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ヤオコーとヨーカ堂 「感動を生み続ける難しさ」と「陳腐化の簡単さ」、変革に終わりはない

 「最初はよく見えていたのですが、最近はなんかぼんやり見えるんですが」。白内障の手術後、定期検査で眼科の先生に訊ねました。主治医が笑います。「最初に鮮明に見えて感動するんですけど、慣れてしまうと感動が薄れ、普通に見えてしまうんですよ」。

ヤオコー、34期連続して最高益を更新

 最近のヤオコーを見ていると、眼科の主治医の言葉を思い出します。食品スーパーと総合スーパーの違いはありますが、心許ないイトーヨーカ堂の店舗風景と次第に重なって見えてきました。あれっ、首都圏で絶好調に突っ走るヤオコーに失礼ですね。

 ヤオコーは2023年3月期決算で営為業利益を34期連続で最高額を更新しました。世の中、エネルギー価格、農産物となんでも値上がりしており、お金に纏わる話は厳しさを増しています。スーパーの経営も例外ではありません。それだけにヤオコーの快進撃は高く評価されています。惣菜を前面に新たな付加価値を生み続けて収益率を高め、最高益の連続記録をのばしています。その経営力が注目を浴びるのは当然です。

でも、感動のオーラが薄れてきたよう

 ただ、なぜかヤオコーに通い始めた頃に覚えた感動が確実に薄れてきたのです。周辺にあるスーパーはイオン系のダイエー、ヨーカ堂ぐらいですから、ヤオコーが食われることはないでしょう。「ダイエーは安いけどモノがちょっとねえ。ヤオコーは高いけど、美味しくて安心して買える。今日は、どっちに行こうか迷うわ」。通っているジムで女性の会話が聞こえてきました。ちなみにヨーカ堂は名前も出てきませんでした。

 実際、ダイエーはもうヤオコーの競争相手ではありません。かつてライバルだったイオン傘下に入ってからは、もうハラスメント状態と勘違いするほど食品の品揃え、商品棚の雰囲気は変わりました。

 ヨーカ堂もどうか。食品売り場がとても広いのですが、持て余している印象です。さまざまな食品をたくさん並べて、「なんでもあるよ」感が漂うものの、広い売り場から「ヨーカ堂だから、幸せな気分を味わる」感を探すのがたいへん。お客さんが目当ての商品を探す楽しみよりも、お店のスタッフが働きやすいように商品棚や製品の並べ方で工夫しているのかなと思う時もあります。

食品スーパーの極みめざす心意気

 ヤオコーの強さは、流行の言葉を使えば「食品スーパーの極み」をめざしている心意気でしょうか。生鮮品などはたくさん並んでいるように見えて、実は絞り込まれています。お店として勝負する商品については、ふんだんに商品棚のスペースを使い、お客さんに何を売りたいのかをわかりやすくアピールします。創業が八百屋さんだからなのか、鮮魚はランク外のレベルですが、「毎日の食生活を考えています」といったメリハリを明確に示す姿勢に納得します。

 その好例が高い人気を集めている惣菜コーナーでした。「でした」と過去形を使うのは、最近は輝きを感じない主因だからです。テレビなどで盛んに紹介される「おはぎ」、ハワイの海鮮丼「ポキ」、調理パンやピザが評判なパンコーナーは健在です。一見、いつも通り充実し、他のスーパーを圧倒しています。

強さの象徴、惣菜に異変?

 でも、惣菜の存在感そのもののオーラが薄らいでいる気がします。とんかつ、フライ、焼き鳥、中華など品揃えはしっかりと構えて待っていますが、時にはダイエー並みの惣菜を見かけます(注;あくまでも個人的な感想です)。これまでだったら、なんの抵抗もなく手を伸ばして買い物カゴに放り込んでいたのに、「やめとこ」と見送ってしまいます。

 営業利益率4%を超えるヤオコーです。同業他社はどんどん引き離されています。最近、ヤオコーと並んで注目されていた同じ食品スーパーのいなげやが赤字に陥り、イオン傘下に入りました。諸物価の急騰や消費者の選択の厳しさは予想以上のようです。ヤオコーですら、ライバルを圧倒する収益力を維持するためには、なにかに手を付けざるを得ないのだと推察しています。

厳しい経営環境と多店舗展開がヤオコー変調の引き金になるのか

 しかも、ヤオコーは全国のチェーン展開を一段と拡大する計画です。現在の200店から500店へと倍増するそうです。大規模な店舗展開はチェーンストア理論の大前提です。大量仕入れなどでコストダウンを進め、ライバルを打ち負かす原動力の源です。

 品揃えや店員のサービスを維持するため、店舗運営の均一化も必要です。ダイエー、ヨーカ堂、ジャスコなどはこの理論に従い、高度経済成長期に全国展開し成功を収めましたが、生活がある程度豊かになり、消費者の好みが多様化すると、このチェーンストア理論の落とし穴にはまります。「安いだけじゃダメ」「美味しいだけじゃダメ」。ダイエーは落とし穴から這い出すことができず、ヨーカ堂やイオンなど総合スーパーも苦戦を強いられています。

 ヤオコーの快進撃はチェーンストア理論のの隙を突き、「割安でおいしい惣菜」を消費者に評価してもらい、成長しました。しかし、諸物価急騰の逆風に多店舗展開の負担が加わり、ヤオコーにも経営の曲がり角を迎えている気がします。

魅力を覚える店は偶然にもCGC加盟店

 遊びを兼ねて全国を旅行していますが、現地の空気を知るため、かならず地元のスーパーに立ち寄ります。その土地の食べ物、味、好みを体感できるので、私にとっては一種のエンターテインメントです。そして「へえ〜」と声が出る店のほとんどがCGC加盟店でした。北海道や山陰を回った時、魅力を感じたスーパーがすべてCGC加盟店だったのにはホント、驚きました。

 実はCGCは入社直後に先輩と一緒に取材で訪ねた会社でした。1973年、東京・新宿のスーパー、三徳が中心になって全国の中小スーパーが参加して設立されたチェーン本部です。商品開発、物流、経営システムなどを共有して、大手スーパーに対抗できる協業組織をめざしています。現在は200社、4000店の規模にまで発展してます。

 もう40年以上も前の取材ですが、あの時にお会いした三徳の社長さんの熱気は忘れられません。「お客様に喜んでもらえるのが、自分たちの喜びで」。流通業を真髄を知った瞬間でした。あの熱気が今でも全国の加盟店にも伝わっているのでしょうか。

地域密着、客との距離感が感動を呼ぶ

 結局は、店の力は地域密着、お客さんとの距離感に尽きるのでしょう。ヤオコーは大手スーパーがわかっていても店舗に反映できないことを成し遂げ、稼げる食品スーパーとなりました。今度は、ヤオコーが総合スーパーが苦悶した経営の試練に直面しているのかもしれません。ヤオコーのこれから経営、店舗作りがどう進んでいくのかとても楽しみです。

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