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スズキの販売店

スズキとダイハツ統合 最終シナリオは軽の販売戦争の終焉

 鈴木修さんがトヨタ自動車の豊田章男社長と懇談している動画コンテンツがトヨタイムズで配信されています。トヨタイムズはトヨタが開設したネットメディアです。コンテンツは「ここだけの話」を題にテレビキャスターが聞き手役を務めて二人が率直な対談を楽しむスタイルです。このコンテンツは2年前の2019年9月から配信されているものですが、2021年7月22日の「TOYOTA NEWS」の項目にアップデートという形で再掲されました。

豊田章男社長 鈴木修さんとの信頼関係をアピール

 前日の7月21日、スズキとダイハツ工業は電気自動車の商用車開発を進めている「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJP)」に出資すると発表しています。CJPはトヨタが中心になって日野自動車、いすゞ自動車が同年4月に設立した研究開発会社です。

 鈴木修さんと豊田章男社長が対談した動画コンテンツがスズキとダイハツが軽商用車の電動化プロジェクトに参加すると発表した翌日に記者会見の内容と結び付けてトヨタイムズで一つの記事コンテンツとしてまとめているわけです。狙いは明白です。スズキとダイハツのCJP資本参加の背景には鈴木修さんとの深い信頼関係があることを強調したいという豊田章男社長の思いを反映しているのです。

 二人の対談は「豊田章男から、鈴木修相談役へ語られたメッセージ【全文公開】」との大きな見出しが打たれており、記者会見での質問「スズキの鈴木修相談役への想いを聞かせいただきたい」に答える形で豊田章男社長が語ります。そこに2年前の映像コンテンツとして制作した2人の対談が重なる流れに再構成してあります。

 ただ、記者会見のパーツと動画のつながりがなかなか理解しにくい面があるので、肝心な締めの部分をHPを参考に要約すると、豊田社長は鈴木修さんへの思いに答える形で、EVの研究開発会社を通じて自ら軽自動車の未来を描き、スズキがすんなり参加できる道筋を提示した。これに対し豊田社長が抱く鈴木修さんへの感謝の表れということなのでしょう。

 スズキは奥田碩氏がトヨタを率いた時代の確執を超えて豊田章男社長の時代に大きく舵を切ることができました。豊田家と鈴木家は同じ静岡県浜松出身という関係にあります。そこに長年の友人である父豊田章一郎にねじ込み、トヨタとスズキの関係を競争から協力へ変えることに成功します。鈴木修さんと豊田章男さんの信頼関係はまだ発展途上でしょう。

 トヨタイムズの対談を見ているとよくわかります。もう30年以上何度も騙されたせいか、鈴木修さんの表情を読むのが習慣になっています。豊田章男さんに対する話す表情、口振りは「いつもの修さん」でないことに気づきます。相手の懐にスッと入り、その胸の内を読む切る「人たらし」の修さんです。その修さんがわざとらしく映るほどの気遣いを見せています。

 あくまでも個人の感想ですが、きっと章男さんの心がまだ読めないのでしょう。あえて言えば、あの鈴木修がここまで気遣いしなければいけないほどスズキとトヨタの関係をなんとか堅固にしたいという深い思いが浮き彫りになります。驚きです。一方の豊田章男さんは対照的です。すっかり心酔しています。

 もともと人に対して好き嫌いがはっきりしている性格とお見受けします。長年仕えていた同僚・部下でもある日突然とスパッと切る人事を実行する人物です。最近、トヨタ社内では「章男さんに気に入れられた人間ばかりが出世する」との噂が飛び交っています。まあ、社長です。社内人事については万能ですから。

 世界最大の自動車メーカーがこんな噂が漏れること自体、どうかなとの疑問はありますが、それは会社なら海外でもよくあることです。そんな章男さんがトヨタが長年提携関係を保ち、子会社化したダイハツよりもスズキに擦り寄り、軸足を移すのは当然です。

それでは鈴木修さんの胸の内はどうでしょうか。ここからは再び推察です。あくまでも個人的な意見を交えて想像してみます。

 日本の自動車市場は人口減もあって楽観的に見ても頭打ち、右肩下がりの成長軌道を描く可能性が大きい。新車市場で軽自動車の占めるシェアが全体の4割に迫っており、今後も増える見通しだ。売れ筋を見てもSUV・ワゴンか小型車の両極に分かれている。新車の価格も高級車と安価な車の二層構造がより鮮明になるはず。

 しかも、電気自動車(EV)が普及するとはいえ蓄電池の能力と航続距離向上を考慮すると、売れ筋の車は小型化が加速するのは間違いない。主戦場は小型車市場になる。需要が伸び悩み、限られたパイの奪い合いとなれば、軽を軸にした価格競争が激化するのは必至だ。シェアでトップ争いするスズキとダイハツが赤字を垂れ流す販売合戦を繰り広げている余裕はない。販売に使うカネを浪費するよりは、自動車の電動化など環境技術の開発、販売体制、充電基地など業界を挙げて産業インフラを再構築する投資に回すのが賢い選択だ。「100年に一度」の大転換期であることは公取委も理解できるはず。

 以上を踏まえて決断することは、スズキとダイハツの軽自動車事業の事実上の統合しかありません。国内の軽市場はスズキが主導する一方、アジアなど新興国市場向けの新車開発はダイハツが責務を負う。もちろんスズキがシェアトップを握るインドなどと棲み分けをしながら、トヨタグループとしてと世界戦略を展開するでしょう。

 ダイハツの奥平社長は海外市場を熟知した開発の専門家です。スズキとダイハツが国内市場でしっかり収益を上げられる経営基盤に移行できれば、海外や電動化への投資余力は格段に改善します。

 すでにスズキとトヨタは2016年10月、公式に業務提携に向けて手を組むことを発表し、その後も資本出資を含めてハイブリッド技術の供給、インドやアフリカなどでのOEM供給といった協力事業を加えて増え続けています。小型車の世界戦略はトヨタを軸にスズキとダイハツによってきめ細かい網の目で織られ、フォルクスワーゲンや中国などの小型EVと十分に対抗できるようになるはずです。そこにトヨタと提携し、電気自動車を共同研究したマツダが加わるかどうか。ひょっとしたら三菱自動車も手を挙げるかもしれませんね。

 はっきりと見えてきたのは、軽自動車の激しい競争はもう終わりに近づいていることです。日本の自動車各社は現時点でおおまかにですがトヨタグループに収れんしています。日産自動車、ホンダの足取りに力強さを感じられません。今後、どう生き残るかが注目されていくのでしょう。

修さんから見える10年後の自動車産業はいかに映っているのか

 鈴木修さんの目には10年後の自動車産業を映っているのでしょうか。それとも自動車産業が存続しているのかどうか、迷っているのかもしれません。トヨタとの提携拡充、ダイハツとの事業統合、いずれもスズキの生き残りだけを考えて勝負手を打っているわけがありません。

 軽自動車が電気自動車から進化を重ねて、世界の移動体(モビリティ)として空を飛び回っている未来を思い描いているのかもしれません。100歳になった修さんと酒を酌み交わして、「あの時、ホントはこう考えていたんだよ」と笑い合いたいです。

 酒のサカナはもちろん、豊川の竹輪ですよ。家庭用サウナの透明な小窓から見せた笑顔は一生忘れられません。あのワザとらしい演技力は映画「社長シリーズ」「駅前シリーズ」で主役を務めた森繁久弥さんに負けませんよ。超一流の演技を堪能した後に飲んだ日本酒と竹輪は本当にうまかった。

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