WeWork 破綻が暴く目利きの限界 巨額投資で杜撰な経営を消し去ることはできない
「あの会社は重大な倫理違反が常態化しており、一緒に働き続けるのが怖い」。友人が語っていたのを思い出しました。あの会社とはレンタルオフィスの米WeWork(ウィーワーク)です。起業家向けのオフィスレンタルを中心にしたビジネスモデルは新たなユニコーン企業誕生と世界から注目を浴び、日本進出に向けて準備を進めていました。友人は日本事務所を支える人材としてニューヨークで研修を終え、帰国したばかり。ウィーワークの日本進出は2018年ですから、2、3年前の2015年前後の頃です。
「倫理違反が常態化し、怖い」と友人
優秀な人材だったので良いポストを提示されたせいか、引き続き勤める気持ちを捨てられず「具体的なことは言えないけど、顧客や社員に対する倫理観が信じられないレベルにある」と彼は呆れていました。それから小一時間、創業者はじめ幹部が収益至上主義に走り、社内の混乱ぶりを話してくれました。
ベンチャー企業の創業当初は、大企業など洗練された組織運営と違い、無謀な経営判断や混乱はよくあることです。アップルやグーグル、フェスブックなどを見ても、映画や本になるぐらいの”ドラマ”があるのが常識。ウィーワークの創業は2010年。当時はまだ5、6年ぐらいしか経過していません。
「シリコンバレーの会社だって、そんな混乱はあるじゃない!」と返したら、「「いくらスタートアップだからといって顧客に迷惑をかけて許されることと許されないことがある」となぜか憤って食いついて来ます。よっぽどのことがあったのでしょう。ウィーワークの内情はなかなか大変なだなあと実感したものです。
彼は結局、日本で事業を立ち上げる寸前、事業展開を通じて自身の責任を問われるのを恐れ、ウィーワークを離れました。彼が打ち明けてくれた話が事実かどうかはわかりません。ただ、早くから起業家を目指しており、その後欧州で会社を立ち上げた人物です。起業家としての守るべきと考えた倫理とウィーワークは違っていたのでしょう。
経営破綻のニュースに驚かず
そんな先入観を友人から植え付けられたせいか、ウィーワークが2023年11月に経営破綻したニュースを見ても驚きませんでした。友人の話を聞いて以来、ネットで流れる関連ニュースを見ると、どうしても悪い噂にばかり目がいってしまいます。社内のセクハラ、パワハラ、麻薬、そして創業者らの杜撰な経営や不正行為などを知り、「彼の話は本当だったのかも」と反芻していたものです。経営破綻の速報を見た時も、まだ生き残っていたのかとちょっと意外だったくらいですから。
不思議なのは、ソフトバンクグループの孫正義氏は自らの耳と目でウィーワークの経営実態を確認していなかったのかどうか。2017年に投資して以来、傘下のビジョンファンドと合わせて100億ドルを注ぎ込んでいるそうです。現在の円換算で1兆5000億円。結構な金額です。
惚れ込んだ孫氏は実態を知っていたのか
中国のアリババで大成功を収めた孫氏。その目利きが世界から評価され、サウジアラビアから資金を預かり、ビジョンファンドを設立したほどです。アリババの出資決定もそうでしたが、ウィーワークの場合も創業者のアダム・ニューマン氏に会った時に直感で決めたそうです。「ほれこんでしまった」とソフトバンクの株主総会で打ち明けているぐらいですから、経営危機が囁かれても、かなり肩入れしています。
ウィーワークは2019年に株式上場を決めていましたが、不正会計や創業者の言動などで上場見送りとなった取りやめた後もソフトバンクは95億ドルという巨額の救済策を打ち出しています。50年近い投資経験を持つ孫氏から見たら、一つの事件に過ぎず再起は可能と判断したのでしょう。周囲は出資に反対だったが、押し切ったと話していますから、自信は十分にあったはずです。
相手が諦めるまでカネを突っ込み続ける。ポーカーなどの勝負手であります。弱い勝負手でも、相手が降りれば総取りできます。優れた勝負勘の持ち主である孫氏です。奈落へ向かいつつあるウィーワークを一発逆転できるアイデアとタイミングを見計らっていたのかもしれません。
根が腐っていたら、成長できない
しかし、ウィーワークは経営の根幹が腐っていたのではないでしょうか。日本円で兆円を超える巨額投資で腐った根っこを隠しても、会社そのものに力が無ければ事業継続はできないのは明らかです。
会社を見極める力に巨額投資する勝負勘など必要ないのです。その会社の成長を生み出す根源、つまり根っこが健全なのかどうか。自分の目利き力に溺れず、現場の1人と話をすれば、すぐに投資すべきかどうか、あるいは引き上げるべきかがすぐに判断できたでしょう。私の友人が教えてくれたぐらいですから、孫氏ならすぐ病巣を見極めたでしょう。
投資の選別は目利きの能力よりも、現場を見る視力と話を聞く聴力があれば十分。誰もが当たり前と思うことですが、ウィーワークの経営破綻は「その通り」と教えてくれています。