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ハイブリッド車は2035年まで?(上)脱炭素の規制強化が需要を削ぐ

   エンジンと電機モーターから駆動力を得るハイブリッド車が再び高い注目を浴びています。復権という表現が適しているかもしれません。地球温暖化を招くCO2の排出量を抑えるため、エンジン車から電気自動車(EV)への移行が加速していましたが、高価格、バッテリー、充電設備などが障害となり、EVの普及にブレーキがかかり、その反作用としてハリブット車がシフトアップした印象です。

EVの課題を補うハイブリッド車

 ハイブリッド車が売れる理由はEVの短所を全て補う点にあります。EVはエネルギー源のバッテリーの航続距離がまだ短いうえ、充電設備が全く不足。ドライバーは立ち往生が怖くて気軽にドライブできません。価格はエンジン車の高級車並みですから、購入層も富裕層か新し物好きに限られます。元々、燃費の良さが強みでしたが、EVの登場によって使い勝手の良さが再評価され、2023年に大ヒットしました。

 そのおかげかEVで出遅れていた日本車はハイブリッド車で高収益を稼ぎました。逆にEVで先行していた欧米の自動車メーカーは戦略の修正が迫られ、ハイブリッド車へシフトせざるを得ない状況に。ブームともいえるEV人気が冷め、日本車が得意なハイブリッド車が好調に推移する様を見て日本車メーカーの先見性を改めて褒め称える意見も広がっていますが、ここで祝杯をあげているようでは日本車の未来はありません。

 ハイブリッド車が走り始めたのは1997年12月。トヨタ自動車が「プリウス」を発表、世界を驚かせました。発想は昔からありました。ドイツのフェルディナント・ポルシェ博士が1900年のパリ万博で公表し、大きな話題となったそうです。ただ、エンジンと電機モーターという相反する駆動系を併用するシステムが壁となって実用化には至りませんでした。

豊田英二会長の英断がプリウスを生む

 トヨタがプリウスの開発に取り組んだのが1993年。「もう少しで21世紀が来ることだし、中期的なクルマのあり方を考えた方が良いのではないか」。当時の豊田英二会長の英断が後押ししました。それからわずか4年で世に送り出したトヨタの技術力と想いの強さには敬服するしかありません。

 技術的な壁を克服したとはいえ、事業としては課題山積でした。プリウスは一台売れば数十万円の赤字が出ると言われ、スタート時の加速不足など技術的な課題は残っていたのです。プリウスによって排ガスを撒き散らす自動車が一転、「環境に優しいクルマ」と評価され大ヒットしますが、売れるだけ赤字が膨らむのですから収益の悪化に大きな打撃を与えます。

 それでも発売に踏み切ったのは、当時の奥田碩社長が次代の自動車の世界標準を握るチャンスと判断したからです。大正解でした。以来30年間、トヨタはハイブリッド車の拡充とコストダウンに成功して兆円単位の利益をあげ続け、環境問題にも熱心に取り組む自動車メーカーとしてブランドイメージを高めることに成功しました。

 トヨタがプリウスの成功に酔っている余裕はありませんでした。ハイブリッド車はあくまでもエンジン車からEVへ移行するまでの「つなぎ」と割り切っていました。地球温暖化を招くCO2を排出し続けるエンジン車が未来永劫、存続すると信じるわけにはいきません。E V、そして水素を使う燃料電池車が次代を担うと考えていました。ハイブリッド車は搭載する車種や生産コスト効率性などを念頭に様々な方式が考案され進化を続けますが、常に近未来を見る視線の先にはEVがありました。

ハイブリッド車はあくまでもEVまでのつなぎ

 もちろん、そう簡単にEV時代の到来を予想していたわけではありません。EVがエンジン車に代わって自動車の主役に躍り出るには、数多くの難問を乗り越えなければいけないことはわかっていました。まずエンジンを使わないのですから、電機モーターなど駆動系、バッテリーを実際に利用できる安全性能と耐久性を実現しなければいけません。もっと大きなハードルはガソリンや軽油の代替エネルギーとなる電気を供給するインフラです。全国津々浦に点在するガソリンスタントほどの充電ネットワークがなければ、ただでさえ航続距離が短いEVは電気切れしてしまいます。

 EVの時代はいつか来ると予想していても、難問を前にエンジンで構築されたクルマ社会がすぐに変わるとは考えていなかったでしょう。

 ところが、EVが直面する大きく厚い壁は地球温暖化による気候変動が打ち破ります。国連、欧米を中心に脱炭素を掲げてエンジン車の規制強化が予想以上のスピードで広がります。

 欧州連合は2035年をめどにガソリン車の販売を取りやめ、EVへ全面転換を表明しました。目標は遥かに彼方と言えるほど高いものでした。2030年には乗用車と小型商用車のCO2排出量を2021年比で55%も削減、2035年には100%削減を目指します。誰が見ても無謀と思われましたが、まずは高い理想を掲げて政策を繰り出して、世界で主導権を握ろうという意図がその陰に潜んでいたのも事実です。政府がエンジン車の規制に走るのですから、欧米の自動車メーカーも追随するしかありませんでした。

地球温暖化対策の後退はない

 現在のEV販売のブレーキは、強引な政策展開の結果です。欧州連合もEV全面転換の政策を一部修正せざるを得ませんでした。しかし、地球温暖化の論議が後退するとは思えません。EVの推進政策に軌道修正があっても、歯止めがかかるわけではありません。欧州に比べてEVに消極的だった米国もバイデン大統領が排ガス規制を段階的に強化する方針を示しています。カリフォルニア州はじめ多くの秋は2035年までに新車の80%はEVにする政策を決めています。残る20%はハイブリッド車で占めることを許容していますが、ハイブリッド車の需要がグッと抑え込まれるのは確実です。

 しかも、普及の足かせとなっていたインフラ整備、バッテリーなどEV関連の技術革新、生産コストも急速に改善される見通しです。2035年にはハイブリッド車とEVの立場が大きく変わる可能性は大きいのです。

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