トヨタ、車載電池へ1.5兆円、日本と欧米のEVデファクト争い ボルテージ上がる
ハイブリッド車を延命しなければいけない理由はまだあります。欧米などはCO2を排出する火力発電を利用して生産した製品は購入しない、あるいは課税することなどが検討されています。クルマをEVに全て一気に切り替えたらどんなカタストロフィーが起こるのか。日本は国内生産1000万台の約5割を輸出していますが、自工会の試算ではEVとFCVの生産台数は2030年時点で200万台に満たないとしています。
豊田会長は日本が再生可能エネルギーの普及で遅れている現状を踏まえ、「今のエネルギー事情だとクルマは輸出できなくなる」「800万台以上の生産台数が失われる」と危機感をあらわにして「輸出で成り立っている日本にとって、カーボンニュートラルは雇用問題であるということは忘れてはいけない」と警告。国内の自動車関連の550万人の雇用維持が困難になるとの見方を示しています 豊田氏は自民党総裁選にも触れ、「一部の政治家が全てEVにすれば良いとか製造業は時代遅れとの声を聞くが違う」と反論します。
最近、トヨタのネットメディアであるトヨタイムズの編集長である香川照之さんが「水素エンジン」を連呼しているのも、既存のエンジンでもCO2排出を抑制できることを訴える狙いがあります。エンジンはシリンダーブロックはじめ多くの部品で構成されています。電気自動車はモーターで駆動するのですから、エンジンは不要になります。確実にエンジン部品を生産するメーカーが頓挫します。ガソリンの代わりに水素を燃料に活用できれば部品メーカーは延命できます。
日本か欧州か、それともテスラか。日本の自動車産業の将来は、次世代のデファクト争いを誰が握るかにかかっています。大気汚染や2度の石油危機などで自動車の環境技術は日本がリードしてきました。トヨタが1997年に世界で初めて発売したハイブリッド車のプリウスの登場は、世界の自動車メーカーにとって21世紀の環境技術のデファクトを奪われた瞬間でした。日産自動車はじめ米国、ドイツの自動車各社がEVシフトを加速したのもトヨタにハイブリッド技術を握られていたからです。
環境技術でトヨタが築いた土俵で戦っても、ハイブリッド車に固執している限りトヨタには勝てません。2000年に入り、欧州の自動車メーカーは日本のガソリン技術に対抗するため、ディーゼルによる排ガスのクリーン化で日本に差をつけようとしましたが、ディーゼル技術の不正操作で技術力のなさを露呈しました。
そこに米国のテスラが忽然と現れます。「素人が自動車を開発、生産できるわけがない」と様子見だった世界の自動車メーカーは試行錯誤を繰り返しながらも急成長を続けるテスラに驚き、今や世界一の自動車メーカーであるトヨタの時価総額を上回ります。欧州の自動車メーカーにとって、テスラの躍進がカーボンニュートラルこそ次世代のデファクトを奪い返すチャンスと映ったはずです。
EU(欧州連合)は2035年にガソリン車の新車販売を事実上禁止する方針を決め、米国は2030年に新車販売の5割を「排ガスゼロ」にする方向です。日本も2035年までに乗用車の国内新車販売をすべて電動車にする目標です。電動化をきっかけにオセロゲームのように敗色濃厚だった自動車のデファクト争いを一気にひっくり返せるかもしれない。トヨタから見ればカーボンニュートラルの世界的な潮流の中で一方的にハイブリッド車を排し、EVがベストと理解される世論形成に「Time!」と声を上げる必要がありました。
デファクト争いは過去にもいろいろな産業・製品で数多く繰り広げられていますが、成功したメーカーがその成功を否定する新製品の投入をためらい、次のヒットの波に乗り損ねる場合が多いのが通例です。ハイブリッド車がこのジンクスを踏襲するか。覆すことができるのか。デファクトの政治力に長けている欧米が相手だけでにハイブリッド車とEVを巡るデファクト争いはまだまだ二転三転するのは間違いないでしょう。