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内部告発が日本を変え始めた ビッグモーター、損保ジャパン、タムロン 口笛を吹き、不正を暴く

 内部告発が日本でも企業・社会を改革する力になってきました。ビッグモーターによる自動車保険金の不正請求、その不正に目を瞑った損害保険ジャパン、直近ではタムロン社長が辞任に追い込まれた出張旅費の不正流用。いずれも社内で秘匿されていた事実を外部へ通報する制度、あるいは社内からの告発によって明らかになっています。

相次ぐ内部告発で真実が明らかに

 「やはり、そうだったのか」。多くの人が頷いたはずです。損保ジャパンの白川儀一社長が中止していたビッグモーターとの取引を再開するよう発言していたとのニュースが流れた時です。その発言の場は昨年2022年7月の役員会議。ビッグモーターが報告した自主調査の内容について討議されています。会社社長として正式な発言であり、とても重い言葉です。ビッグモーターの保険金不正請求は明らかにビジネスのルール違反ですが、その不正を承知の上で取引再開を示唆した社長の発言が事実なら経営責任は問われることになります。

 どこの会社でも同じでしょうが、役員会議の討議内容や議事録は社内の人間でしか知り得ない内容です。ニュースとして伝えられる内容によると、会議のやりとりが具体的に示され、白川社長の発言が詳細に説明されています。不正請求の可能性を問われたビッグモーターは自主調査の結果を「連携不足やミスが原因で、組織的な不祥事ではない」と保険会社側に説明していましたが、その調査結果を疑問視する役員もいました。しかし、白川社長は追加調査すればビッグモーターとの関係が悪化する恐れがあるため、追加調査せずに取引再開を示唆したというやり取りまで明らかになっています。

役員会議の情報が漏れるとは

 役員会議の議事録が漏洩した経緯は知りませんが、想像するにいわゆる「垂れ込み」でしょう。しかも、損保ジャパンの経営に近い筋。損保ジャパン社内の権力抗争が背景にあるのかと邪推してしまいますが、もし金融庁などから漏れたら損保ジャパンそのものが持たないという焦りが「垂れ込み」を促したのかもしれません。

 そもそもビッグモーターの不正請求は2021年秋に従業員から損害保険の業界団体に内部通報がきっかけ。この内部通報に背中を押されて2022年夏に損保側から自主的な調査の実施を求められ、その調査結果は会社組織としての不正ではないと結論づけました。しかし、会社側の隠蔽は裏目に。2023年に入って新聞やテレビで盛んに報道され、結局は不正請求を認めざるを得ないところまで追い込まれました。

本来なら「自ら調べ、不正を正す」べき

 ビッグモーターの不正請求問題は、内部告発、あるいは内部通報制度の活用によって事実関係が明らかになっています。会社自ら不正を調べ上げ、正す流れになっていません。損保ジャパンも結局は、後から追いかけるように出てくる新事実を認める悪循環に陥りそうです。

 不正請求が判明した後に白川社長は「知らなかった」と公の場で言明していましたが、取引中止後に再開していることがわかりました。損保ジャパンの社内事情を知っている人ならすでに気づいていたはず。社長ら経営トップクラスが指示しない限り、現場が勝手に取引再開できるわけがないのです。今回明らかになった役員会議での発言に驚かない理由です。

 直近の例では光学機器メーカーのタムロン。同社は8月22日 鯵坂司郎社長の辞任を発表しました。2023年7月9日に同社の内部通報制度を利用した情報提供があり、鯵坂社長が出張で女性を同伴、経費を不正利用したことが判明したためです。少なくとも過去5年間、月に複数回、不正に利用していたそうです。過去5年間、一部の社内関係者はわかっていたはず。よほど乱用のぶりに我慢ならずに内部通報したのでしょうか。愚かな社長を抱えた会社の従業員に同情します。

 日本で内部告発、内部通報は根付くのかという声はありました。たとえ不正とわかっても外部に知られてしまうのは恥であり、組織に大きな不利益を招く。身内だけで処理して事を収めてしまう。日本の組織の常識でした。だからでしょう、内部告発という言葉はついこの間まで歓迎される行為と受け止められていません。

欧米でも内部告発はかなりの勇気が

 .日本以外でも内部告発には勇気が必要でした。内部告発者を保護する法律が制定されています。それでも米国が1989年、英国で1998年、日本は2004年です。つい最近の出来事です。

 フランシス・ホーゲンさん。2021年の「Person of the Year」に選ばれたイーロン・マスクより3週間前にタイム誌の表紙を飾りました。フェイスブックの内幕を内部告発した女性です。2021年、ホーゲンさんは数万ページに及ぶ大量の内部文書を公開し、フェイスブックが10代の若者のメンタルヘルスにどう被害を与えているか、あるいは誤った情報がどうのように拡散しているかなどを明らかにしました。問題解決せず放置していると批判しました。 

 フランシス・ホーゲンさんは6月、自伝的な著書を発刊しました。「The Power of One」。「ひとりの力」と訳すのでしょうか。副題として「私はどうのように真実を語る強さを発見し、なぜフェイスブックを告発したのか」とあります。告発の英語は「Whistle」。口笛を吹くという意味です。内部告発者は英語でWhistle Browerと表記されます

「口笛を吹く」動きはどこまで広がるか

 1972年に消費者運動のリーダーとして知られた米国のラルフ・ネーダーが使い始めました。サッカーなどでレフリーは反則すると笛を吹きます。企業や政府などが不正を犯した場合、知った人間が笛を吹き、正す行為を称賛したのです。フランシス・ホーゲンさんの例をみてわかるように米国でもようやく内部告発、口笛を吹くことが大きく評価されたところです。日本もこれから口笛を吹き、社会や企業が不正を正す動きが広がるはずです。

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