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日野を切り捨てたトヨタは、VWと同じ末路に向かうのか 創業家支配の宿痾を覚えます

 日野自動車と三菱ふそうトラック・バスが経営統合します。日野はトヨタ自動車、三菱ふそうは独ダイムラートラックの傘下にありますが、親会社が出資する持ち株会社を設立して日野と三菱ふそうの2社が改めてその傘下に収まる形になります。経営統合は2022年に発覚したエンジン不正試験で経営の窮地に陥った日野を救済する狙いがありましたが、改めて「あ〜、もったない。みすみすダイムラーに渡すなんて」とため息が出ます。三菱自動車が経営危機に追い込まれ、ふそうを手放した悲劇を再び見るのは辛い。そして、トヨタが日野を手放す代償は大きいと考えています。

日野を手放す代償は大きい

 経営統合は2023年5月に合意、2024年末までに経営統合する方向で進めていました。しかし、エンジン不正試験による賠償訴訟が米国で起こったほか、日本や東南アジアで持つ高い市場シェアに関する競争当局の許認可の取得に時間がかかったそうです。早ければ5月にも最終契約を締結します。2026年4月に株式上場をめざしています。

 トヨタもダイムラートラックも日野と三菱ふそうの経営統合を電動化や水素の活用など次代の商用車開発に備えたものとアピールしています。トヨタは日野を持ち分法適用から外れるとはいえ、ダイムラートラックとの協業深化も期待しています。

 果たしてそうでしょうか。かつて日野は最強のトラックメーカーと言われていました。元々はトヨタ系列でないため、トヨタの枠に収まらない独自の経営力と優れた技術、経験は高く評価されていたのです。工場の生産ノウハウはトヨタ方式を上回り、本社工場は製造業の傑作とまでいわれたものです。

 自動車の開発・生産はEV時代を迎え、エンジン車の常識を超える発想が求められ、トヨタグループの総力をあげる必要があります。日野が蓄え、そして創案する技術やアイデアを活用すれば、ダイムラートラックや三菱ふそうの力を借りなくても十分に商用車、乗用車を問わずEVを進化できたはずです。

日野は豊田会長の意に沿わない存在

 しかし、創業家出身の豊田章男会長にとっては日野はトヨタ本体の意向に従わない存在でした。利害に関係ない外野席から冷静に見てれば、不正認証をきっかけに日野を切り捨て、ダイムラートラックの親会社メルセデス・ベンツに手渡したも同然に映ります。

 わかりやすい事例は豊田会長の肝煎りで電動化など次代商用車の開発に向けて設立したCJPTでしょう。2021年4月、トヨタ、日野、いすゞ自動車の3社で設立、その後スズキとダイハツも参画しています。

 ところが、2022年3月に日野が不正認証が発覚した際、CJPTから除名処分を科せられます。参画する適性を失ったと判断したのです。不正行為は許されるものではありませんが、日野は親会社のトヨタが社長も含めて人事権を握る子会社です。自動車メーカーの組織を知る人ならすぐにわかると思いますが、不正行為は現場が勝手にできるものではありません。トヨタ出身の社長を含めた経営陣・幹部の指示によって引き起こされているのです。親会社に全く瑕疵がないわけがありません。責務が及びます。その親が子供に責任を全てを負わせ、勘当扱いするとは予想もしませんでした。みっともない。

ダイハツも勘当

 その1年後、再び子会社が勘当されます。2023年4月、不正認証はダイハツでも発覚したのです。ダイハツも日野と同様、創業時はトヨタ系列でありません。トヨタ傘下に入っても、トヨタから派遣された社長はトヨタ本社の意に沿わず、結局は完全子会社するしかありませんでした。それでも、当時社長だった創業家至上主義の豊田会長には不満が蓄積していたようです。ダイハツにも日野と同じようにCJPTから除名処分を下します。

 トヨタの総帥、豊田会長の威光に背くと、日野は切り捨て、ダイハツはスズキとの提携事業の中に埋没させてしてしまう。グループ企業からみれば、創業家に異論を許さないトヨタに従うしかない考えるでしょう、ただ、面従腹背です。EVなど次世代の車開発、市場開拓に向けてグループが結束力を強めなければいけない時期に逆方向の遠心力が働いているようにみえます。

 トヨタは、創業家が支配した独VWが迷い込んだ衰退の末路に向かうのでしょうか。

VWはピエヒ一族が支配

 VWは世界一の自動車メーカーの座を堅持していましたが、トヨタに世界一の座を譲った後は活力を失っています。長年、経営の実権を握っていたのは創業家出身のフェルディナント・カール・ピエヒ氏。母親はポルシェ創業者の娘で、父親のポルシェ氏はVW創業時にエンジニアとして「ビートル」などの開発責任者として活躍しました。自身の名前を冠したスポーツカーメーカーも創設しました。ピエヒ一族はVWの経営に大きな影響力を保持し続け、カール・ピエヒ氏もポルシェやアウディを経てVW会長、監査役会長を務めていました。

 そのVWは中国に偏った海外展開、EV事業の低迷などで業績は大きく悪化しています。2024年には創業以来初めてドイツ国内の工場閉鎖を検討する経営危機に追い込まれています。

 創業家が経営を握ったから業績が悪化したとは思いません。経営環境の変化に合わせて戦略を見直し、実行する組織力、決断力を見失っただけです。もし創業家出身の経営者が独裁的な支配力で企業の変化対応力を弱体化しているなら問題です。

 トヨタはVWを教訓にすべきではないでしょうか。トヨタが国内工場を閉鎖する日が訪れる前に・・・。

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