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トヨタとキヤノンが交錯する⑦ トップへの信任低下が語ること 世界の潮流と身内の論理が乖離

 偶然の出来事とは思えません。トヨタ自動車とキヤノン。ともに創業家出身のトップに対する信任が大きく揺らぎ始めています。日本を代表する名門、そして優良企業でありながら、国内外からそのリーダーシップに疑問が投げ掛けられる。改革に努めてきた日本の企業経営そのものがまだまだ力不足なのか。それとも創業家自らが正しいと信じて進む道筋を誤っているのか。多くの日本の企業に警鐘を鳴らしているとしか思えません。

企業経営の改革に警鐘

 トヨタは6月15日、前日の14日に開催した定時株主総会の議案賛否の集計結果を公表しました。海外の機関投資家などが反対していた豊田章男会長取締役の選任案は、賛成率が84・57%を占めて可決されました。ただ、昨年の2022年は95・58%ですから11ポイントも低下しました。

 豊田会長の取締役再任に対する賛成率は、議決権行使結果の開示が始まった2010年以降、93%を下回ったことがありませんでした。トヨタの業績は絶好調です。2023年3月期の営業利益は2兆7250億円、来期の2024年3月期は3兆円を予想します。目先の経営指標が足を引っ張っているわけではありません。

豊田会長の信任は90%を切る

 反対が増加した背景には、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)の存在があります。世界的な機関投資家として知られ、大株主として投資先の企業経営に積極的に意見を表明する姿勢もあってその発言は大きな注目を集めています。今回のトヨタの株主総会前に「取締役会の独立度が50%を下回っていること」を理由に豊田会長ら他の取締役の選任に反対意見を公表しました。トヨタは「カルパースから社外役員比率を過半数とすべきだとの意見も受け取っているが、当社は最適な人材を役員として任命している」と答えています

 米国の議決権行使を助言するグラスルイスも反対を推奨していました。やはり理由は独立性。社外取締役の候補として提案した4人のうち、トヨタの主要取引銀行である三井住友銀行の副会長が含まれ、独立の社外取締役とは認められないとしました。カルパースもグラスルイスも、4月に就任した佐藤恒治社長らの取締役選任に反対していますが、人事を選んだのは豊田会長。反対の矛先は豊田会長にあります。 

世界の視線は厳しさを増すばかり

 世界最大の自動車メーカーとしてカーボンニュートラルの姿勢を質すため、公的年金などの機関投資家などが自らの責任を示す目的で「反対」を表明する必要があったとの意見もあります。実際、オランダなどの機関投資家から気候変動をめぐる報告に関する株主提案がありました。この提案は賛成が15・06%と少なく、否決されています。

 それはあくまでも一部を切り取った視点に過ぎません。世界で最も自動車を販売するトヨタの経営に対する視線がこれまで以上に厳しさが増しており、業績のみならず経営全般に対する考えや実践が問われ始めているのです。果たしてトヨタは気付いているのでしょうか。いや、気付いていても、豊田会長の耳に入っているのでしょうか。

トヨタイムズは「ありがとう」が主見出し

 トヨタの株主総会を伝える自社メディア「トヨタタイムズ」を視聴してみてください。豊田会長は新聞やテレビなどメディアで伝えられる世論よりも株主からのサイレントな世論を重視したいと強調します。株主はトヨタにとって大きな利害関係者ですから当然の発言ですが、「辛い時があっても応援するぞ」的な気持ちの良い発言は聞こえても、耳の痛い発言は伝わるのでしょうか。総会の最後に豊田会長は感極まって言葉を詰まらせる瞬間があり、感謝でいっぱいの胸の内はわかります。「世界一であるより、町のクルマ屋でいたい」との気持ちもわかりますが、トヨタは世界最大の自動車メーカーです。国内外の視線、緊張感を忘れるわけにはいきません。

EV最高責任者は「大好きです」を2回発言

 地球環境問題に対する姿勢も同じです。欧州の機関投資家などから提案された気候変動に関する報告などは否決されましたが、電気自動車(EV)などの開発を加速する体制を最近は強調しています。EVの取り組みが遅いとの批判もあって、株主総会では「トヨタはテスラに勝てるのか」との質問もありましたが、その回答としてEVなどの開発最高責任者が強調したのは「私はバッテリーEVが大好きです」と2回発言したこと。株主総会は、やる気を表明する場だったのでしょうか。

 キヤノンの御手洗冨士夫会長兼CEO(最高経営責任者)の場合は、まさに薄氷を踏む思いでした。3月30日に開催した株主総会で取締役選任の賛成は50・59%。1981年から取締役を務める御手洗会長にとって、自らの信任に傷をつけました。キヤノンもトヨタ同様、業績は好調。信任反対の理由になりません。

キヤノンは女性取締役の不在が問われる

 反対の背景には取締役の多様性の欠如」があります。キヤノンの取締役は男性だけ。女性の不在を問題視した株主は増え始めており、昨年の2022年から賛成を投じる率は低下しています。再任に反対票を投じたとみられる。2022年の総会から、実はその傾向があった。社外取締役を含めてキヤノンの取締役は5人。御手洗会長をみると、賛成率は2021年は90%程度だったのが、2022年は75%まで低下。そして2023年は50%ぎりぎりでようやく信任を得ました。

 キヤノンは創業以来、実力主義をうたい、学歴、性別などを問わない方針を貫いています。しかし、御手洗冨士夫会長の実権はあまりにも強く、社長交代を繰り返しながら過去3度も社長就任を経験しています。実力主義を謳い、実践しているなら、創業家出身とはいえ同じ人物が何度も社長を経験するでしょうか。

トヨタもキヤノン同様、創業家が社長に?!

 トヨタの社長人事も今後、同じ視線で疑われるでしょう。創業家としてトヨタの経営哲学を守り、貫く人材を自らの後任として選び、自社メディアなどを通じて礼賛の声が響き渡る。4月に交代し就任した佐藤社長の次は、再び豊田家に大政奉還されると見る向きがあります。カルパースやグラスルイスじゃなくても「取締役の独立性」に首を傾げる機会が増えるなら、日本経済にとっても大きな損失です。

◆ 写真はトヨタイムズのHPから引用しました。

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