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トヨタ、NTTへの道、ハイブリッドは「iモード」になるのか

トヨタ自動車は12月14日、電気自動車(EV)の戦略を大幅に修正しました。EV(水素を使った燃料電池車を含む)の世界の販売目標は2030年に200万台と設定していましたが、150万台上乗せした350万台に上方修正。研究開発費や設備投資も4兆円に増額します。豊田章男社長はEVシフトを声高に唱えながらも、水素の活用など内燃機関のエンジンに固執する姿勢を見せ、日本の自動車産業が世界の潮流変化から取り残されるのではないかとの危機感が広がっていました。トヨタは戦略修正を余儀なくされたようです。いつか見た風景です。世界に先駆けて「iモード」を開発し、携帯電話の新しい世界を探り当てたNTTのその後を彷彿させます。ハイブリッド車のガラパゴス化の道が始まりました。トヨタはNTTと同じ轍を踏むのでしょうか。

トヨタ にとってEV350万台でもまだ不足?

トヨタは世界で年間1000万台程度を販売します。350万台は年間の3割以上を占め、販売車種も30種類に増えます。特に高級ブランド「レクサス」はすべてをEVに切り替え、100万台規模にする見通しです。EV関連の研究開発や設備投資は22年から30年までの9年間、8兆円を投じます。2021年9月に車載電池の開発・生産に1兆5000億円を投資する計画を発表していましたが、5000億円上乗せて2兆円にさらに増額するそうです。

トヨタは製造業としての企業規模が頭抜けています。販売台数や研究開発・設備投資額の数字だけ見ると、すごい数字との印象を受けるでしょう。しかし、冷静に数字の内訳を見ると、驚きはないですし、欧米や中国のEVシフトに対抗できるのか不安が増大します。

まず世界の販売台数。2030年は9年後です。世界のEVに対する潜在需要は欧米、中国を中心にインドや東南アジアなどでも加速度的に増えるのは確実です。シンガポールの調査会社カナリスによると、2021年上半期の世界のEV販売台数は260万台で、前年同期比で160%増です。通期で500万台超になるでしょう。世界の販売台数をおよそ8000万台とみると、来年には10台に1台はEVが占める可能性もあります。コンサルタント会社のボストン・コンサルティングは2020年1月のリポートで、2030年の世界の新車販売でEVが占める比率を50%超と予測しています。

ドイツのダイムラーは高級車「メルセデス・ベンツ」を30年までにEV専業ブランドになると宣言しています。アウディは26年から全ての新車がEVです。欧米や中国の自動車メーカーがEVへの全面切り替えを急ぐ現状を考慮すれば、新車販売でEVが50%超になっても不思議ではありません。むしろトヨタは新車の3台に1台をEVとする販売計画のままでは、トヨタの世界販売計画は崩壊する恐れすらあります。

開発・設備投資はどうか。トヨタはこれまでも毎年1兆円超の設備投資計画を実行しています。22年から9年間でEV関連に8兆円を投資するといっても、新車開発の主力はEVになるのが当然ですから、こちらもEV関連が年間1兆円を下回る水準で良いのかという疑問の方が大きくなります。トヨタは余裕資金が十分にあるので、今後の積み増しは確実だと予想しますが、開発の遅れはお金だけでは取り戻せません。半導体を筆頭に開発投資は先手必勝です。トヨタはハイブリッド車の大成功で自ら証明しています。

EV戦略が後出しジャンケンに

最も疑問なのは、後出しジャンケンのような経営戦略の打ち出し方です。ハイブリッド車で「環境と自動車」について先駆的な役割を背負ったにもかかわらず、EVについては掛け声だけで実際は恐る恐る進めています。膨大な部品産業を抱える自動車産業として内燃機関エンジンを切り捨てるわけにはいかないという使命感は十分に理解しています。欧米メーカーが「環境」を掲げてEVシフトする背景に世界の環境車のデファクトとなったハイブリッド車を潰す狙いが秘められているのも承知しています。しかし、日本から自動車産業そのものが消えてしまっては元も子もありません。

EV戦略を発表する豊田章男社長は、かつて世界戦略を説明するNTTトップの姿とダブって見えました。NTTドコモは1998年に東証一部に上場した後、携帯電話の「iモード」の大ヒットで破竹の勢いを見せました。世界で初めてメールや音楽などを多様な情報・データサービスを可能にした「iモード」は、現在のスマホビジネスの先駆といって過言ではありませんでした。通話よりもデータ通信で稼ぐ携帯電話の新しいビジネスモデルは、アップルやGoogleなどが相次いでコピペして追随しました。

NTTドコモはNTTグループの中核企業として世界戦略に打って出ます。1999年に香港ハチソン、2000年に入ってオランダのKPNモバイル、そしてAT&Tワイヤレスに1兆円超を出資する巨大M&Aを実現します。世界の携帯電話会社とのネットワークを構築し、「iモード」で培ったデータサービスの技術とノウハウを携帯電話のデファクトスタンダードにする狙いだった。戦略は正しかった、と思います。しかし、資本出資比率が中途半端で提携先の経営の主導権を握ることができず、サービス展開などで遅れを取ります。経営環境の変化にも対応できず、結局はアップルやグーグルなどにメールやエンタテインメントなどスマホサービスの主導権を握られます。日本の携帯電話は自国の技術過信に溺れ、世界から取り残されるガラパゴスと揶揄されるまでになっています。

ドコモを教訓に

まるでトヨタのハイブリッド戦略を見る思いです。「環境に優しいクルマ」として世に送られ、ハリウッドスターがベンツに乗らずハイブリッドの「プリウス」を購入して自らの見識を示すほどでした。欧米の自動車メーカーは追随しようにもできません。トヨタは当初、ハイブリッドはあくまでもEVへのつなぎの技術と割り切っていました。しかし、世界的な大ヒット車に育った今、ハイブリッドをつなぎ役としてEVへバトンを渡すわけにはいかなくなってしまいました。足踏みしている間に欧米と中国はEVへ転換して、日本をあっという間に追い抜いてきます。ハイブリッドは延命こそできますが、日本国内や発展途上国の市場で延命する技術に落ちぶれてしまうのでしょうか。

NTTドコモに続くガラパゴスの教訓がトヨタが引き継ぐとは予想もしませんでした。今のNTTドコモを見てください。NTTグループから切り離されたドコモは初代の大星公二社長でNTTの堅い殻を破り、「iモード」を片手に世界に躍り出て現代のスマホ時代の基礎を築きました。グループ内からはやんちゃ坊主と言われたドコモは、今やNTT本体の支配下に戻され、普通の携帯電話会社になっています。トヨタも世界一の座に君臨したこともあった自動車メーカーと呼ばれる日が訪れるのでしょうか。

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