
BYD が軽EVに参入、スズキ・ダイハツと競い、日本車を凌ぐ評価を狙う世界戦略も
中国の大手EVメーカーのBYDが軽EVを開発し、日本市場に本格参入するそうです。軽自動車は日本独特の規格ですから、日本車の独壇場です。そこに世界で割安なEVを発売しているBYDが割って入るのですから、一大事。ところが、軽市場を握るスズキ、ダイハツ工業がEVを本格投入するのはこれから。EVの次代市場は小型車が主力になると予想されるだけに、スズキ・ダイハツはBYDに軽EV市場で負けるわけにいきません。BYDがスズキ・ダイハツと始める闘いは、実はEVの世界市場を睨んだ覇権争いと見て良いでしょう。
軽の覇権争いは世界市場を睨む
日本経済新聞によると、BYDは日本の軽規格に適合する専用車を開発し、2026年にも発売する計画です。軽規格はエンジン排気量が660CC以下で、全長3・4メートル以下、全幅1・48メートル以下、全高2・0メートル以下の3輪車か4輪車を満たす車です。EVの場合、エンジンを搭載していないので、車体の大きさで分類されます。欧州車にはもっとコンパクトな車がありますが、日本独自の軽仕様に合わせてわざわざ開発、生産しても割に合わないと判断され、これまで日本車メーカー以外は軽を販売していません。
それでは、なぜBYDは日本の軽市場に参入するのでしょうか。日本車と真っ向勝負して中国車の品質の高さをアピールすることです。1980年代までの日本車もそうでしたが、見かけは多少悪いものの、割安でも故障しない品質の高さが評価され、その評価を足がかりにトヨタ自動車など日本車メーカーは世界市場で躍進しました。
中国車は世界市場で存在感を高めていますが、まだ割安な価格が武器です。品質やデザインなどで高い評価は得ていません。日本でも小型EVを発売しましたが、販売台数は全く物足りない水準です。
日本の消費者の評価は世界の品質に
「日本では米国車が走っていない」とトランプ米大統領は訳のわかならい理由で憤慨していますが、日本の消費者は価格はもちろん、品質にうるさいことで有名です。車体のちょっとした傷はあってはならない。故障も無いのが当たり前。とりわけシート周りなど車内の使い勝手に神経を尖らせます。
軽自動車が日本の新車市場の4割も占める理由は車体が一回り小さいものの、燃費の良さ、荷物の積載スペースの広さなどが消費者から高く支持されたからです。BYDがスズキやダイハツとの競争を通じて、高品質、使い勝手など細部にまで神経を使う日本車の強みを習得する狙いです。
しかも、日本の軽市場は次代のEV市場を占う有力な試金石と睨んでいるはずです。BYDはテスラを抜いてEVで世界トップの座に立ったといっても、生産台数の過半は使い勝手の良いハイブリッド車が占めています。技術開発が加速しているとはいえ、バッテリーの蓄電能力や充電関連のインフラ整備はまだまだ不十分。販売価格もエンジン車に比べてかなり割高。いずれもEVの普及が失速した理由です。欧米では高級EVが売れる可能性がありますが、EVの世界戦略を展望すればインフラ整備が遅れ、購買力がまだ低い発展途上国向けに航続距離が短くても使い勝手が良く価格が手頃なEVが必須です。
あっと驚く価格で登場するのでは
BYDは十分に勝算があります。まずバッテリーなどEV関連の基幹部品を割安に調達できるため、日本の軽EVと十分に競争できる強みを持っています。BYDは中国政府が国内市場のEV販売を支援していることもあって、世界最大の中国市場でのシェア拡大をバネに生み出す量産効果によって欧米や日本が敵わない割安な価格を設定します。ここ数年、テスラを抜き去って世界トップのEVメーカーに躍り出た原動力はその価格破壊力。2026年に軽EVを発売した時、日本車メーカーがあっと驚く価格を提示するのではないでしょうか。
BYDの新規参入を軽市場で待ち構える日本車は打ち負かすことができるでしょうか。日産自動車と三菱自動車は2022年夏に軽EVを発売して大ヒットを放ち、軽商用も発売しました。ホンダは2024年秋に軽商用を発売しています。トヨタ、スズキ、ダイハツの3社は2025年中に共同開発している商用軽EVを発売する計画です。残念ですが、全体としてはちょっと出遅れ気味です。
BYDに尻を叩かれる格好になってしまいますが、日本のEVはようやく発車します。中国政府が盾となっているBYDはかなりの強敵です。BYDとの軽の闘いを価格競争に目を奪われる狭小な見方は避けましょう。日本の軽EVの勝者は世界のEV市場でも勝者になるのです。ガンバレ!!