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ダイハツ「終わりの始まり」トヨタが海外向け小型車の開発・認証に責任

 トヨタ自動車はダイハツ工業から海外向け小型車の開発を切り離し、トヨタが最終的な認証まで責任を持つ体制に改めます。万が一、リコールが発生した場合もトヨタが窓口。海外向け小型車とはいえ、ダイハツが自動車メーカーの根幹である新車開発を手放す意味はかなり重い。ダイハツは軽自動車も開発・生産していますが、同じトヨタグループのスズキと協業する可能性もあります。エンジンの認証不正で日野自動車はベンツグループの三菱ふそうトラックバスとの経営統合で再生の道を歩みました。ダイハツは事実上、解体されるのかもしれません。「終わりの始まり」でしょうか。

トヨタは無言の圧力をかけた責任を取る

 トヨタは完全子会社ダイハツによる国の認証取得の不正問題を受け、親会社として海外向け小型車事業の体制を見直すことを明らかにしました。これまでは両社に「新興国小型車カンパニー」を設けて商品企画などを協議した後、ダイハツが開発・生産を担う体制でした。5月からカンパニーを廃止し、トヨタが開発から国の認証取得まで責任を持ち、開発の作業はダイハツに委託します。

 ダイハツが不正認証した背景には、トヨタとともに海外向け事業を拡大した結果、開発期間の短縮化などの圧力が強まり、認証に必要な過程を省略したためとされています。トヨタから見れば、ダイハツへ無言の圧力をかけた立場で、トヨタの責務を明確にするためにもダイハツから海外向け事業を引き離すしかなかったようです。実際の開発過程ではダイハツの経験やノウハウを利用すると思いますが、これまでのダイハツらしい飛ぶ抜けたアイデアなどが活かされる機会が消えるのでしょう。もったいない。

「ダイハツの役割と責任を再定義する」

 ダイハツの井上雅宏社長は4月8日の記者会見で「今後、新興国の小型車はダイハツとトヨタグループが強みや弱みを補完する形で、その力を発揮していきたい。ダイハツ単独でのビジネスを考えるのではなく、グループの中でのダイハツの役割と責任を再定義することが信頼を回復する手段だと考えている」と説明しています。

 「グループの中でのダイハツの役割と責任を再定義する」。井上社長の発言から今後のダイハツの再建策のヒントを読むことができます。新興国を中心にした海外向け小型車について、豊富な経験とノウハウを持つトヨタが引き受けることはすんなり理解できます。

 それでは軽自動車はどうするか。2023年度の軽自動車の新車販売は、不正認証の影響でダイハツは前年度比で2割以上も減少し、18年ぶりにスズキに首位を奪われて2位に転落しました。これから巻き返しに転じると思いますが、軽を購入するユーザーが感じた不信感が販売回復の足かせになるでしょう。不正認証に伴う生産・販売の停止で部品メーカーなどへの補償問題もあり、販売回復に投入できる資金は限られています。

軽EVはスズキと協業

 しかも、軽は電気自動車(EV)への移行が待ち構えています。日産自動車、三菱自動車が2022年に発売した軽EVは大ヒットしていますが、バッテリーの能力に制約されるE Vが普及する突破口は軽から始まることを証明しました。ダイハツはすでにスズキと軽EVの商用車開発に取り組んでおり、2024年に発売する予定でしたが、不正認証の発覚で延期されています。

 軽市場の過半は当面、エンジン車が占めるとはいえ、EVシフトを加速しなければ近い将来、取り残されるのは必至です。縮小する軽エンジン車をダイハツに残しておいても、ダイハツの経営再生には繋がりません。トヨタが海外向け小型車の事業をダイハツから切り離した発想を指でなぞれば、軽事業全体も一緒にEVを開発するスズキと協業関係を深めると考えるのが自然の流れです。理由は簡単。軽エンジン車事業をトヨタが引き取るわけがありません。ダイハツとスズキが協業して縮小するエンジン車の生産規模をかさ上げし、生産効率を維持すると考えるのもこれまた自然の流れです。

換骨奪胎した後、ダイハツの魂はどこへ

 海外向け小型車はトヨタへ、軽自動車はEVとセットでスズキへーートヨタの中嶋裕樹副社長は4月8日、「現場が声を上げ、トップがすぐに反応して現場に行く『現地現物』を実践していく以外にない」と話したそうですが、ダイハツの現場が声を上げようとしても、耳を傾けるトップはどこにいるのでしょうか。トヨタ?スズキ?

 ダイハツは好きな自動車メーカーです。ダイハツをトヨタ、スズキに換骨奪胎して残そうとしても、世界の自動車ファンを唸らせたダイハツならではの「自動車屋の魂」までは移植できません。ダイハツに残るのは工場と販売網?もったいない!

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