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トヨタイムズにTime!😅(王様の耳はロバの耳 編) マスメディアの急所を突く

トヨタ自動車がトヨタイムズという自社メディアの拡散を加速しています。編集長の香川照之さんらがリポートする姿などがテレビCMやネットを通じて盛んに発信されているので、ご存知の方が多いでしょう。ホームページを見たら、「トヨタイムズ Magazine 豊田章男は2020、何を考えどうしたのか?」という書籍も出ているようですから、豊田社長が語るメディアの一種と割り切って見れば良いのでしょう。メディアで育った人間から見るとテレビ・新聞の急所を突く手法はとても巧みで感心しますが、日本を代表する企業であるトヨタの社長がギアシフトしながら、思いを発信する姿に不安を抱いてしまいます。

トヨタは2021年3月期で2兆2452億円の純利益を計上しました。コロナ禍の直撃を受けながらも前期比で増益です。経営基盤はますます強くなり、豊田社長の手腕もますます評価が上がっています。近い将来、経団連会長に就任するのでしょう。しかし、トヨタイムズを見ていると、企業の最新ニュースを自ら発信する本来の趣旨を外れ、図らずも創業家出身の社長の思いがあまりにも強く語られ、世界的なブランド「TOYOTA」を冠とする会社として期待される社会的な責任や貢献から逸脱しているように感じてなりません。余計なお世話でしょうがトヨタの近未来が逆に不透明に、そして小さく映って見えます。

上場企業のニュースが注目される背景には株主はもちろん、会社従業員、取引先ら多くの利害関係者がいます。ですから上場企業は正確な業績数字を発表し、その評価も信頼できる監査法人から得る必要があります。日常の経営判断、経営幹部、従業員らの行動も注目を浴び、社会ニュースになることもあります。だからこそ幅広く層に伝える力を持つ新聞、テレビや雑誌などマスメディアは企業発表を丸呑みせず、第三者の目からさまざまな視点で切り、解説などで読者や視聴者に評価の材料を伝えます。その役割は大きく信頼を裏切ってはいけません。「真実をどこまで伝えているのか」というテレビ・新聞、雑誌などマスメディアに対する厳しい批判が常にあるのは当然ですし、真実を伝える役割を自覚して取材、記事を執筆している記者が多いのも事実です。

トヨタイムズが巧みだなと感心するのは、SNSなどネットを介した情報発信が当たり前になった今、揺らぐマスメディアの信頼性と厳しい経営の現況を念頭に痛い所をスパッと突いていることです。

「マスメディアは本当のことを伝えているのか?」それは読者や視聴者のみならずニュースの源である企業側にもあります。新製品の記事を掲載するとお礼を言われますが、企業の思惑と異なる視点から記事を書くと、「発表の趣旨をわかっていないんじゃないのか」と取材先から言われることがあります。新聞記事は宣伝としか捉えていない広報担当者もいます。記事の執筆で最も無難なのは発表文をなぞることですが、それでは読者の皆さんから購読料はいただけません。「記者はわかっていない」と非難する典型例は、トランプ前米大統領がたびたびフェイクニュースとツイッターや記者会見で繰り返し発信し続けた姿ですか。よく覚えていますよね。

創刊の意図は何か

トヨタがトヨタイムズを創刊した意図は何かをトヨタのデジタル媒体で調べてみました。トヨタイムズの公式ツイッターアカウントは以下の通り説明します。

「トヨタイムズは、今まで公開されることのなかった、トヨタのありのままの姿をお見せするメディアです。モビリティカンパニー への変革に向けて、トヨタの中でどんな変化が起き、トップである豊田社長は何を考え、何をしようとしているのか?トヨタの内側をお見せしていきます」

公式見解の他にメディアに対する考え方を2020年6月の株主総会(注;直近2021年6月の一年前)で豊田章男社長は語っています。ある株主から次のような質問が出ました。「トヨタだけが5千億円の黒字見込みを発表した。翌日にマスコミがトヨタ8割減と太字で新聞報道をしている。私はマスコミにそっちを書く?と思った」とご本人の驚きを明かして、メディアが8割減を見出しに選んだことについてたずねた。

ロバの逸話を例に挙げてマスコミへの不信感を明かす

豊田社長の答えです。「決算発表の当日は、いろんな方からよく予想を出しましたね、感動しましたよと言っていただきました。次の日になるとトヨタさん大丈夫?と言われてしまい、正直悲しくなりました。」と当時の胸の内を明かします。

そしてロバの逸話を語り、その意味を説明しました。「要は言論の自由という名のもとに、何をやっても批判されるということだと思います。最近のメディアを見ておりますと何がニュースか?は自分たちが決めるという傲慢さを感じずにはいられません

トヨタの2021年3月期決算を改めてみてみましょう。連結決算書によると、営業収益が27兆2145億円(前期比8.9%減)、営業利益2兆1977億円(同8.4%減)、税引前利益は2兆9323億円(同5.0%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は2兆2452億円(同10.3%増)。コロナ禍で苦しんでいる日本経済の中で頭抜けた収益力を見せつけています。

見逃してはいけないのはこの2兆円を超える利益はトヨタだけの努力で生まれたわけではないことです。信用調査会社の帝国データバンクによると、トヨタグループ(主要関連会社・子会社計16社、2019年)の下請企業はグループと直接的に取引を行う一次下請けが6091社、二次下請けが3万2572社、全国で合計3万8663社にのぼります。2014年に比べて1万社程度増えています。従業員数の合計は180万人を上回り、家族を含めれば300〜400万人を超えるでしょう。地域では東海地方を中心に、関東から近畿まで幅広く集積しています。2兆円超の利益はプラミッド構造で形成された自動車産業の系列、下請け企業3万8663社が知恵と技術を注ぎ1円単位でコストを削り出して積算した結果です。トヨタ単体が頑張っても捻り出すことは不可能な数字です。

トヨタの日本経済で占める存在感は増すばかりです。日本の2020年のGDPは名目で535兆円程度、自動車産業は50兆円を超える1割程度を占め、このうちトヨタは5%程度になりますが、取引先の収益、従業員の家族の生活費などを合算して加えれば日本経済に占める重みは等比数的に増えていくはずです。トヨタイムズには社長の思いを伝えるだけでなく、社会のさまざまな声に耳を傾けて発信する努力も期待したいです。松下幸之助さんの言葉「企業は社会の公器」を例に引くまでもないでしょう。

最後に違うロバの寓話で使われた言葉を引用せざるを得ません。
「王様の耳はロバの耳」

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