トヨタ・スバルのEV タイヤ脱輪の失速がトヨタの車造りの拙速を露わに
5月発売から1ヶ月足らずでリコールに追い込まれた車があります。トヨタ自動車「bZ4X」とスバル「ソルテラ」。4ヶ月後の10月、販売を再開しました。6月に公表されたリコールは車輪とシャシーを連結するハブボルトの強度不足が原因で脱輪する可能性があること。リコールとしては異例にも生産・販売を停止し、運転も禁止しました。開発・生産したトヨタは3ヶ月過ぎて原因調査を終え、車両の設計を一部変更して再投入にこぎつけますが、再開発表の日に今度はエアバッグのリコールが公表される事態に。世間にほとんど走っていない新車がすでに2度もリコールに見舞われる失態を見るのはとてもつらいことです。
販売再開の日にエアバッグのリコール
トヨタなどの発表によると、bZ4X・ソルテラのリコールの原因である「ハブボルト」はナットを使わずボルトのみで車両にタイヤを取り付けるため、ナットが不要になる分だけ軽量化できるメリットがあったそうです。トヨタの高級ブランド「レクサス」の一部車種などで採用しており、その実績を基に決めたのでしょう。
ところが、bZ4X・ソルテラの場合、急旋回や急加速など過重な力がタイヤにかかる時、脱輪する恐れがあることがわかります。トヨタは6月に国交省にリコール(回収・無償修理)を届け出て生産・販売を止めました。通常のリコールは、保有者が系列販売店に持ち込み、修理するのですが、bZ4X・ソルテラは運転そのものが禁止です。異例中異例、驚きました。
「知見が不十分」に驚きます
トヨタの前田昌彦副社長は10月6日のオンライン上の説明で「bZ4Xのようにモーターなどで高トルクの車でこの状況が発生する」と話しており、「知見が不十分だった」と反省しています。ホイールが滑りやすくなり、ボルトが押さえる力を十分に発揮できなかったため、リコール対策としてボルトやホイールの設計を一部変更してタイヤが脱輪しないようにしたそうです。トヨタは国交省に不具合の対策を届け出たうえで、元町工場で生産を再開しました。
bZ4X・ソルテラはトヨタとスバルの共同開発の形をとっていますが、設計と生産までのほとんどをトヨタが担当しており、スバルは自社のアイデンティティである4WD(四輪駆動)らしい走りの味付けに注力するぐらいでした。ただ、トヨタ、スバルの両社にとって初めて量産する電気自動車(EV)で、とりわけスバルにとっては他社を圧倒する最大の強みである水平対向エンジンの代わりに電機モーターを搭載するまさに新世代スバルへの一歩を担う車でした。
トヨタは安全追求を徹底、それが絶大な信頼に
大きな期待を担う新車がギアシフトをD(ドライブ)に入れた途端、エンストです。トヨタはもちろん、スバルはソルテラ発売を機に電気自動車専用の工場を建設する計画を発表しており、このつまづきはかなりの痛手です。
なによりも不思議なのは今回のリコールの原因です。トヨタの新車開発は失礼ながら、異常ともいえるほど徹底して安全と品質を追求します。世界最強といわれる「ランドクルーザー」が好例です。過酷な自然環境の中でも安定した走行性能を発揮できるよう地球上ではありえないような気象条件を設定してテストを繰り返します。オーストラリアの広大な砂漠地帯で仕事をする会社は「ランドクルーザー以外は運転しない」と公言する人がほとんどですが、現地の砂漠に立てば、その信頼を裏切ることはドライバーの命にかかわることだとすぐにわかります。
そのトヨタが「知見がなかった」と発言するのです。
こんなトヨタを見たことがありません。2009年に米国に大規模なリコールが騒動がありました。オートマチックが急加速するとの訴訟が全米で起こり、日米双方で大きな問題に発展しました。当時、慌てることはないと考えていました。もともと日米自動車摩擦の匂いがする政治的なリコールではないかと受け止めていましたが、トヨタや系列部品メーカーの品質に全幅の信頼を置いていたからです。予想通り、このリコールは結局、米運輸省が最終報告で機械的不具合はあったものの、電子制御などに問題はなく、運転手のミスがほとんどと結論付けています。
今回のハブボルトとエアバッグのリコールは違います。基本的な、しかも機械的なミスです。オートマチックの「目に見えないソフトウエア」などと違い、長年の経験に裏打ちされた部品の設計・生産で起こったのものです。現在の新車開発はスーパーコンピューター並みの能力を持つ装置を使ってあらゆる状況を想定して試験し、できる限りの知見を確認するのです。しかも、ハブボルトはレクサスで採用しており、全く初めての試みでもありません。過去の電気自動車のリコールをみても、電気自動車で先行する日産自動車や三菱自動車は充電関連が大半です。
トヨタの新車開発に警鐘?
トヨタの新車開発に何かが起こっているのではないでしょうか。bZ4X・ソルテラのリコール後に発表された新型クラウンを見ても違和感を覚えます。まだ消費者に車が届いていないにもかかわらず、新しい車種がまるでトミカのように増え、メディアを通じて話題を振りまこうとしています。新型クラウンは再び失礼ながらbZ4X・ソルテラと違って、トヨタの最も重要な車種です。リコールが繰り返されることはないでしょうが、新車開発の歯車がどこかで外れているのかなと老婆心ながら心配になります。
「エンジン車も、ハイブリッド車も、電気自動車も、水素燃料電池車も」。世界の自動車メーカーが真似できないほど手を広げる新車開発戦略に警鐘が鳴っていると感じます。