1ヶ月足らずでリコール。半年後には車台の基本設計を抜本的に転換。スバルはEV専用の工場の建設計画をすでに発表しています。トヨタが開発するEV専用車台は2027年以降に完成するそうですから、スバルのEV戦略はこれからの4年間、どう展開するのか。工場建設を打ち出したものの、まるで二階に上がって梯子を外された状態です。
やはりトヨタの呪縛から逃れるしかない
ソルテラ は太陽と地球の大地を意味するラテン語を組み合わせた造語です。そしてスバルは牡牛座の星座「プレアデス/すばる」が由来。ソルテラ は太陽と地球との親和を象徴し、4WDで地球を走り回り、太陽の下で自然を楽しむスバルの未来をわかりやすく語っています。
世界のEV市場を席巻するテスラのアイデンティティは、エジプトのオベリスクのように真っ直ぐに立ち、周囲を威圧するオーラを発しています。ソルテラ がテスラのオベリスクの陰から抜け出し、「スバル」として輝くためには、翻弄され続けるトヨタの呪縛から逃れるしか無いのです。