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サントリー オーストラリアで缶チューハイ生産 ワインの恩讐を超えて市場創造へ

  オーストラリアのワイン協会の会長に突然、怒られたことがあります。「サントリーはオーストラリアのワインを日本で勝手に安売りしてしまい、我々の評価を大きく下げた。日本は信じられない」と捲し立てたのです。シドニーでワイン協会が開催した記者会見の場でした。日本人記者が出席しているのに気づき、冗談で怒ったふりをしているのかと思っていたら、本気でした。会見後に詳しく事情を本人から聞いたら、次のような説明でした。

オーストラリアワイン協会の会長に怒られる

 日本でワインといえば、フランス、ドイツなど欧州産がどうしても一級品として知られ、南半球のワインは全く馴染みがない。欧米ですでに高い評価を得ているオーストラリアとしてはとても残念。ワイン協会はなんとか日本に足掛かりが欲しいと考え、サントリーと提携したが、そのサントリーは割安なワインとして売ってしまい、日本の消費者が抱くイメージが悪くなってしまった。

1970〜80年代の頃だそうです。こう説明した後、ワイン協会の会長は日本でいかにオーストラリアのブランドイメージを高めるのに苦労したのかを語り続けました。

 そのサントリーが8月、オーストラリアで「缶チューハイ」などの現地生産すると発表しました。サントリー食品インターナショナルが清涼飲料と酒類の両方を生産する飲料工場を建設します。投資額は約380億円。2024年半ばに操業するそうです。サントリーの現地子会社が主体になります。

ラグビー観戦は両手にビールセット持参

 ちょっと驚きました。オーストラリアは、ビールが大好きな土地柄です。国民的スポーツであるラグビー戦などの観客は、缶や瓶のビールセットを両手で持って席に座って、飲み続けるのが最大の楽しみです。一緒にビールを飲んでいると、彼らは胃袋どころかビールの水分を溜め込む膀胱も底なしなんだと何度思ったことか。

 そのオーストラリアでほとんど知られていない「缶チューハイ」の市場を育て上げるそうです。思わず当時のワイン協会の会長ならどんなコメントをするんだろうと考えながら、さすがはサントリー、まずはマーケティング最優先。「やってみなはれ」ですか。

 サントリーの狙いはRTDの世界展開。RTDとは「Ready to Drink」の略語で、缶の蓋を開けたらそのまま飲める缶チューハイや缶カクテル、ハイボール缶などのアルコール飲料を指しているそうです。サントリーは、果実の種も皮もまるごとマイナス196度で瞬間凍結・粉砕・浸漬する製法を使い、缶アルコール飲料「ー196℃」を開発、ヒットさせています。サントリーのホームページによると、アメリカ、日本に次ぐRTDの市場規模を持つオーストラリアで、テストマーケティングを展開することで世界市場にどこまで受け入れられるかを見極めたい説明しています。すでに缶チューハイを飲む層があるとは知りませんでしたが、日本を観光などで訪れたオーストラリア人が缶チューハイなどを知り、購入しているそうです。

狙いは世界を睨んだテストマーケティング

 オーストラリアは欧米のみならずアジアから多くの移民を迎え、さまざまな文化や食生活が入り交じる多文化国家です。富裕層から低所得まで適度に分散する社会構造となっているため、1980年代から世界の新製品が最初に発売され、その商品力を測る地域として利用されてきました。テストマーケティングが成功するのか失敗するのかはわかりませんが、日本の缶チューハイなどがビール、ウイスキー、ワインが主力である欧州やアジア各国で受け入れられるかどうかを見極める市場として最適です。

 コカコーラが日本でバーボン「ジャック・ダニエル」とコーラを混ぜた「ジャックコーク」を発売する時代です。学生の頃からバーボンが大好きで、給料が入る身分になったらジャック・ダニエルを飲もうと決めていた自分から見たら、コークと一緒に飲むなんて勿体無いと思うのは無粋の極みなのでしょう。コークハイは昔からありました。

 今や、いろんなアルコールと飲料がコラボレーションするのは不思議ではありません。「オーストラリアには世界でトップクラスのワインがある」と語ったワイン協会の会長のように「日本の酒は缶チューハイ以外にも、もっとあるぞ」と考えるのは無粋の極みの極み。サントリーが、缶チューハイなどRTD市場の開拓に成功することを期待しています。

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