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半導体のTSMCが第2工場 まるで混老頭七対子狙い? 日本の産業政策は知恵を失ったまま

 半導体製造の台湾TSMCが日本で第2工場を建設する考えを明らかにしました。第1工場はすでに熊本県で建設中で24年末までに生産を始める計画です。投資規模は1兆円。第2工場の建設となれば、さらに兆円近い投資が加わるはずです。TSMCが持つ最先端の技術を利用しながら、今後も需要が急増する半導体を生産できるうえ、巨額投資によって日本国内の産業も潤います。万々歳です、と言いたいところですが果たして良いのでしょうか。製造業の陰りが濃い日本。むしろ産業政策の欠落が炙り出されてきた気がします。

むしろ製造業の陰りがあぶり出る

 TSMCは半導体受託製造で世界最大手。それが第2工場を建設する。思わず麻雀の大きな役である混老頭七対子(ホンロートー・チートイ)の図柄を思い浮びました。麻雀は14の牌を使って役を作ります。混老頭は手元にある麻雀牌がすべて数字の一か九と彫られた牌、あるいは東西南北、撥などと書かれた字牌で構成する役です。そして七対子は同じ牌を2個ずつ7組を揃えた役。

混老頭七対子は初心者にもわかりやすく、満貫にも

 麻雀を覚えた頃、手の込んだ巧みな役作りはできませんから、わかりやすい手牌に挑みます。混老頭七対子は同じ図柄の牌を2個づづ。簡単です。一か九、あるいは字牌を2個ずつ揃えれば完成。運良く3個ならべ四暗刻か大三元に。役満も夢じゃない。麻雀は4人で卓を囲み、始めに25000点の点棒を持って点数を競うゲーム。すべて揃えて「ロン」と雄叫びすれば満貫以上。満貫は8000点以上ですから、思わずニヤリと笑って他の3人を見渡していまいます。

 誰でも狙える半面、競う相手の3人にはどんな手牌を揃えようとしているか、すぐに読まれてしまう弱点があります。相手が欲しい牌を振り込んでくれる可能性が極めて低い。独力で麻雀牌が揃えば良いですが、それも運次第。つまり、「ロン」と最後の一声を上げる確率はどんどん低くなります

TSMC、ラピダスと揃い始めたけれど・・・

 勝つ欲を持っているなら、自分の手元に揃う麻雀牌に合わせて先を読み、かつ相手の手牌も予想して勝負を進める経験と知恵が必要です。言い換えれば、混老頭七対子に慣れてしまえば、麻雀を楽しむだけなら良いですが、いつまで経っても上達はしません。

 まるで日本の産業政策は混老頭七対子を狙っているかのようです。半導体を麻雀牌に例えるのはとても失礼と承知の上です。まず最初に揃えたのが「TSMC」。第2工場建設を明らかにしたのはCEOの魏哲家さんです。まず確実に実行されるでしょう。第1工場はソニーやデンソーなども参加しており、建設費用1兆円のうち5000億円近くは日本政府が補助しています。第2工場も同様な座組みになるのかもしれません。背景には世界の半導体生産が台湾に偏り、中国との安全保障の行方を睨んで分散化する流れが広がっています。日本にとっては、経済安保の視点からみても重要な投資案件です。

 しかも、TSMCが生産する半導体は回路線幅が10~20ナノメートル(ナノは10億分の1)。日本の半導体工場は40ナノ程度ですから、かなり差が付けられています。TSMCは世界で初めて3ナノの量産化にも成功しています。

 混老頭七対子として支える「TSMCの工場」2牌に日本の産業政策に欠けていた「経済安保」と「最先端技術」の手牌も揃いました。見栄えはばっちり。満貫が見えてきました。日本政府から見れば、満願に手が届きそうです。

 これから先が大事です。経済安保も最先端技術も他人の手に頼っているだけでは不十分。自分自身の読みと力、麻雀では「引き」と言いますが、最も肝心な力は欠落しています。

10年前までは最先端だったのに

 なにしろ、かつて相応しい手牌を揃えていたのに捨ててしまったのが日本ですから。日本はかつて世界最先端の生産技術を持っていました。広島県のエルピーダ・メモリーです。政府の支援もありましたが、2012年2月に経営破綻。わずか11年前。なぜ、こんなに日本は取り残されてしまったのか。

 それよりも日本政府の産業政策はこの10年間、なぜ機能していなかったのか。日本の半導体製造装置はまだ国際競争力を維持していますが、かつての陰りが消えています。今ではオランダのASMLが独走、キヤノンやニコンとの差が開いているのが実情です。手をこまねいていたとは考えていません。2022年、政府肝煎りの日の丸半導体「ラピダス」が結成されました。日本の半導体関連の有力企業がIBMと組み、2ナノレベルの量産化に挑戦します。

混老頭七対子が「翻弄七対子」では役不足

 TSMC、ラピダスを揃えたからいって、まだまだ手牌が不足です。ラピダスと同じ強い牌をもう1組、あるいは2組が必要です。日本が再び半導体のゲームの主役として躍り出るためには、製造装置はじめすそ野をどう広げ、豊かにしていくか、きめ細かい政策立案が急務です。

 経済産業省の振り付けなのか、担当大臣の海外出張や言動ばかりが目立ちます。このままで混老頭七対子が「翻弄」と白牌の字牌だけが並ぶ役で終わるのではないかと心配です。それは「チートイ」避けたい。手牌を見て目の前が真っ白になりそうです。

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