「ダイハツの役割と責任を再定義する」
ダイハツの井上雅宏社長は4月8日の記者会見で「今後、新興国の小型車はダイハツとトヨタグループが強みや弱みを補完する形で、その力を発揮していきたい。ダイハツ単独でのビジネスを考えるのではなく、グループの中でのダイハツの役割と責任を再定義することが信頼を回復する手段だと考えている」と説明しています。
「グループの中でのダイハツの役割と責任を再定義する」。井上社長の発言から今後のダイハツの再建策のヒントを読むことができます。新興国を中心にした海外向け小型車について、豊富な経験とノウハウを持つトヨタが引き受けることはすんなり理解できます。
それでは軽自動車はどうするか。2023年度の軽自動車の新車販売は、不正認証の影響でダイハツは前年度比で2割以上も減少し、18年ぶりにスズキに首位を奪われて2位に転落しました。これから巻き返しに転じると思いますが、軽を購入するユーザーが感じた不信感が販売回復の足かせになるでしょう。不正認証に伴う生産・販売の停止で部品メーカーなどへの補償問題もあり、販売回復に投入できる資金は限られています。
軽EVはスズキと協業
しかも、軽は電気自動車(EV)への移行が待ち構えています。日産自動車、三菱自動車が2022年に発売した軽EVは大ヒットしていますが、バッテリーの能力に制約されるE Vが普及する突破口は軽から始まることを証明しました。ダイハツはすでにスズキと軽EVの商用車開発に取り組んでおり、2024年に発売する予定でしたが、不正認証の発覚で延期されています。
軽市場の過半は当面、エンジン車が占めるとはいえ、EVシフトを加速しなければ近い将来、取り残されるのは必至です。縮小する軽エンジン車をダイハツに残しておいても、ダイハツの経営再生には繋がりません。トヨタが海外向け小型車の事業をダイハツから切り離した発想を指でなぞれば、軽事業全体も一緒にEVを開発するスズキと協業関係を深めると考えるのが自然の流れです。理由は簡単。軽エンジン車事業をトヨタが引き取るわけがありません。ダイハツとスズキが協業して縮小するエンジン車の生産規模をかさ上げし、生産効率を維持すると考えるのもこれまた自然の流れです。
換骨奪胎した後、ダイハツの魂はどこへ
海外向け小型車はトヨタへ、軽自動車はEVとセットでスズキへーートヨタの中嶋裕樹副社長は4月8日、「現場が声を上げ、トップがすぐに反応して現場に行く『現地現物』を実践していく以外にない」と話したそうですが、ダイハツの現場が声を上げようとしても、耳を傾けるトップはどこにいるのでしょうか。トヨタ?スズキ?
ダイハツは好きな自動車メーカーです。ダイハツをトヨタ、スズキに換骨奪胎して残そうとしても、世界の自動車ファンを唸らせたダイハツならではの「自動車屋の魂」までは移植できません。ダイハツに残るのは工場と販売網?もったいない!