社外取締役は矛か盾か、それとも鏡 スズキとスターツ 高橋尚子さんを起用
スズキが社外取締役としてシドニー五輪のマラソン金メダリストで知られる高橋尚子さんを起用します。高橋さんは昨年2022年6月にスターツコーポレーションでも社外取締役に選任されており、これで2社目。社外取締役は会社法で義務化されたこともあって多くの企業で選任の動きが広がっていますが、適任者不足も指摘されており、本来の機能を十分に果たしているのかどうか。企業が批判を交わす盾の代わりとして使われるなら、本末転倒です。
シドニー五輪の金メダリストでESGでも積極活動
高橋さんに関する説明は不要でしょう。2008年の現役引退後、テレビの解説者などとして活躍しているほか、ケニアなどにマラソンシューズを送る運動に参加するなど途上国への貢献活動にも熱心に取り組んでいます。
スズキは就任を要請した理由としてスポーツに精通しており、ESGへの取り組みも熱心で幅広い経験を持っている点などを高く評価しています。2023年6月の株主総会後の取締役会で正式決定します。
スターツは2022年6月、高橋尚子さん、ヨネックスの執行役員・山本美雄さんを選任しました。スターツは2019年に高橋尚子さんとスポンサー契約を結んでおり、スターツ陸上競技部のアドバイザーにも就任しています。
社外取締役が当該企業の利害に囚われずに中立的な視点で会社経営に参画することが役割であると考えると、すでに深い利害関係があるのではないでしょうか。ちょっと首を傾げます。
社外取締役は中立の視点で将来の課題を指摘
社外取締役は2021年3月の会社法改正で上場会社に義務付けられたこともあって、誰を選任するかなどに関する話題が増えていますが、その一方で本来の職務を遂行しているかを問う動きも活発です。
直近ではエレベーター大手のフジテックが好例でしょう。2月24日開いた臨時株主総会で、大株主である香港の投資ファンドが創業家に対する便宜許与を見逃したとの理由で5人の社外取締役の解任を提案、取締役会議長など3人の解任が可決されました。経営再建の行方が右往左往する東芝の場合も、カギを握るのは社外取締役です。
かつて社外取締役は話題性だけで選ばれている時もありました。日産自動車をみてください。2018年6月の株主総会でレーシングドライバー 井原慶子さんが社外取締役として選任されました。
日産にとって女性の取締役は初めてです。井原さんはレーシングドライバーとして活躍するとともに、官公庁や自治体の審議会委員や政策アドバイザーとして活躍していました。日産生え抜きで優秀な女性幹部を多く知っていただけに、社外から人材を抜擢した背景がよく理解できませんでした。
日産は初めての女性取締役を社外から
その決定から5ヶ月後の11月、日産を支配していたカルロス・ゴーン氏は有価証券報告書の虚偽記載で逮捕されました。
社外取締役が当該企業から縁遠い人材は相応しくないと考えているわけではありません。取締役会で経営陣が気づかない視点や問題点を指摘する気構えを持つ人材であって欲しいだけです。自分は事業についてはよくわからず、疑問があっても異論を自ら封じてしまってはその役割は果たせません。勇気を持って異論をどんどん言い放つ人材が社外取締役に就任するなら、ぜんぜん問題ありません。
社外取締役は課題を突きつける「矛」
言い換えれば社外取締役は企業の不祥事を先取りして課題を突きつける「矛」でなければいけません。それが周囲からの批判をかわす「盾」になってしまったら、文字通り社外取締役の形骸化を招くだけ。社外取締役を矛にするのか盾にするのか。
自らの実相を映し出す鏡
ひとつやり方を間違えれば自らの経営、従業員への矛盾です。この矛盾は自社の至らぬ弱点を映し出す鏡です。青銅製の鏡は錆びて磨き直しを忘れてはいけません。しかし、現在の社外取締役の起用を見ていると、直近の輝きに目が眩み、将来の課題を見落とす恐れがあるとしか思えません。