ツルハ 物言う株主を否決、耳が痛い提案はドラッグストア経営を変えるチャンス
ドラッグストア大手のツルハホールディングスが8月10日に開催した定時株主総会で、「物言う株主」が創業家排除を軸に提案した取締役選任議案は否定され、会社提案の取締役選任案が可決されました。ツルハは積極的なM&Aでチェーンを拡大し、業界トップの地位に迫っています。ドラッグストアは家族経営から成長したチェーンが多いため、ツルハの企業経営は過去に買収した企業の創業家で構成される一種の”同族経営”です。企業規模は1兆円に迫り、薬以外の食品や日用品を扱うドラッグストアは今やスーパーと呼んでも遜色ない小売業態に変貌しています。「物言う株主」以外の意見にも耳を傾けて新たな経営に挑む時ではありませんか。
物言う株主の提案に助言会社は賛否に分かれる
「物言う株主」とは、香港の投資ファンド、オアシス・マネジメント。ツルハは鶴羽創業家を中心に経営陣が構成されているほか、買収した企業もそれぞれの創業家が影響力を発揮し、そのまま独立したチェーンのように経営されていると批判。定時株主総会ではツルハの経営陣から創業家出身を排除する取締役選任案などを提出しました。ツルハはオアシスの要求に応じず、会社提案として創業家の鶴羽出身者が会長、社長などを務める7人の取締役選任を示し、賛成多数を得ました。
オアシスはツルハの株式全体の13%近くまで保有し、13%超を占める筆頭株主のイオンに迫る水準でした。イオンは株主総会直前にツルハの会社提案に賛成する意思を表示していましたので、オアシス敗退はそう驚きではありません。おもしろいのは米国の有力な議決権助言会社の意見が分かれていたことです。米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシズはオアシスの株主提案を支持する一方、米グラスルイスはツルハの会社提案への賛成をそれぞれ推奨していました。結果はともかく、オアシスの主張もそう強引ではなかったといえそうです。
ツルハはM&Aで売上高1兆円に
ドラッグストアの多くは個人営業の薬局からスタートして、1980年代に日用品などを扱うドラッグストアへ転身しています。地域密着の経営を維持しながら、全国にチェーン展開するためには各地域のドラッグストアを買収して経営規模を拡大するM&Aが主流になりました。
ツルハも同じ道を歩んでいます。発祥の地は北海道。全国の中堅チェーンを買収し続け、業界2位にまで成長しました。現在は2023年5月期で売上高が9700億円(前期比5・9%増)、営業利益が455億円(12・3%増)、経常利益が456億円(14・1%増)と好業績を維持しています。ツルハ以外に「くすりの福太郎」「レディ薬局」「ウォンツ」「杏林堂」など合計6つのチェーンを全国で展開。従業員も5万人。イオン系の「ウエルシア」に次ぐ業界第2位です。
オアシスは現状について買収した子会社は事実上、それぞれの創業家が力を持っており、一体感が発揮されていない。6つのチェーンブランドを統合し、規模拡大のメリットをもっと捻り出せると主張しています。プライベートブランドの拡充や生鮮食品など新しい試みにどんどん挑むべきと考えています。
ドン・キホーテも変わろうとしている
現在の小売業の競争を考えたら、無理筋な提案ではありません。例えば、激安をうたって急成長した量販店のドン・キホーテ。「圧縮陳列」に代表される大量の商品を割安に販売する手法が壁に当たり、今は利益率の高いプライベートブランドを導入したほか、野菜や惣菜など生鮮品を拡充して、店舗全体の利益を押し上げようとしています。
ドラッグストアも薬や化粧品が前面に出ていますが、店舗の実態は野菜や食品、日用雑貨など品揃えを増やす方向に走っています。ドラッグストアは業界トップが1兆円を超えたレベルですが、これから成長し続けるためにはさまざまな小売業態と真っ向勝負する場面が増えるでしょう。
ツルハは2029年度に売上高1兆5000億円、営業利益率6%を経営目標に掲げています。この目標は今後のM&Aなどで達成するかもしれませんが、これでは業界内の再編、整理整頓をしているのに過ぎません。
人的資本経営で創業家経営をより強くできるか
新しい中期経営計画で「人的資本経営」を前面に出したツルハです。創業家経営を否定する必要はありませんが、成長企業としての新しい経営資源はまさに新たな人的資本が創造します。オアシスの創業家経営批判はそう的外れではありません。メンツに拘らず、自らの創業家経営にメスを入れるチャンスと割り切ったらどうでしょうか。